噛みつき評論 ブログ版

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抽象化の落とし穴

2010-12-16 13:46:11 | マスメディア
「言葉がひとり歩きする」という表現が使われます。この意味は、ある事象とそれを表す言葉とが一致しないために、簡単な言葉が広まることによって元の事象が広く誤解されるということだと思います。短い言葉による抽象化あるいは概念化の危険を示したものと言えるでしょう。

 意図的な抽象化によって意味が大きく変えられることがあります。代表は戦時中よく使われた「玉砕」「散華」という言葉で、潔(いさぎよ)い、あるいは美しいといったイメージがありますが、死屍累々の玉砕現場のむごたらしさとは大違いです。

 これとは逆に「後期高齢者」という言葉には「まもなく死ぬ人」という暗いイメージがあり、メディアがこの言葉が好んで取り上げた結果、改正案そのものが否定的に見られてしまった感があります。

 「安保反対」をスローガンとした安保闘争は大規模なものでしたが、条約の内容を理解していたものはほとんどいなかったといわれています。多くの学生は抽象的な言葉で表される単純なイメージに動かされたのだと思われます。日本に有利な方向へと改定される内容が正確に伝わっていれば恐らく違ったものになっていたでしょう。

 昨年の衆院選挙では民主党に支持が集まりましたが、多くの人は民主党の詳細な実態を理解した上で投票したわけではなく、メディアが描く民主党の断片的なイメージに促されたと言えるでしょう。中には実行不可能なマニフェストに騙された人もいるでしょうけれど。

 複雑な事象をそのまま理解することは大きな努力が必要です。ご親切にも、メディアはそれを抽象化された単純なイメージとしてわかりやすく伝えます。それは恣意性を潜(ひそ)ませる絶好の機会でもあります。

 世の中を動かすものは事象そのものではなく、長文で記述されたその詳細でもなく、それを抽象化した言葉や単純な概念だと言えるでしょう。


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