噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

男の顔

2010-10-18 07:51:16 | Weblog
 リンカーンは閣僚として推薦された人物に対し「顔が気に入らない」と言って同意せず、「顔で決めるのですか」との質問に対し、「40歳を過ぎれば、誰でも自分の顔に責任を持たなければならない」と答えたそうです。これは大宅壮一の有名な言葉、「男の顔は履歴書」とほぼ同じ意味で、ある程度の歳になれば顔に対する責任は親ではなく自分にあるということでしょう。

 優しい顔、怖い顔、善良そうな顔、悪辣な顔、神経質な顔、鈍感そうな顔、噛みつかれそうな顔・・・、いろんな顔があり、我々は顔から様々な情報を得て他人を判断する材料にします。大宅壮一が「男の顔」と限定した意図は知りませんが、私にとっても男の顔の方がより多くのことがわかるように感じます。女の顔の解釈が難しいのは思わず知らず「邪念」が入るからかもしれません。

 むろん腕白小僧のような顔をもつ人が有能な人格者であったり、優しそうな人物が残虐な人間であったりと、例外は少なくありません。しかしその相関はかなり確かである思われ、人を判断する材料としての有用性は十分にあると思います。また顔という、もっとも目立つ表看板にその内面の状態が書き記されているということはたいへん興味深いことです。

 単独行動をするネコには表情の必要がなく、ほとんど無表情ですが、共同生活を営むヒトには30個ほどの表情筋があり、複雑な表情を作ることできます。渋面ばかり作っているとそのような顔になるといわれるように、長年にわたる様々な表情の集積が顔に表れるのだ、と考えられるようですが、まあ本当のところは知りません。

 心理学者ポール・エクマンは、怒り、悲しみ、恐怖、驚き、嫌悪、喜びを表す表情が文化に依存したものでなく、人類共通の生得的なものであることを示したとされていますが、表情によるコミュニケーションは社会集団には大きい意味をもちます。したがって他人の表情からその意味を読み取ることは重要であり、顔を注視することで、表情だけでなく、顔から様々な情報を読み取る習性ができたのでしょう。

 少し前、核密約を取り上げたドキュメンタリー番組を見たのですが、密約の「主人公」佐藤栄作元首相の歴史を刻んだような締まった顔がとても魅力的に見えました。その大きな業績から生じる心理的なバイアスがあるかもしれませんが、吉田茂元首相や明治の元勲達の顔はなかなか魅力的なものが多いと感じます。

 歴史上の人物達と比べるのは少々酷かも知れませんが、残念ながらこのような魅力ある顔を今の政治家に見出すのはちょっと困難です。最近、政治家の質が低下したとよくいわれます。一部の例外はあるものの、たしかに顔を見てなるほどと思うことがよくあります。もしリンカーンにならって「顔が気に入らない」などと言えば、誰もいなくなった、なんてことになるかもしれません。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