噛みつき評論 ブログ版

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マスコミが遭難救助を左右する?

2018-08-19 21:11:46 | マスメディア
 山口県で行方不明になっていた二歳児が3日目に無事発見された。発見したのは78歳のボランティア、尾畑春夫さん。それも捜索開始30分での鮮やかな成果であった。警察と消防は延べ550人で捜索していたそうである。しかし尾畑さんは偶然の幸運に恵まれただけではないだろう。彼なりの経験や知識による優れた捜索能力があったと思われる。図らずも「プロ」である警察と消防は面目を失った形になった。

 尾畑さんのプロフィールも報道されたが、仕事を辞めた後、ボランティア活動に身を投じるという爽やかな生き方に賛辞が集まった。なかなか真似できることではないが、定年後の生き方のひとつのモデルを世に知らしめた意味は小さくない。

 上記の例は早くからマスコミが取り上げ、警察や消防による大規模な捜索が行われた例であろう(発見できないという結果に終わったが)。また大阪府富田林市では警察が逮捕した容疑者を逃がしてしまったが、この捜索には毎日3000人も投入しているそうである。ドアの開閉を示すブザーの電池を外し、高い塀には脚立を置いておくなど数々の失態のためもあるだろうが、驚くほどの人数である。また、この4月、愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から受刑者が脱走した事件では連日1500人体制で捜索が行われた。どちらも連日の大報道があった。

 一方、5月29日、新潟県阿賀野市の五頭連峰の山中で、二人の遺体が見つかった。ヘリによる発見と聞く。二人は5月5日に入山した父子で子供はまだ6歳である。12日までの1週間に投入された捜索隊は1日平均で30人足らずである。13日以後60人に増員されたようだが、既に8日経過しており生存の可能性が低く、手遅れの感がある。

 この遭難事故はあまり大きく報道されなかった。この時期、大きく報道されていたのは5月7日、新潟市で起きた、線路に置かれた小2女児の事件である。猟奇的な事件だけに飛びついたのであろうが、こちらは気の毒にも死亡が確定している。他方の山の遭難は進行中のことである。救助が間に合えば助かる可能性があった。

 また山岳遭難は当事者の過失による部分もあるため救助に対する批判もある。しかしこの遭難は何ら落ち度のない子供が含まれている。父子は衰弱していく中で恐怖の夜を幾度過ごしたのだろう。6歳の子供には過酷すぎる体験である。しかしメディアの関心は低く、小2女児の事件の方に集中した。その報道の少なさが捜索態勢に影響しなかっただろうか。

 今回の遭難は6歳の子供が含まれ、また最後の連絡から長い時間が経っていないので捜索場所はかなり限定された筈だ。誰が捜索の規模や範囲を決めるのか知らないが、言うまでもなく発見が遅れるほど救命は困難となる。また県警は当初6日午後6時ごろとしていた認知時間を6日午前9時20分ごろに訂正した。県警は初動の遅れを認め、謝罪したという。6日まる1日を無駄にしたわけである。父子にとっては実に貴重な1日である。

 救い出すためにはできるだけ早く、できる限りの規模で捜索を行うのが原則である。今回のような、戦力の逐次投入という初歩的な誤りがあることに驚く。またマスコミ報道は捜索態勢をも左右するのではないかという疑念が消えない。救えたかもしれないという思いを払拭しきれない後味の悪さが残る。日本の警察は優秀だとされてきたが、本当にそうなのかと思ってしまう。