噛みつき評論 ブログ版

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有名人の欺瞞と無責任

2018-01-22 00:30:10 | マスメディア
 昨年の9月4日「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が結成された。結成の記者会見で強調されたのは「憲法改正の発議そのものをさせない世論をつくっていく」ことだという。これって憲法改正に対する国民の権利を奪うことにならないのか、という疑問が生じるが本題ではないのでこれは措く。

 この会の発起人は19名、下に記すがほぼ有名人ばかりである。カッコ内に生年月日を示すが超高齢者が目立つ。最高齢は1922年生まれの瀬戸内寂聴氏、もう少しで100歳である。一昔前の「九条の会」の呼びかけ人の平均年齢(結成時)は77歳なので似たような構成である。高齢は知的能力の低下をもたらす。似ているのは高齢ばかりではない。私の知る限り、九条の是非を問う団体に必要と思われる外交・防衛の専門家が一人もいないことも共通している。

 元祖「九条の会」のホームページは今も更新(更新日付が翌日になっていた)されているが、そこには「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」のことが一言も載っていない。同じようなものが二つもあるとややこしいと思うが、よくある仲間割れか、後ろ盾となる政治党派の対立による原水禁と原水協の分裂のように広言したくない事情があるのだろう。

 「いわゆる平和憲法だけで平和が保障されるなら、ついでに台風の襲来も、憲法で禁止しておいた方がよかったかも知れない」とは田中美知太郎氏の名言であるが、9条によって戦争を防ぐことができるか、は簡単な問題ではない。軍事的な空白域が戦争の誘因になることは明らかであるし、世界の大多数の国々は戦争を防ぐために抑止力(防衛力と報復攻撃能力)を重視してきた。9条によって平和を守るという方法はあまり例のない方法であり、失敗の危険が高いと思われる。したがってこれを主張するには十分な根拠が必要である。

 福祉予算の配分や地震対策の問題なら素人が賛否を言うのはいい。しかし9条の問題は戦争や国の存立にも関わる重大な問題である。9条の効果として、日本が戦争を仕掛ける危険を減らすことがあるが、逆に外国から仕掛けられる戦争を促進させる効果がある。高齢の作家や作詞家、宗教家、憲法学者、病院長などが外交・防衛問題について的確な判断が出来るだけの見識があるとは考えにくい。外交・防衛の素人ばかりが集まって、根拠もないのに9条があれば平和が保たれると断定・主張することはまことに無責任である。

 「流言は知者に止(とど)まる」という言葉がある。知者は根拠のない言説、怪しい話を聞いても他へ伝えないという意味である。別の言い方をすると「流言は愚者によって広められる」ということになる。「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」では9条の是非に関する判断能力のない人たちがどこかで聞いた話を自分で考えもせず声高に叫んでいるというわけである。有名人だけに広める効果は何百倍、何千倍もあるだろう。無責任さも何百倍、何千倍である。

 彼らの主張が正しいか、間違っているかはすぐにはわからない。それは恐らく何年も先になるだろう。多分その時、彼らの多くはこの世にいない。無責任さは完璧に全うできるというわけである。ただ、間違っていた場合、残された若い世代はたまったものではない。外交・防衛の十分な知識なしに広告塔になる行為はまことに軽率である。

 しかし彼ら有名人は広告塔に利用されているだけとも言える。彼らは流言を広めているが、彼らもまた信じ込まされているわけである。欺瞞を右から左へ流しているだけである。もっとも性質(たち)が悪いのはこの会を裏で仕組んだ連中、或いは組織であろう。健康食品の宣伝のように、見識のない有名人を利用して、根拠を示すのでなく感情に訴える方法には国民の判断力をバカにしている気持ちが感じられる。

 発起人は以下の通り(敬称略) ()内は職業・生年

有馬頼底(臨済宗相国寺派管長1933)、内田樹(神戸女学院大学名誉教授1950)、梅原猛(哲学者1925)、落合恵子(作家1945)、鎌田慧(ルポライター1938)、鎌田實(諏訪中央病院名誉院長1948)、香山リカ(精神科医1960)、佐高信(ジャーナリスト1945)、澤地久枝(作家1930)、杉原泰雄(一橋大学名誉教授1930)、瀬戸内寂聴(作家1922)、田中優子(法政大学教授・週刊金曜日編集委員1952)、田原総一朗(ジャーナリスト1934)、暉峻淑子(埼玉大学名誉教授1928)、なかにし礼(作家・作詞家1938)、浜矩子(同志社大学教授1952)、樋口陽一(東北大学・東京大学名誉教授1934)、益川敏英(京都大学名誉教授1940)、森村誠一(作家1933)