噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

モラトリアム法案を深読みすると

2009-10-01 09:17:35 | Weblog
 中小企業向け融資と個人向け住宅ローンの返済を3年間猶予させるという「モラトリアム法案」が大きい話題になっています。テレビ出演の機会が多い亀井金融担当相ですが、そのご説明はなかなか難解です。

 「元本返済猶予」は国民新党のマニフェストに明記されていたそうで、引くに引けない事情があり、また鳩山首相も衆院選の応援演説で、元本返済猶予法を制定することを繰り返し公言されていたそうで、いろいろとご事情があるようです。

 しかし、返済猶予は銀行の不良債権を増やし新規融資を控えさせ、逆効果になるという反対論も、またモラルハザードを促進するという意見も十分な説得力があるように感じられます。細部はこれからということなので、いま断定的なことは言えませんが。

 まあそれはともかくとして、気になるのはこのような異論噴出の案が実現の方向に動くという政府の見識です。政権内の一部に慎重論はあるものの、首相などの主流は否定的とは思えません。政府の真意がよくわからないのですが、そこには何らかの深謀遠慮が隠されているのでは、と勘ぐりたくなります。

 銀行は破綻に瀕して政府(税金)による救済を受けました。またJALなど経営危機の大企業に対する税金による支援も実現される気配です。今回の「モラトリアム法案」は中小企業と住宅ローンの借り手に返済の猶予をしようというものです。そしてこれによる銀行の損失には政府による支援が検討されているとも聞きます。

 つまり、銀行→大企業→中小企業・個人と救済措置が広がるわけです。「苦しい人には救いの手を」というと聞こえがよいのですが、この救済は「借りたものは返す」というモラルに対する感覚を鈍磨させる効果を持ちます。

 杞憂だとは思いますが、今回の「モラトリアム法案」は将来の国債の償還猶予に対する布石ではないか、という受け止め方も可能です。いままで君達が苦しい時には助けてやったのだから、次は政府が助けてもらう番であると。

 もうひとつ気になることがあります。民主党のブレーンとされる榊原英資氏は、国民の金融資産が約1500兆円あるから国の800兆円程度(実際は約860兆円)の借金は問題ないし、また10兆円や15兆円の国債の追加発行もまったく問題ない、と発言しています。

 しかし、借金の限度額は政府の返済能力(税収額)によって決まるもので、貸し手(国民や銀行など)の資産によって決まるものではありません。限度を超えれば、利払いが加速度的に増えて借金地獄に落ちるのはあたりまえです。

 国民の金融資産が潤沢であることは国債の国内消化の条件ですが、一旦デフォルト(債務不履行)の懸念が生じれば、それは意味をなしません。デフォルト懸念は残高に対して返済能力が疑われるときに生じます。

 国民の金融資産が潤沢だから政府の借金は大丈夫という説明は1500兆円の金融資産をあてにしているようであり、いずれ踏み倒すか、高率の資産課税を視野に入れているようにも聞こえます。まさかとは思いますが、まあ長期国債(10年)の利回り動向(*1)には少し注意した方がよさそうです。

 国債の突然の暴落に続く金融恐慌を描いた幸田真音さんのベストセラー小説「日本国債」が出たのは00年でした。当時の政府債務残高は510兆円程度であり、現在の約860兆円はさらに深刻な状況です。

 『OECDは9月30日、対日審査報告書(2009年版)をまとめ、日本の政府債務残高の増加に関連し、金融市場の信認を維持するためには、より詳細でかつ信頼のおける中期的な財政再建計画が必要との認識を示した。
 OECDは、2010年に政府の粗債務残高が国内総生産(GDP)比200%、純債務残高はGDP比100%に達すると見込まれるとした上で、「財政の持続可能性に深刻な懸念を惹起している」と指摘』(東京 30日 ロイター)

 「深刻な懸念」という厳しい見方もあり、デフォルトは必ずしも杞憂とばかり言えないと思います。しかしこの厳しい見解と国内のマスコミの論調とには大きい隔たりがあります。さてどちらを信ずべきでしょうか。

