(3)既視感
「それで、実際のアウシュビッツはどうだったの?」
「正門では、言語別にガイド・ツアーがありました。英語・ドイツ・フランス語・スペイン語のガイドはありましたが、日本語のガイドはありません。そもそも日本人にはまったく出会いませんでした。」
「中国人や韓国人は?」
「いません。それで、英語のガイド・ツアーに入りました。」
「収容所の入口には、有名な『 ARBEIT MACHT FREI 』 の鉄製の看板がありました。『働けば自由になる』とは何とふざけた標語でしょう。これを見た瞬間に気持ちが沈んでいきました。」
「収容所に連れてこられたユダヤ人は振り分けられたのでしょ?」
「そう、働けない囚人は焼却炉行き、働ける囚人は労働に駆り立てられたわけ。」
「途中、ガイドにはぐれ、後は一人で見学しましたが、行く先々で、これは見たことがあるという『既視感』に囚われました。なぜだろうと考えたら、アラン・レネのドキュメンタリー『夜と霧』で見た映像を追体験しているのだとわかりました。」
「私もあれは見たわ。」
「アウシュビッツの後は、隣りのビルケナウに行きました。これがとてつもなく大きな収容所で、アウシュビッツより大きかったですね。」
「そう、アウシュビッツ=ビルケナウ収容所として世界遺産になっていたわね。」
「正門から奥に真直ぐ線路が伸びていて、その長さが1km あるそうだ。そこを歩いていると、ナチスの途方もない蛮行が伝わってきて、怖気をふるったものさ。」
「・・・」
「加えて、途中から雨が降ってきて、冷気に身が縮みました。7月だというのに。」 (2013/1)