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鷲とライオン

2018-01-08 00:13:59 | マスメディア
 年末から正月にかけて、テレビはお笑い芸人の天下となる。どこの局も同じように見える。細かく見ると違うのだろうが、私にはわからない。その中で1日の朝、NHKのBS1が放送したドキュメンタリー「鷲とライオン」は大変優れたものであったのでつい紹介したくなった。昨年の6月頃から放送されものの再放送のようだ。制作は残念ながらNHKではなくフランスのRoche Productions、2016年の作品である。「鷲とライオン」の全後編、「アフターヒトラー」の前後編、それぞれ45分のものが合計4篇である。モノクロ映像の多くがカラー化されている。現在はユーチューブで見ることができる。

 「鷲とライオン」はヒトラーとチャーチルの対決を軸に欧州での戦争を描いたもので、「アフターヒトラー」は戦後の凄まじい混乱を描いている。ヒトラーのもたらした惨禍は想像を絶するもので、欧州での死者は4000万人とされる。腕利きの悪魔でもここまではできないと思う。ドイツ人の死者だけでも600万人、日本の310万人の2倍近い。当時の人口は日独ほぼ同規模なので、ドイツの惨状にも驚く。日本には何故あれほどひどく負けるまで戦争を継続したのか、という意見があるが、ドイツよりマシである。

 また日本軍の悪行についてはいろいろな機会で教えられてきたが、ナチスの蛮行には遠く及ばない。またソ連の赤軍も負けていない。ベルリンを占領して200万人を強姦したと番組では説明されるが、この数値には終戦時の人口280万人からしても誇張があるように思う。南京事件と同様、立場によって数値は変わる。正確な数はわからないからどうにでも言えるわけである。

 戦争終結までは描いたドキュメンタリーは多いが「アフターヒトラー」では戦後の大混乱にも目を向けている。欧州各地でドイツ人が集団で虐殺された例、何故かユダヤ人がまたも迫害を受けたことが描かれている。食料などの物資不足、故国に帰ろうとする膨大な人々の移動、混乱を極める様子がわかる。国と国、民族と民族の対立、憎しみ、無秩序が想像もできない惨禍を引き起こす。

 第二次大戦が起きた要因はいろいろとあるだろう。しかしヒトラーという特異な人物なしではこのような戦争は起こっていなかっただろうと思われる。条件が揃えば個人の力が歴史を動かすことがあるわけである。

 1938年9月のミュンヘン会議では、チェコスロバキアのズデーテン地方の帰属を要求したヒトラーの要求を英仏が受け入れた。ミュンヘン協定は英首相チェンバレンの宥和政策の失敗として有名だが、ヒトラーは数カ月後に協定を破った。宥和政策によって僅かな期間の平和を得たが、第二次世界大戦の原因のひとつになったとされている。ヒトラーによって騙されたのである。ヒトラーは初めから約束を守る気などなく、時間稼ぎに使ったのだろう。

 歴史は繰り返す、という。とは言っても当たるとは限らない。しかしいま直面している北朝鮮の脅威はミュンヘン会談の状況と少し似ている。北朝鮮は軍事力の増強を最優先し、支配しているのは平気で約束を破る人物である。対話ができるのかさえ、疑わしい。異常な人物が支配する全体主義の国は大変危険である。

 このドキュメンタリーは戦争のもたらす惨禍を説得力豊かに描いている。誰もが戦争はこりごりだと思うだろう。優れた反戦ドキュメンタリーでもある。その後、まもなく欧州はソ連の脅威に直面する。二度までも全体主義国の脅威に向かうことになる。そしてソ連の脅威に対しては北大西洋条約機構(NATO)を結び、集団的安全保障で対抗することになる。だが欧州で、平和憲法を掲げたら戦争は起こらないという楽観的な国は見あたらない。

 この優れたドキュメンタリーがNHKのBSで放送されたことは残念である。地上波ならもっと見られたに違いない。BSの影響力は小さく、ユーチューブの視聴回数も500を超えていない。NHKが民放の真似をしてお笑い番組を流す必要はないと思うが。