日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ソニーの失敗に学ぶべき社外取締役増員案

2014-12-24 | 経営
金融庁がコーポレートガバナンス・コード(企業統治の行動原則)の原案を公表し、その内容が各方面で話題になっています。

ポイントはいくつかあるのですが、一般に分かりやすいと言うことで特に話題になっているのは、上場企業における社外取締役の複数設置の義務化です。従業員からの内部昇格で取締役に就任するケースが多い日本企業においては、代表取締役を頂点とした取締役間の主従関係が強く働き、あるべき中立的なガバナンスの維持が難しいということがその理由です。

簡単に言うと外部からのチェックを働かせることで経営者の暴走や私物化を防ぎ、投資家、株主の利益を守ろうということ。当面は2名以上を義務づけて徐々にその比率を上げ、最終的には経営者と、ごくわずかの社内昇格役員を除いて社外取締役を中心とした正しくガバナンスが機能する取締役会をつくろうというのが今回の原案の狙いであります。

確かにおっしゃることは一見確かそうですし、非常に合理性の高い物言いであるように見受けられるのですが、現実は果たしてそうでしょうか。私は個人的にこの社外取締役を増員していく件に関しては、一定の条件が必要であり単に数を増やすだけのやり方ではまずいと考えております。なぜならば、いち早く社外取締役中心の取締役会運営に移行した国内企業が、必ずしもガバナンスにおいて十分な機能を果たしているとは思えないからです。

その代表例はソニーです。ソニーは「経営と執行の分離」を掲げ03年に委員会等設置会社に移行。取締役会のメンバーの大半を社外取締役に入れ替え、一見ガバナンスを強化した経営体制に移行したかのように思われました。事実、この欧米型経営体制とも言える形式への移行は、「さすがは世界のソニー」と当時のメディアおよび識者等から大絶賛され、今後のあるべき日本企業の経営のあり方であるかのように言われてもいたのです。

しかしその実は違っていました。当時のCEO出井伸之氏はこの社外取締役を中心とする経営体制を使って、ガバナンス強化とは真逆の方向に組織運営を運んでしまったのです。報酬の私物化、人事の私物化、組織運営の私物化…。あらゆる私物化で私腹を肥やし、ソニーはダメ企業に転落の一途をたどりました。氏は話題性を高める意味で、ソニーの社外取締役に日本の著名経営者を次々と誘い込み、その方針は現在も引き継がれています。日産カルロス・ゴーン、トヨタ張富士夫、富士ゼロックス小林陽太郎、オリックス宮内義彦、中外製薬永山治、ベネッセ原田泳幸…。歴代錚々たるメンバーが名を連らねているのがお分かりいただけるでしょう。

では彼らが本当に社外取締役として機能してきたのか、あるいは現在のソニーの社外取締役が機能しているのか。答えはノーです。常識で考えれば分かることですが、東証一部上場の超一流企業の第一線で指揮を取られている方々が、同じ上場企業であるソニーの取締役会に名を連ねても、審議内容に関しての事前調査や検討の十分な時間など取れるはずもなく、また同じ上場企業経営者の立場から他人の会社に対してそ思い切った発言などできるはずもないのではないでしょうか。ましてや自社に対する愛情を持って、私物化に走るトップを排除するなど到底できるハズがないのです。

出井氏の狙いはまさしくそこにあったのでしょう。特にゴーン氏の登用は、氏の当時の日本企業としては破格の報酬を知った上で、出井氏自らの報酬額をアップさせるための「刺客」として呼びこんだとさえ言われています。そして思惑通りに、億単位の報酬をせしめ、さらには人事権の私物化により、ストリンガー、平井と代々子飼いを後任に据えることで自身の闇の権力を保ちつつ、三代にわたる巨大私物化企業を作り上げたのです。

赤字垂れ流しの状況下においてもなお、ストリンガー、平井と億単位報酬は続いており、現時点では遂に無配転落をしてもなお、この異常な経営者高額報酬状況は継続中なのです。出口の見えない業績悪化の中で、普通の上場企業ならとっくに辞任に追い込まれているであろう平井CEOのクビに、誰も鈴をつける者などいないのです。このような状況でありながら、同社の社外取締役中心の役員会(現時点は12人中9人が社外取締役)は十分なガバナンスが効いていると言えるでしょうか。どこからどう眺めてみても、答えはノーでしかないのです。

では、社外取締役制度最大の問題点はどこにあるのか。上場企業の現役経営者を社外取締役に据えること自体が、所詮は無理なのです。そしてまた、経団連等で経営者仲間になっている人間にガバナンスの効いた社外取締役機能を期待することなど、到底できないのです。そうです、金融庁が考えるように社外取締役の導入により上場企業のガバナンス強化をはかろうとするのなら、ポイントは社外取締役の数ではなく、その人選にこそあるべきであると、ソニーの組織私物化の例は教えてくれているのです。

確かにガバナンス強化に向けたあるべき社外取締役の人選は難しいですが、最低限でも「現役上場企業取締役の他社社外取締役兼務は不可」という項目は必要でしょう。あとは海外企業を含めた成功例からしっかりと学びどのような人選を義務付けるのか、金融庁は来年6月とも言われる施行前に十分な検討を重ねる必要があると私は考えます。社外取締役増員の方針は、ソニーの事例を他山の石として慎重に進めるべき問題なのです。