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建前論の有害性

2018-08-12 22:22:30 | マスメディア
 文科省幹部から便宜を受けた見返りに息子を合格させたことが発端となり、東京医大の様々な不正入試が明らかになった。思わぬところからバレて、関係者は不運を嘆いておられることだろう。むろん女子受験者や多浪者を不利にするような採点方法を裏でこっそりとやっていたことに弁解の余地はない。しかし女性医師数の制限をすることに関しては、実情を知る医療関係者からは一定の理解があるようだ。

 逆に女性差別だと激しく批判する議論もある。次の8月3日付の朝日の社説は代表的なものであろう(以下抜粋)。
『女性医師の休職や離職が多いのは事実だ。だがそれは、他の多くの職場と同じく、家庭や子どもを持ちながら仕事を続けられる環境が、医療現場に整っていないためだ。厚生労働省の検討会などでも整備の必要性がかねて指摘され、医療界全体の課題になっている。
 その解決に向け先頭に立ち、意識改革も図るのが、医療、研究、教育を担う医大の大きな役割ではないか』

 まるで鬼の首を取ったかのような激しい批判だが、批判は女性医師数を制限するために行われた不正な方法ではなく、制限するという考え自体を対象にしているように見える。背景には、男と女とはあらゆる点で平等でなければならない、という建前論があるようだ。

 男女の差別をなくしようというのは現実性のない建前論である。体力や性格は異なり、仕事に対する適、不適がある。体力の差は言うまでもないが、知的な分野でも違いがあるのは間違いない。クラシック音楽では女の作曲家はほとんどいないし、冷静な判断を求められる軍の司令官や参謀には例外的に存在するだけである。これらの理由を社会的なものにだけに求めるのは無理がある。適応性の違いという理由も認めなくてはならないと思う。性差は歴然とあるのだから。もし成績順に採用して女性医師が7割になったとなれば、医療の機能に問題が起きるだろうことは容易に想像できる。眼科と皮膚科ばかりになったりするかもしれない。

 建前論は単純化した理念をすべてに適用できるかのように言う。そして現実との齟齬(そご)には目を瞑(つむ)る。いわば粗雑な、子供のような議論である。それはたいてい現実をよく知らない人によってなされる。上記の朝日社説がよい例である。現実の複雑な事情を知る必要がないため安易に行えるが、有害性も高い。ただ人権、差別といったスローガンのように、単純でわかりやすいため思考力の低い人にも賛同されやすい。しかし現実を知らない建前論では適切な解決は難しい。東京医大が裏で点数操作をやった背景にはこうした朝日流の建前論があったのは間違いないだろう。

 戦争に対する姿勢でも同じことが起きる。いつも8月になるとメディアは戦争の悲惨さを取り上げる。戦争は決してやってはいけない、平和が何より大切と。その通りだが、ではどうしたら戦争を避けられるという議論はあまり聞かない。平和が大切という建前論だけで終わっているわけである。世界中のほとんどの国が軍を持っているが、その主な目的は侵略の抑止、つまり平和のためである。侵略のために軍備を持つ国は膨張政策をとるごく一部の国だけである。こうした基本的な認識すら十分でない。このような単純な建前論から、9条があれば平和が保たれる、という愚かな議論が生まれる。世の中はそれほど単純ではないのである。