日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

続「佐野氏の対応に学ぶ“他山の石”」~広報対応のまずさは雪印、船場吉兆並みか

2015-08-19 | ニュース雑感
オリンピックエンブレムの模倣問題の渦中にあるデザイナー佐野研二郎氏については、その広報対応的観点からの問題点を前回取り上げさせていただきましたが、その後も氏の事務所を含めた対応のまずさが続々露呈しております。企業の不祥事対応に役立つであろうその後の「他山の石」を拾っておきましょう。
★前回エントリ
http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/6caf9c71735b2a1541a7c216a904a9fb

前回のエントリの後に出てきたのが、サントリーのキャンペーンエコバックのデザイン盗用疑惑。この問題が発覚した時の「広報」担当である佐野夫人の対応がひどかった。
「確かにトートバッグのデザインを監修したのは佐野です。しかし、細かい実務を担っていたのは何人かの"部下"です。その部下たちの話を聞いた上でないと、返答はできません。今は事務所が夏季休暇に入っているので、調査にもう少し時間がかかります。そもそも、ゼロベースからデザインを作り出すことは一般的ではありません。あくまで一般論ですが、どこかで見たデザインから無意識に着想を得ることは、珍しいことではありません」

まず第一に、不祥事発生時の広報対応として「事務所が夏季休暇に入っている」はあり得ない回答です。事務所が休みであろうとなかろうと、盗用疑惑の当事者としては速やかに調査して回答するのが広報対応の基本ルールです。時間的引き延ばしをすればするほど、メディアの「書き得」状況を作りだすだけであり、何の得にもなりません。

さらに、「デザインを監修したのは佐野です。しかし、細かい実務を担っていたのは何人かの"部下"です」の発言。事実関係が分からないと言っている前に他人のせいです。これは、メディアおよび報道を目にした一般人の心証をも著しく損ねる発言です。不祥事会見で、「この不祥事をどう考えているのだ」と突っ込まれた社長が、「私のせいじゃありません、悪いのはミスした担当者です」と言っているようなもの。先生に怒られた子供が、友達のせいになすりつけて責任逃れしているのとなんら変わらないでしょう。

それと、「ゼロベースからデザインを作り出すことは一般的ではありません。あくまで一般論ですが、どこかで見たデザインから無意識に着想を得ることは、珍しいことではありません」の部分。事実確認事項を何も提示することのない段階で、話し手のしかも当時者本人でない人間からの言い逃れとも取れる主観的な物言いは、取材側の心証を損ねる以外の何ものもないということも抑えておく必要があると思います。

この後、佐野氏側はトートバックの疑惑デザイン8種を取り下げ、HPに謝罪と説明のコメントを掲載しました。
内容は一応謝罪こそしてないるもののあくまで監修者責任としてのそれにとどまり、「広報担当」のコメントをなぞるようなもので「部下のせい」がありありでした。「このトートバックは部下に任せたからこんなことになったけど、オリンピックエンブレムは佐野個人が手掛けているので問題ない」という物言いに受け取れ、完全に責任転嫁を自己の正当性説明に利用すると言う、まさに「部下を売る」かのような論理展開。火に油以外の何ものでもないわけです。
http://www.mr-design.jp/

現実に、このコメント公表以降メディア、ウェブでの佐野攻撃は一層激しさを増しました。広報が口頭で対応したそれに対するメディアの反応をなぜコメントを出す段階で活かせなかったのか、全く未熟な広報対応であると言わざるを得ないと思います。それと、疑惑を認めて一部デザインを下げたと言う状況下において、なぜ本人が直接会見しないのかです。ここで会見をしないでいつするのか、です。さらなる「書き得」状況になるのは明らかなのですから。全く広報対応が見えていないとしか言いようがありません。

さらにさらに昨日、京都の講演会に現れた佐野氏。本人はマスコミを完全無視。写真撮影も拒否した上で、またもや広報担当(報道によればこれも佐野夫人)が、「(東京五輪公式)エンブレムは辞退するべきでは?」との質問に対して、「1個ミスしたらすべてダメになるんですか? エンブレムの制作過程に何か問題があるのですか?」とまくし立てたという、“逆ギレ”までしてしまったという最悪の対応をしています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150818-00000119-sph-soci

会見をしないから追い掛けられるわけで、追い掛けられたくないのなら一刻も早く会見を開いてあらゆる疑問に正面から答える以外にないのです。写真撮影拒否に“逆ギレ”というのは、何が最悪かと言えば直接取材をしたメディア担当者だけでなくその先にいる読者の敵対心を煽る行為であり、取材対応への“逆ギレ”が国民感情を逆なでし最終的に破たんへの道を歩ませた例は雪印事件をはじめ数多くの実例が存在するからです。“逆ギレ”だけは絶対にやってはいけない、広報対応であると強く申し上げおきたいと思います(メディアは往々にして“逆ギレ”を誘発するような質問をしますが、絶対に乗ってはいけません)。

メディア無視、部下への責任転嫁、逆ギレ‥一連の佐野氏関連の広報対応は稀に見るまずさであり、現状の佐野ご夫妻の対応は先に挙げた雪印乳業社長や船場吉兆おかみ等と並ぶ、最悪不祥事広報対応の殿堂入り相当の「他山の石」であると思う次第であります。もうここまで来てしまうと挽回は不可能でしょう。企業の広報担当の皆さま、不祥事広報の悪い例としてしっかりと勉強材料にしていただきたいと思います。