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自然災害と原発事故災害

2018-07-29 20:25:55 | マスメディア
 先日、京都縦貫道を天橋立まで走る機会があった。丹波と呼ばれる地域で、数百メートルの山並が延々と続く。高い位置を通る道路からは山々に挟まれた、決して広くはない農地が広がる。そして集落のほとんどは農地の端、つまり山の際にある。恐らく山に接した傾斜地であろう。大雨で山が崩れれば最も被害を受けやすい地帯である。推測であるが、このような危険な場所に家を建てたのは中央の平坦地を農地にあてるためであったのではないか。農地はそれほど貴重であったのだろう。

 このような風景は山間部の農村に多く見られるが、それは大雨による土砂災害が過去にはそれほど頻発していなかったことを示しているのではないだろうか。もし頻発していれば、沢筋を避けるとか、もう少し建てる場所を選んでいただろう。

 斜面の土砂崩れは短時間の降雨量が増えると飛躍的に増加するものと思われる。300mmの降雨では耐えられる地域でも400mmでは一部斜面が崩壊、500mmではその何倍もの箇所の斜面が崩壊するという具合にである。つまり降雨量が50%増えれば、災害は200%増加するといった関係である。河川の排水可能水量も上限があり、それを超えると一挙に被害が生じる。不連続な関係である。降雨量の増加は見かけ以上に深刻な問題なのである。

 近年、大雨や台風など、気象現象が以前より激しくなってきているとされる。これは確かだと思われる。それが温暖化によるものかどうかは多少の異論もあるが、温暖化によるものと考えるのが大勢である。自然災害によって1970年から2008年の1年あたりの平均として、全世界で毎年1億6000万人が被災し、約10万人が死亡しているそうである(防災白書平成22年版)。気象災害が多くを占めるが、地震・火山災害は除外する必要がある。だが元の数値が大きいので、異常気象によって1割増えたとしても、増加数は膨大である。

 「銃・病原菌・鉄」でピュリツァー賞を受賞したジャレド・ダイアモンドは文明の衰退に関する問題を好んで取り上げる。彼は人類の未来にとっての大きな脅威は原発よりもCO2による温暖化だと言う。確かに現在、原発事故による死者はチェルノブイリ以外では皆無に等しいが、気象災害の増加による死者の増加は何万人の規模になり得る。再生可能エネルギーが限定的である以上、原発なしでは解決が困難な問題である。

 原発事故による死者が出れば、それは明らかに原発事故によるものと断定される。たとえ一般人の死者がひとり出てもメディアは大騒ぎする。しかし温暖化による気象災害によって死者が10万人増えたとしても、それは推定しかできない。統計上、関係が疑われるにすぎないし、メディアもあまり関心を持たない。しかし土砂崩れで死んでも、原発事故で死んでも死に変わりない。もし気象災害によって数百万の死者がでるような事態になれば、世界は真剣に化石燃料の使用を考え直すだろうが、それまでは有効な手が打たれることは多分ないだろう。まあ、社会というのはそういうものである。


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