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願うこと…~「鍵」(星新一著)を読んで考えたこと~

星新一さんのショート・ショート「鍵」を読んだ。
記憶が正しければ、濱口竜介監督のダイアローグカフェで
ワークショップの生徒さんのお薦めとして
本棚に置いてあったもの。(新潮文庫「妄想銀行」所収)

おもしろい。
願いは、かなわなくてもいいのかもしれない。
追いかけ続けることに意味があるのかもしれない。

……そんなふうに思ったこと、なかった。

鍵を拾った男の話。
この鍵でどんな部屋を開けられるのか、男の思いは膨らむ。
この鍵で開けた扉の向こうに何が待っているのか、
男は幸せを思い描き、扉を探し求める。
でも、鍵に合う鍵穴(錠)のついた扉は、なかなか見つからない。

この小説がすごいのは、
男が年をとって、疲れてしまうこと。
あきらめゆく中で、
男は、とうとう、鍵に合う錠を自分の部屋の扉につけてもらうことを決意する。

やっと、この鍵で開けられる扉ができた。
その晩、その扉を開けて、向こう側から、美しい女神が現れる。
お金でも地位でも恋でも栄光でも、
どんな幸運もかなえてくれるとささやく幸運の女神に
男は答える。
なにもいらない。今の私に必要なのは思い出だけ。それは持っている

星さんの文章は、そっけなく、愛想がないけれど
淡々としている分、味わいがある。
ひらがなと漢字の混ざり具合といい、
のっぺらぼうで、特徴もなく、平凡にみえた主人公が、
数頁の物語を読み終える頃には、
どこか味わい深い、忘れ得ぬ人になっていたりする。

願いは、夢は、他人(ひと)にかなえてもらっても仕方がない。
かなえるなら自分の力でかなえなくては。

たとえ、かなわなくても、
かなえようと、じたばたするところに人生がある、
そう教えてくれているような気がした。

かなわないのが人生、
それでも求め続けるのが人生。
だから、続くのが人生…。

人間の欲望は終わりを知らない。
あの大学に入りたいと願い、
入学できれば、いい成績をとりたいと思う。
次は、次はと、願いは、途切れることなく人を駆り立ててゆく。

あの人とつきあいたいと恋に落ち、
もし幸運にもつきあうことができたら、
今度は、いい恋人になりたいと思い、
いつか結婚したいと思うかもしれない。
結婚できたら、今度はちゃんといい夫婦になりりたい、
いいパートナーであり続けたいと、
やっぱり願いは無限に続いていく。

始まりは終わり、終わりは始まり…。

だから…言いたいことは、
かなえられなくてもいいかもしれないってこと。
むしろ、かなえられないことに意味があるのかもしれない。

こと恋に関しては、かなえられないことの方が多かった人生なので、
いまさらに、こんな言葉を見つけて、不思議な気がしている。

かなうわけがない、とすっかり諦観しつつ、
勝手に揺れるのが恋心・・だとしたら、
ひっそりと思い続けている時間が、
本人はそうでなくても、傍目からみたら、
実は幸せなのかもしれない。

ここまでいろいろ考えていて、
さて、私が今抱いてる願いって何があるのかふと考えた。
自分についての願い……?

美人になりたい……、嘘、
隈をなくしたい、きれいな肌になりたい……、無理、
頭よくなって、さらさら仕事をこなしたい……、無理、

いい文章を書きたい……、本当。でも、こればっかりはそう簡単にかなうわけない、
たくさん寝たい……、別にどうでもいいかも、
たくさん映画観たい……、というより、清水宏監督作品なら、全国の映画館訪ねてでも観たい

10歳若返りたい……、馬鹿、
彼氏がほしい……、今さら、無理
結婚したい……、何をおっしゃるうさぎさん、
遠くへ旅に行きたい……、いつかかなえばいい、

考えたら、案外と、自分のことって、
もう、なんにも願ってないのかもしれない?

大した望みも願いもなく、
ささやかな毎日の平安を願う。
楽しく明るく毎日を過ごせたら…、

ときに映画を観て、
たくさん本を読んで、
いっぱい書き物をして、
時々友達と楽しくお酒を飲んで、
好きな音楽を聴いて、
そんなつつましいこと。

身の丈に合うこと、というのが嫌で
ずっと3センチ背伸びして生きてきたつもりなんだけど、
いつのまにか、年をとったのかもしれない?

私って誰だろう?

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コメント
 
 
 
平凡が非凡にかわるとき (JNK)
2014-02-27 14:41:23
平凡ってつきつめていくと非凡になるんですよ。
わたしは平凡でいっこうにかまわないと思って
生きてきて、こどもにも平凡でいてほしいと
願っていますが、これを知ったとき愕然としました。
記事とあんまり関係なかったかもしれませんが、
こんな話していたら一晩でも飲み続けられますね。
ぜひまた近いうちに一献。
星新一さん、わたしも大好きです。
家の書棚にあったから中学生ぐらいのときによく読んでいました。
いま読んだら当時と全然ちがう感覚になるでしょうね。
考えていることを食べてしまうおばけの話が怖かったです。
 
 
 
平凡であること (JNKさまへ)
2014-02-28 00:08:00
「平凡が非凡にかわるとき」というタイトルで、いろいろ書けそうですね。意味するところはなんとも奥が深く、確かに、一晩、飲み明かせそうです!?
これから年度末で3月ばたばたしてますが、4月後半にはかなり落ち着きますので、ぜひ美味しいもの食べに行きましょう。
星新一さんのお話に出てくる登場人物も、ごく平凡なふつうの人たちですが、いつのまにか、非凡になってるような気がします。

たまたま街に出た帰り、ブックオフの前を通りががって(心斎橋!懐かしいですね)ふらりと寄ったら100円コーナーにあって(星さんに失礼ですが)買い求めたというわけです。短編で読みやすいし、なかなかおもしろいです。
 
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