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スポーツ界と独裁者とマスコミの親和性

2018-08-05 23:43:51 | マスメディア
 他人の喧嘩を見るのは楽しい。権勢を欲しいままにしてきた悪玉がようやく立ち上がった善玉に倒されるシーンはとくに喜ばれる。アマチュアボクシング界のドン、山根会長は弱音を吐かず、達者な悪役ぶりを見せているのが一層興味をかきたてる。勧善懲悪のドラマのようである。まあ彼の反論や特異な話しぶりは百年前なら説得力があるかもしれないが、現代で通じるかどうか。

 スポーツ界は絶対服従を求られる世界である。集団競技で絶対服従が必要なことはわかる。集団で戦う軍隊と同じである。個人競技ではあまり必要はないと思うが、それはスポーツ界全体に染みついているのだろう。これがスポーツ貴族を生む土壌である。絶対服従の環境は独裁者にとって実に都合の良いものである。しかし競技における絶対服従は必要でも、組織の運営に絶対服従は必要とはいえない。

 スポーツ団体の幹部は大会への出場者や助成金の配分の決定権を握ることで選手への支配を確かなものにする。彼らは団体に君臨するスポーツ貴族なのである。以前にも紹介したが、プロスキーヤーの三浦雄一郎氏の話である。1959年、三浦氏は青森県の代表として全日本に出場する筈であった。当時青森県は代表枠が4人であったにもかかわらず、出場者を2人に絞る方針であったことに対し、三浦氏は「せっかくだから、あと2人出したらどうですか」と要望した。会場では後ろの方から「ろくでもない役員が全部県の負担でぞろぞろ選手よりも余計に行くくせに、どうして選手を出せないんだ。役員といったって酒飲みに行くだけじゃないか」との発言。そして「選手失格だ」の声が役員席から上がり、三浦氏はアマチュア資格剥奪、永久追放となった。合理性が通らない世界なのである。

 追放という最終手段もあるわけだが、これでは選手が黙るしかない。組織のあり方として大いに疑問である。数年前、多くの国で、幹部がその立場を利用して選手たちに性的な関係を強要する例が多数報告され、これは世界的な問題となった。スポーツ団体が他方面に精を出してもらっては困るのである。スポーツ貴族の存在は日本だけではないらしい。

 相撲、柔道、レスリング、アメフト、ボクシングとぞろぞろ出てきたが、これらは偶然ではないと思う。多くのスポーツ団体に染みついた体質がたまたま発覚したのだろう。マスコミはこれら不祥事の報道で大いに潤っている。ひとつの問題が発覚すると1ヵ月近くもの間、ニュースショーの主要テーマとなる(実はたいした問題ではないのだが)。より面白く、長続きさせるために、悪玉は過去の汚点まで公開され、より悪辣に描かれる。

 しかしスポーツとマスコミは多くの点で利益の一致する関係である。スポーツ中継は手間もカネもたいしてかからず、また創意工夫も要らない。しかし一定の視聴率を稼ぐことができる。マスコミにとってスポーツ界はありがたい存在なのである。しかも、しばしばニュースショーを華やかに飾る不祥事を提供してくれる。

 ちょっと気になるのは、スポーツ記者たちはこのようなスポーツ界の古い体質を知っていたのではないか、ということである。「日本のボクシングを再興する会」は何度も橋本聖子議員に会って相談したそうだが、橋本氏が解決に動いたとは聞かない。橋本氏はスポーツ出身だからあたりまえのことと思ったのではないか。それとも無能なだけか。スポーツ記者も恐らく知っていながら問題意識を持っていなかったのではないだろうか。

 独裁者が支配する組織で、内部の者が告発するのは大変な勇気と覚悟がいるが、外部の記者なら安全に告発できる。古い体質をここまで温存してきた責任の一端はマスコミにあると思う。また民主主義を好み、絶対服従や独裁を嫌うマスコミがスポーツ界と仲良くしてきたことにも違和感がある。

 さて、レスリング、アメフト、ボクシングの次は朝日新聞の高校野球連盟だろうか。ここでは今なお連帯責任制が生きている。部員の一人が喫煙や飲酒をすれば、あるいは他部の生徒が暴力事件でも起こせば、野球部全員が出場停止となる。関係のない生徒まで罰を与えられるという、実に不合理な制度である。こんなものを認めている背景には前近代的な考えが支配しているに違いない。人権好きの朝日がこれを認めているのが腑に落ちない。もしこれを是とするなら、誤報事件を起こした部局は関係ない人も含めて首を切らなければならない。社長が辞めれば済むというわけにはいかない。


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