映画の感想をざっくばらんに、パラパラ読めるよう綴っています。最近は映画だけでなく音楽などなど、心に印象に残ったことも。
パラパラ映画手帖
清水宏をたどる旅~人生は横移動…~

清水宏監督特集も残るあと5日。
といっても、平日の朝昼は仕事で行けないから、事実上今日で終了。
万感あふれる思い。
いろいろあった。
折角、気合い込めて行っても眠くなってしまったり、
清水宏の魔法も効かないのかと落ち込んだ。
ああ、この作品観たことあったと、冒頭数十秒してから気がついたり、
この作品、こんなにおもしろかったんだと、改めてちゃんと出会えたり…
今回まとめて観ることができて、
とにかくおもしろかった、楽しかった、嬉しかった。
今回、まとめて観ることで、
いろんな作品で、同じモチーフが繰り返し使われているのに気がついたり、
つながりを発見して、嬉しくなる。
清水宏の作品は
どれもあたたかく、やさしく、おおらかで、
観る人をゆったりした気持ちにしてくれる作品が多い。
子どもたちの親への一途な思い、
おかあちゃんと呼ぶ時の、はちきれそうな思い、
そんな子どもたちをあたたかい愛情で、包み込むように守る大人たち、
頭の中に、子供たちの元気な声の余韻がずっと残っている・・。
あのゆるやかなカメラの横移動は、どこまでも美しく、
ただもう、映画を観れたことの幸せに浸る。
どうしてこんなにきれいなんだろう。
どうしてこんなに吸い込まれるように心奪われるんだろう。
言葉を超えた体験。
登場人物の思いをのせて、カメラは動く。
◇人生は横移動・・。
当たり前のことだけれど、歩けば、見える景色は変わっていく。
前を向かずに、横を向いて前進すれば、ちょうど横移動のカメラ目線になる。
柱を横切り、柵越しに景色が進む。
その風景が、ひどく美しく見えることがある。
木々の向こうに見える人の姿や、建物、
歩くに伴い、ゆっくりと移りかわる風景の美しさ。
清水宏のカメラが横移動を始めたら、
息を止めて画面に集中しよう。
戸外だけじゃない、
家の外から家の中を映すカメラの美しさ。
きっと、そのとき、見えない何かが見えるから。
『踊子』のような戸外のシーンが少ない作品でも、
冒頭、浅草の下町の夜の屋外、
カメラは、家の屋根よりも少しだけ高いくらいの位置で、
ごみごみした家々の物干し台やら、屋根とかを
すうっと見下ろしながら、横移動する美しさにいきなり心奪われる。
◇横移動は思いを乗せて~
『次郎物語』で、友達のきれいなお姉さんと一緒に歩き、
橋の上で思わずらんかんの上に手をつたっていって、
ささくれだった木のとげが刺さる。
お姉ちゃんに血が出た指を吸ってもらう嬉しさ。
『母のおもかげ』で、
好きだけど、おかあちゃんと呼べず、ずっと意地をはっていた少年。
とうとう、継母の淡島千景は幼い娘を連れ、荷物を抱えてとぼとぼ家を出ていく。
遠ざかっていく姿を、
少年は向かいの豆腐屋のガラス戸の窓から見つめる。
カメラは、窓に水平に取りつけられた桟に沿って、
歩いていく二人をとらえながら、パンしていく。
まるで、少年が橋のらんかん越しに見つめるようなカメラに涙があふれる。
◇「おかあちゃん」
この世の中で一番美しい言葉、それは「おかあちゃん」。
子どもが「おかあちゃん」と呼ぶ。
あるいは「おとうちゃん」でもいい。
大好きな「おとうちゃん」「おかあちゃん」。
何かが起こって、親と遠く離れてしまったり、
継母やら、素直に呼べない事情があったりした時、
それでも、幾多の試練を乗り越えて
やっと、呼べることがある。
「おかあちゃん」
「おとうちゃん」
万感あふれる思いがこもった響きに心が震える。
あるいは、目前におとうちゃん、おかあちゃんはいないけれど、
おとうちゃんの服に向かって、おかあちゃんの服を手にとって、
呼んでみることだってある。
自分で口にして、自分で照れて、でんぐり返りをしたりするのは
『母のおもかげ』。
『風の中の子供』では、おとうちゃんの服にくるまって泣いてしまったっけ。
『母を求める子ら』では、ふいに聞こえてくることもある。
養護施設を去り、故郷に帰ろうとする三益愛子。
こども達の「さようなら」という声にまじって、やおら聞こえてきた
澄んだ声の「おかあちゃ~ん」という声。
あの世に旅立ってしまった実子の口から
ついぞ聞くことのできなかったこの言葉が、
ふいに天から降ってくるように聞こえてきた奇跡に
思わず振り向く三益。
清水宏の映画をたどる旅は、 いろんなことを教えてくれる。
時に、童心に帰る。
無心になる。
あるいは、こどもを守りたいと思う。
母にはなれないけど、母のようになりたいと思ったりもする。
心洗われてばかり。
小津安二郎監督のように、
あちこちで繰り返し特集上映されるようになったらいいと心から想う。
そうして、何度も観返すことで、どんどん深くしみこんでゆく。
清水は、詩だ。
だから、何度も繰り返し味わいたいと願う。
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