花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「虫籠文様」について

2012-07-05 | 文様について


presented by hanamura ginza


まもなく七夕ですね。
先日、九州では豪雨にみまわれ、
東京でも不安定な天候がつづいていますが、
七夕の夜には、晴れて天の川がみれると良いですね。

梅雨明けは今月の中旬から下旬となるところが多いようなので、
もう少し梅雨は続くようですが、
気温は少しずつ上がり、
晴れた日には、真夏を思わせる暑さになっています。

先日、夜道を歩いていると、
ジージーと鳴いている小さな虫の声が、
どこからともなく聞こえてきました。
雨上がりの肌寒い夜でしたが、
その虫の声は夏本番が間もなくやってくることを感じさせるものでした。

季節の移ろいを感じさせるものには、
さまざまなものがありますが、
虫の声も、そのなかのひとつですね。

日本人は、カエルの鳴き声やセミの声で夏の到来を
スズムシやコオロギの声で秋の訪れを
ごくあたりまえのように感じてきました。
しかし、こうした感性は世界中ではめずらしく、
日本や中国などの東アジアにかぎってのようです。

とくに日本人は、言語をつかさどる左脳で
虫の声を聞いているとのことで、
童謡の『虫のこえ』にあるような、
さまざまな虫の声の違いを聞き分ける感覚は、
日本人ならではのようです。

虫の声を楽しむという文化が、
いつ発生したのかは定かではありませんが、
奈良時代に編纂された『万葉集』には、
虫の声を詠んだ歌が多数見受けられ、
すでにこの時期には日本人の感性にあったようです。

平安時代には、
野山で捕らえた虫を庭に放して声を楽しむ「野放ち」や
野山に赴き、虫の鳴き声を楽しむ「虫聞き」も盛んでした。

また、虫の声を屋外で聞くだけではなく、
スズムシやコオロギを捕らえて、
装飾が施された虫籠に入れ、
屋内でその音色を楽しむ「虫あそび」も
貴族たちのあいだで流行しました。

こうした情景は、
『源氏物語』や『枕草子』にも
書きあらわされています。

江戸時代になると、
平安時代の貴族たちの間でおこなわれていた「虫あそび」が
庶民の間にも広まったことで、
さまざまな虫を売る「虫売り」も登場しました。
「虫売り」は、虫だけではなく、
さまざまな種類の虫籠も売り歩いていました。

そのような虫籠には、竹でつくられた素朴なものから
蒔絵を施した豪奢なものまで、
いろいろな素材、形状のものがあったようです。

虫籠は文様化もされ、
当時つくられた小袖や帷子などの意匠に配され、
それによって夏の風情があらわされました。



上の写真の名古屋帯は昭和初期頃につくられた
絽の小紋からお仕立て替えしたものです。
扇型の虫籠と団扇を配した意匠からは、
この季節ならではの和の情緒が感じられますね。

虫売りの光景は、
昭和の初期ごろまで多く見られたようですが、
戦後はカブトムシやクワガタなどの昆虫が人気となったこともあり、
しだいにその数が減っていきました。

ちなみに、日本の文化に造詣が深かった明治時代の文学者、
ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲は、
虫の声を愛でるという日本の文化にいたく感銘し、
「虫の音楽家」というエッセーを書いています。

その中には、当時の縁日で店を広げていた虫売りの様子や、
虫売りが登場した過程、
虫の声を詠んだ和歌などが記されていて、
虫の声を聞くという慣習を通して
日本文化の美しさが独特の観点で紹介されています。


花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 7 月 19 日(木)予定です。

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