日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“リストラ頼り”ソニーに思う、今年の企業経営のあり方

2014-01-06 | 経営
あけましておめでとうございます。年末にソニーの追加リストラの話が報道されました。昨年の締めに書こうと思ったネタですがいろいろあって書けませんでしたので、新年にあたり企業経営者の皆様向けに、本年の経営指針へのヒントという切り口からこのネタに関連した話を書いておきます。

ソニーのリストラ報道は国内5工場で給与の高い中堅社員や管理職が対象。ここで重要なことは、同社は平井CEO就任初年度の2012年度にも1万人規模のリストラを実施しているという点です。この時のリストラとアベノミクス効果による円安の恩恵もあって、12年度決算は連結で5年ぶりの最終利益を計上。平井氏は昨年の株主総会で、「私の経営方針の成果。来期はエレキ部門を必ず黒字化させる」と胸を張りました。

しかし、海外戦略の見込み違い等により今年度に入ってなお主力のエレキ事業の赤字体質脱出が思うに任せず、今回の追加リストラに当面の企業の行く末を委ねざるを得ないという状況に陥ったわけです。要するにコストカットと相場の恩恵で一時期ピンチを脱したものの、企業全体としての次なる一手、すなわち大枠の事業戦略が正しく描けていなかったということに他ならないと言えるでしょう。

同じような話を別の業界でも見た気がしませんでしょうか。日産自動車です。カルロス・ゴーンCEOは、日産の経営危機を救った名経営者と持ち上げられることも多い方なのですが、本当にそうでしょうか。氏が手がけた日産リバイバルプランは、言ってみれば単なるリストラ策に過ぎません。確かに、それによって死に体の組織が息を吹き返したわけですから、企業再生家としての半分は大いに評価できると思います。

しかし、その後の日産は成長軌道を描けずに苦しみもがいています。アベノミクス効果により、トヨタ自動車をはじめ国内の自動車産業が軒並み復活に沸く中、一人蚊帳の外といった感が強く漂っています。最大の理由は成長戦略の描き違いでしょう。その代表例と言えるものが、EV車戦略。トヨタが90年代からいち早くより現実的なハイブリッド車戦略を具体化したのに対して、日産はよりエコロジーを追求したEV車開発にこだわり続けました。

しかしEV車は普及に向けて電源供給スタンド問題などまだまだ越えるべきハードルが多く、結果として「17年3月世界で150万台」とした量産型EV一号車リーフの当初販売計画は現時点で10万台にも達しない見込み違いとなり、達成期限を4年延長するという事態に陥っているのです。ゴーン氏は名コストカッターではあったものの、名経営者と言い難い状況にあります。日産は今、成長戦略について根本からの立て直しが迫られていると言っていいでしょう。

企業マネジメントの重要要素である「戦略」は利益増を目的として立てられますが、これには「仕組み戦略」と「仕掛け戦略」の2種類があります。リストラなどの支出削減は「仕組み戦略」あたり、売上増強等の成長軌道を描く戦略が「仕掛け戦略」なのです。「仕組み戦略」は言ってみれば景気悪化による業績低迷や予期せぬ経営危機などの際には不可欠な「戦略」ではありますが、それはあくまで急場しのぎ。そこに成長軌道を描く「仕掛け戦略」が伴ってはじめて、経営は長期安定的な運営を見込むことができるのです。

ソニーも日産自動車も結局のところ、「仕組み戦略」は首尾よくはまったものの「仕掛け戦略」にしくじったという状況にあるのだと思います。現状のような景気が回復基調にある局面では、景気低迷下における“我慢の経営”から“飛躍の経営”への転換点でもあり、「仕掛け戦略」の良否は残酷なぐらい明確に企業の回復度合いに現れてしまうのです。ハッキリ申し上げて、「仕組み戦略」は単に支出を絞ればいいので誰にもできるとも言え、「仕掛け戦略」の良否こそが経営者の本当の評価に関わる部分なのです。それができない企業の「負け組」入りは、容易に確定してしまうのです。

もちろんこれは大企業に限った話ではありません。中小企業とて同じこと。私の周囲でも、「景気回復なんて大企業だけの話。我々中小企業まで回ってきやしない」などと、ただただ指をくわえて恨み言を口にする経営者の方が見受けられますが、ハッキリ申し上げて景気回復が実感できるか否かはあなたの「仕掛け戦略」如何にかかっているのです。

長いデフレ不況を乗り切っていた経営者の皆さん、このままじっとしているだけで景気回復を実感できると思ったら大きな間違いです。高度成長やバブル景気など二度とやってこないのですから。とにかく成長軌道に導く「仕掛け戦略」を正しく描きそれを早期に推し進めることです。企業経営は本当に難しい時代に入りました。今年の企業経営は大企業、中小企業問わず「仕掛け戦略」の良否が問われる年になるであろうと、念頭に思う所存です。