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 ジョヴァンニ・バリオーネ(Giovanni Baglione、1566年~1643年)は、カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio、1571年~1610年)と同年代に活躍した画家で5歳年長でした。ローマにあって、カラヴァッジョの敵対者となり、カラヴァッジョを「名誉毀損」で告訴までしましたが、カラヴァッジョの最初の伝記を残したのも彼でした。カラヴァッジョは、自画像を残していませんが、バリオーネは,カラヴァッジョが鏡に映した自分自身をモデルに、「病めるバッカス(Bacchio malato)」(67cm×53cm、ボルゲーゼ美術館)の絵を描いたと述べています(“Le vite de’pittori, scultori et architetti dal pontificato di Gregorio Ⅷ del 1572 in fino a’tempi di papa Urbano Ⅷ nel 1642”)。




 ドイツのベルリンには、「ベルリン美術館 (Staatliche Museen zu Berlin)」という美術館・博物館群があります。プロイセン王家の歴代のコレクションを基礎としています。そのベルリン美術館を構成する美術館の一つに「絵画館(Gemäldegalerie)」がありますが、ルネサンス芸術の区画には、カラヴァッジョの「勝ち誇るアモール(愛の勝利、Amor Vincit Omnia)」が、ジョヴァンニ・バリオーネの「聖なる愛と世俗的な愛(聖愛と俗愛、Amor sacro e Amor profano)」と並べられて展示されています。



 英語圏でキューピッド(Cupid)といわれるローマ神話の「愛の神」は、ギリシアでエロス(Eros)、イタリアでアモール(Amor)またはクピード(Cupido)と呼ばれます。カラヴァッジョは、その庇護者の1人であった銀行家の「ヴィンチェンツォ・ジウスティニアーニ侯爵(Vincenzo Giustiniani、1564年~1637年) 」のために「勝ち誇るアモール」を描いたといいます。バイオリン、リュート、楽譜、鎧、直角定規、コンパス、ペン、月桂冠などが描かれています。直接的にはジウスティニアーニ家の偉業の暗示であったようですが、愛は学問、地位など人間の営為すべてに勝るという寓意ともとれます。




 しかし、このキューピッドにはかわいらしさはありません。その笑みもはにかんでいるのか歪んでいます。私は、好きにはなれない作品です。しかし、当時のローマの芸術家には大いに注目されたようです。ミケランジェロの彫像「勝利の天才」を念頭において制作されたものと言われており、「銀座テアトルシネマ 」で上映中の映画「カラヴァッジョ 天才画家の光と影」の中でも、バリオーネがカラヴァッジョに向かって「模倣ではないか」と非難しています。



 
 ヴィチェンツォの10歳年上の兄であったベネデット・ジュスティニアーニ枢機卿(Benedetto Giustiniani、1554年~1621年)」は、すでに著名であったジョヴァンニ・バリオーネに、この絵に対抗する絵画の制作を依頼します。バリオーネの「聖愛と俗愛」は、カラヴァッジョの「勝ち誇るアモール」を完全に意識しており、敬虔なカトリックであったといわれるバリオーネは、素行のよくないカラヴァッジョを非難するように、ルシファー(Lucifer、サタン、悪魔)とキューピッド(俗愛)との間に割って入り、カラヴァッジョの描いたアモールにそっくりなキューピッドを攻撃する構図となっています。身に付けている鎧もカラヴァッジョの描いたものとそっくりです。しかし、この絵はベルリン美術館にあるものとは異なります。ローマのバルベリーニ宮殿の「国立古典美術館(Galleria Nazionale d'Arte Antica di Palazzo Barberini)」にあるものです。

 この悪意に満ちた作品にカラヴァッジョは激怒したといいます。カラヴァッジョの周辺にいた人物に非難されたバリオーネは、別の作品を仕上げます。それが現在ベルリン美術館に展示されている作品です。




 身に付けていた鎧はカラヴァッジョの作品に描かれていたものとは異なるように描き直されていますが、代わりに、前作では背中を向けていたサタンがこちらを振り返っているように描き直され、その顔はカラヴァッジョにそっくりです。挑戦的ですね。しかし、画風はカラヴァッジョの影響を受けています。それほど、当時はカラヴァッジョの画風は衝撃的で多くの芸術家に影響を与えていたようです。バリオーネはやがてカラヴァッジョ風を脱却していきます。

 映画「カラヴァッジョ 天才画家の光と影」はテレビ用に製作された(90分×前・後編)ものを編集して130分ほどの映画にしたもののようですが、テレビ放映時、カラヴァッジョをよく知っているイタリア人は楽しんだことでしょう。

            (この項 健人のパパ)

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