(*1)信用リスクの影響は長期債の価格に強く反映されます。既発債では発行体の信用が低下すると価格が低下(=利回りが上昇)します。


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (フラット)
2009-10-03 11:23:11
マニフェストは「確実」という意味を含みます。従ってマニフェストに挙げられた政策は実施されなければなりません。そうした意味で与党は正しいことをしようとしているのでしょう。むしろ問題は選挙時にはそうした政策にたいした扱いをせずに自民党叩きをしてきておきながら、いざ現実のものになりそうになると大騒ぎするマスコミと財界なのではないかと思えてなりません。
そしてもう一つ。マニフェストは個々の有権者にとって賛成できるものもあれば受け入れ難いものもあるはずです。そうした政策をオールインワンにして個別の「選択の余地」を奪ってしまっている点です。元来政党政治とは多様な政策の選択を選挙によって有権者の民意に委ねるというような意義があるはずです。しかし政権を担当する可能性がある政党の数が限られてくれば選択の多様性は限定的になっていかざるをえないでしょう。
今回の選挙で民主党に投票した有権者の殆どは(おそらく)民政や政治主導などの改革に期待したのでしょう。外交や国家安全保証には目もくれず、ひたすら内政ばかりに焦点をあててきたマスコミのおかげ?で。
そのマスコミがいまさらなにをかいわんや、です。そしてこれほどまでの大勝を与党にもたらした有権者も相応の覚悟は必要でしょう。

国は国際社会での信用を失い、金融機関は国際競争力を減退させ、国内の債務者はモラルを失う。
この先、教育、国防、景気、歴史認識などなど、数々の取り返しのつかない事態が予想されます。
全てが有権者の民意の反映ではないにしろ、選んだのは国民であり、それを歪んだカタチで主導したのはマスコミなのでしょう。


しっかしこれってホントにモラトリアムそのものですよね。アメリカ(FRB)はドルを乱発してばらまき、自国の国債を大量保有している(もはや心中するしかない)外国に買わせまくっている。日本は国債の格付けも下がり、買い支えてくれるのは国内法人や一般投資家のみ。いずれは誰も見向きもしなくなるのではなかろーか?

いっそ政策実施をモラトリアムしてくれればいいのに。
返信する
Unknown (okada)
2009-10-03 18:21:25
選挙で勝つために、安易にマニフェストを決めたということ問題ですね。また八ッ場ダムのような具体的な方針をよく検討もせずに決めたのも問題です。強行することで強権政治の印象を与えます。

それにしても亀井大臣の行動、合理的には理解できません。

国内法人や一般投資家がいつまで買い支えてくれるかということですが、現在10年もの国債の利回りは1.25%ですから、市場はリスクを感じていないということでしょう。

記事を書き直しました。
返信する
Unknown (フラット)
2009-10-03 21:30:18
デフォルトという単語まで出てきましたか……
さすがにそこまで与党も阿呆ではないと信じたいですが……。

今朝の日本テレビ系番組(シンボウ氏がMCをしていたので、多分)に亀井氏が出演していましたが、たしかに「なに言ってんだ?コイツ」的な発言を繰り返していました。先行き不安な大臣にその筋の最高責任者を委ねねばならないのは一国民として激しく不安です。(頑張っている中小企業を助けるとか、バブル崩壊後の銀行は国に助けられていながらも義務を果たしていなかったのだから云々とか。そもそも突然の総量規制でバブルを弾けさせたのも自己資本比率の設定で銀行を貸し渋りに追い込んだのも政府ではなかったのか?そしてそれが引き金になって体力のない中小企業や零細企業が窮地に追いやられたのに……しかも亀井氏はその当時の与党にいたにもかかわず! そのツラの皮の厚さには尊敬の念すら覚えます)

結局優秀で野心的で国益優先で信念を持った政治家こそが国を救い導くに足る「人材」たりえるのであろうと思うのですが、今も昔も老害で自尊心が高く利権優先で支持母体を持った政治家が国を疲弊させているのでしょう。

そりゃあ若いやつらも政治に興味無くすわ……
返信する
Unknown (okada)
2009-10-03 23:59:28
私もその番組を見ました。高橋氏らは途中で質問する気をなくしてシーンとなっていましたね。
おっしゃる通り、有能で公を優先する政治家が必要です。
返信する

コメントを投稿