静聴雨読

歴史文化を読み解く

至福の八年間[母を送る]・3

2010-08-24 06:47:32 | 介護は楽しい
(3)介護老人保健施設

2006年3月から入院した母は、褥創の手術を受けて、幸い成功した。そして病院のソーシャル・ワーカーとの相談に入った。
「まもなく退院できますが、退院後のケアの体制はどうなさいますか? 施設を利用されますか?」

それまでは、自宅でホームヘルパーの支援を受けながら、家族で介護していたが、2006年初めから入院がちになるに従い、自宅での介護に限界を感じつつあった。母は、自分の足で踏ん張る力が弱くなり、ベッドからポータブル便座に移動させるにも、一人の介助ではおぼつかなくなってきた。

しかし、施設を利用することは考えていなかった。2005年秋に、母に「施設はどうか?」と聞いてみたことがあったが、「絶対いや。入ったら出られなくなる。」との答えが返ってきた。これは一理ある考えで、自宅で過ごせる間は、そのほうが母にとってよい。そう思い、施設の検討は怠っていた。

しかし、今や、状況は変わった。認知症の兆候も出てきた現在では、母の判断を仰ぐことが難しく、病院のソーシャル・ワーカーのアドバイスを聞いてみることにした。それによると、一般的には、退院後のケアの体制には5通りある、とのこと。

・自宅で介護する(介護保険・ケアマネージャーによるケア)→実際上、困難。

・介護老人保健施設に入所する(介護保険・施設によるケア)→ある程度健康面に不安がないことが条件。

・長期療養型病院に入院する(健康保険・病院によるケア)→十分なケアが受けられるか、不安。

・特別養護老人ホームに入所する(介護保険・施設によるケア)→待ちが多く、なかなか入所できない。

・介護付き老人ホーム(介護保険・ホームによるケア)→費用が高い。

それぞれ一長一短がある。それで、介護老人保健施設と長期療養型病院を集中的に見てまわり、いくつかの介護老人保健施設に申し込みをした。併せて、特別養護老人ホームにも申し込みをした。 

介護老人保健施設(「老健」)は介護保険制度に基づき運営されている施設で、介護の必要な(「要介護1」以上の)老人を受け入れて、リハビリテーションなどを実施して、介護の程度を重くしない(「要介護度」を低くする)ことを目指している。そのため、長期療養型病院(入院期間に制限がない)と異なり、入所期間は原則として3ヶ月に限られている。
国の指針が、長期療養型病院への入院患者を減らして医療費を削減することにあるので、今、介護老人保健施設は続々と建設されている。

ところが、実際に介護老人保健施設を見てまわってわかったのだが、そこでの入所許可条件が「ある程度健康面に不安がないこと」であり、これが大きなネックとなりそうだった。厳密にいえば、「ある程度健康面に不安がない」老人などいない。そこに矛盾が見られる。

介護老人保健施設では入所許可を出す前に、家族との面接、医者からの医療情報の取り寄せ、関係スタッフの合議などを行うのが通例のようだ。
母の場合は、座っていられる時間が確保できるか、と、褥創の手術後の加療が必要ないか、の2点が、入所許可の出る・出ないのポイントだった。申し込みをしたいくつかの介護老人保健施設では、判断が分かれた。入所許可が出ないところ、入所許可を出すところ、入所許可を与えるのに先立ってさらに本人の面接を行うところ、という具合に。

結局、本人の面接を行って入所許可が出たある施設にお世話になることにした。
新築の施設で、明るさ、清潔さ、通路などの広さなど、ハード面は申し分ない。ケアの充実度やスタッフのレベルなどのソフト面は、新設の施設なので、いまひとつわからなかった。

とにかく、入所施設を確保して安堵するとともに、病院に転所を申し入れた。2006年6月のことで、入院から3ヶ月経っていた。 

(4)特別養護老人ホーム

「お申込になっておられた特別養護老人ホーム(「特養」)に今年度中に(2007年3月末までに)入れる見込みになりましたが、希望されますか? 改めてお伺いいたします」と突然あるホームから連絡が入った。

確かに、役所に2006年度下期の特養への申込をしていたが、申込者が非常に多く、役所の係員からも、「今期(2006年度下期)中の入所はまず難しいと思います」と釘を刺されていたので、期待をしていず、申込をしていたことさえ忘れていたので、驚いた。

老健の入所期間の3ヶ月が切れるころから、他の老健への転所を考え、数ケ所の老健から入所許可をいただいていた。しかし、いずれも「空き待ち」で、その状態がずっと続いていた。それで、喜んで、特養に入れていただくことにした。

特養のスタッフに話を伺うと、入所期限に制限はなく、経費は老健に比べて月に数万円ほど安いことがわかった。申込が多いわけだ。これで、転所先を探す煩いがなくなった。

母に、「今度、引っ越すことになったよ」と告げると、「そう」とだけ返ってきた。転所のことは理解したようだが、それ以上、関心は示さない。母は家に帰りたいと思っているからだ。 (2010/8)