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ローマ人の物語

2018-07-01 22:44:57 | マスメディア
 生物学的には女であるが中身は男ではないか。「ローマ人の物語」著者の塩野七生氏にはそんな印象を持つほど、本書は男の視点から書かれているようである。彼女の描くローマ史は、戦争も数多くあるが政治や経済に関する記述が多い。ローマを中心に建設される多くの街道や上下水道などのインフラについても詳しく書かれ、それは税制や税率、金利、金融危機、福祉政策にまで及ぶ。メロドラマは全くない。こんな調子だから女の読者にはたぶん歓迎されないだろう。

 「ローマ人の物語」は発行当時、かなり話題となった本であるが、15巻という量に恐れをなしているうちに時間が過ぎ、最近ようやく読みだした。ずいぶん間の抜けた話とバカにされそうだが、出版から20年以上経ってから紹介するのは、忘れ去られるには惜しい本だと思うからである。

 とりわけ、政治体制に関しては多くを割いている。共和制から帝政へと変わっていく過程に様々な政治形態が試みられるが、ローマでは2千年以上前に、政治体制への強い関心があったことに驚かされる。塩野氏は極めて冷静に、そして面白く描いている。

 ローマ史と言えばギボンの「ローマ帝国興亡史」が有名で、昔、読んだが、あまり面白くなかった。「ローマ人の物語」は、まだ7巻半ばまでしか読んでいないが、壮大な叙事詩としてもたいへん魅力的である。各巻の末尾に載っている参考文献は大変な量であり、超労作と言ってよい。背景にある著者の歴史観は余計な思想に影響されることなく、現実的で好感が持てる。

 国民の置かれた状況、リーダーの能力、政治体制、外国との関係、などが複雑に絡み合って歴史が流れていくわけだが、それらがリアルに再現されているような気分になる。リーダー達の人物像、性格や能力にも言及されていて、このあたりは著者の想像がかなり入っていると思うが、その分析がなかなか興味深い。

 推理小説のようにスラスラと読める文章ではなく、しかも15巻(文庫版では2倍)もあるので、忙しい人にはちょっと勧められない。しかし政治家を志す人にはぜひ読んでもらいたいと思う。当初、たくさん売れたらしく、アマゾンでは1円で売られている巻も少なくない。暇を持て余す人には格好の退屈しのぎとなるだろう。