国産コロナワクチン、供給へ着々 熊本市のKMバイオ、生産設備は来春稼働
2021年7月12日 (月)配信熊本日日新聞
医薬品製造販売のKMバイオロジクス(熊本市)が、開発中の新型コロナウイルスワクチンの供給に向け着々と準備を進めている。生産設備は来春には稼働可能となり、量産体制が整う。同社は2023年度としている実用化時期の22年度への前倒しも視野に入れるが、その実現には、今秋開始する最終段階の臨床試験(治験)が最初のハードルになる。
同社の菊池研究所(菊池市)にある新型インフルエンザ用のワクチン原液製造設備。ウイルス培養タンクの設置など、新型コロナワクチン製造に使うための改造工事が進む。本年度末までに、3500万回分のワクチンを半年間で生産できる体制を整える。
同社が開発するのはウイルスの感染性や毒性をなくした不活化ワクチン。210人を対象にした初期段階の第1相と第2相の治験結果は、8月にまとまる見込みだ。重篤な副反応の報告はなく、「狙いである安全性はクリアできそうだ」と永里敏秋社長。有効性を示すデータの集計を急いでいる。
実用化に向けた最初のハードルが、国内企業がまだ1社も進んでいない最終段階の第3相治験だ。KMバイオは、通常の手法である偽薬を使わず、既に承認されているワクチンと有効性を比較する方向で審査機関「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」と協議している。
ただ、ワクチン接種が進む国内では数千から数万人規模の治験者の確保が難しくなる可能性もある。このため、同社は国内に加えて東南アジアなどで実施することも検討している。
ワクチンの承認審査については、政府が6月に閣議決定した「ワクチン開発・生産体制強化戦略」で、緊急事態で特別に使用を認めるための制度について年内に方向性を出すとした。永里社長は、第3相の治験の簡素化や承認審査の迅速化といった前提条件を挙げつつ「実用化時期を22年度中に前倒ししたい」と強調する。
同戦略には、国によるワクチン買い上げを検討することも盛り込まれた。ワクチン生産には設備だけでなく原材料費や人件費もかかる。永里社長は「買い上げシステムがあれば企業は投資リスクを軽減できる」と評価。既存ワクチンとの競争激化も予想される中、生産面での後押しになることを期待する。
メッセンジャーRNA(mRNA)使用といった新技術による米ファイザー製や米モデルナ製の接種は国内でも進む。ただ、従来技術で製造する国産不活化ワクチンの待望論も根強い。永里社長は「早期実用化の期待に応える義務がある」と気を引き締める。(田上一平)