噛みつき評論 ブログ版

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国民の半数が集団的自衛権を知らないとは…マスコミの職務怠慢

2007-08-23 22:07:59 | Weblog
 8月15日、憲法9条についての討論番組がNHKで放映された。番組そのものは、どこかで聞いたような左右の極論の応酬が主で、交わるところ少なく、出演者の人選に問題あり、という印象である。

 注目したのは番組途中で紹介された「集団的自衛権」に関するNHKの事前調査の結果だ。それによると集団的自衛権の意味を知っている者は44%、知らないものは49%であるという。

 国民の半数以上が集団的自衛権を知らないまま、国政選挙で投票が行われ、選ばれたものが政権を担う。この事実を平然と見過ごせる人はかなりの楽天家である。集団的自衛権はいま問題になっているだけでなく、日本外交の基本方針にかかわる大問題だ。

 選挙制度が妥当なものと信じられているのは、大多数の見識・判断が信頼に足るものだという前提があるからだ。そのために有権者には必要な情報が与えられていなければならない。集団的自衛権を知らずしてまともな見識が得られるだろうか。

 必要な時事問題を知らせることはマスメディアに課せられた仕事である。マスメディア以外に役割を担えるものがない。解説書はあるだろうが、大多数が読むことを期待するのは現実的でない。

 もし、ある小学校の卒業生の識字率が半分であったり、四則演算ができなかったら、その学校の教育システムが問われるだろう。しかし有権者が知るべきことを知らなくてもメディアがとがめられることはない。

 新聞・放送業界は事実上、新規参入が不可能な、独占に近い寡占状態にある。とりわけ放送業界は電波という公共財を独占的な使用が認められている。業界別では放送業11社の生涯給与は平均額4億4287万円で突出している(2位は石油・石炭製品業13社の平均額は2億9104万円―週刊東洋経済06年10月7日号による)。それは独占とあくなき利益追求精神のたまものである。

 メディアは必要なことを広報する機関であり、その機能をほぼ独占している。視聴率が上がるからといって、娯楽だけでよいわけがない。必要なものを伝えるという役割を独占と引換えに国民から負託されていることを忘れてはならない。それが民主制度を支えるメディアの職務なのである。

 新聞が職務を忘れていることを自白している例がある。02年1月、18~69歳の日本人の科学の基礎知識への理解度は14カ国中12位であると発表された。その直後の「天声人語」は、設問「抗生物質はバクテリア同様ウィルスも殺す」の正答率が低いことに触れ、「そういう基礎知識を医師が日常の診療で患者に伝えていれば結果は違ったかもしれない」と述べている。医師が、患者一人ひとりにそのような「基礎知識」を伝えろという。どう考えても、それは新聞やテレビの職務であろう。

 一面のコラムは新聞社を代表する見識をもつものが担当するのがふつうである。その一流の執筆者が、職務放棄を平然とするようであれば、新聞社全体の職務の自覚も怪しいものだ。

 さして重要でもない、柏崎刈羽原発の変圧器火災は深く国民の脳裏に刻み込まれた。中華航空の火災も詳細に伝えられた。火災原因が判明すればその詳細は全国民の知るところとなるだろうが、いかに詳しく知ったところで何の役にも立たない。だが、集団的自衛権が半分も知られていないという事実は国の将来の選択に禍根を残す恐れがある。

 メディア業界には、必要なことを周知するという「国民から負託された職務」を自覚していただきたい。国民の関心が低いことであっても、重要なことは興味深く、わかりやすく伝える努力が必要だ。