花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

帯仕立ての道具 -はさみ-

2008-03-04 | 帯仕立ての道具

presented by hanamura


「はさみについて」

紙を切るとき、布を切るとき、植木を切るとき、髪の毛を切るとき…。
「切る」ための道具「はさみ」は、生活のなかでひんぱんに登場します。
「はさみ」は、切るものによってかたちや大きさもさまざまです。
普段は気にしていなくとも、身のまわりを眺めてみると、
おうちのなかにはいくつもの「はさみ」があることに気づくでしょう。

はさみを大別すると、
そのかたちからX型とU字型の二種類になります。
X型は、刀(は)と柄(え)の中間にねじ(支点)があるものです。
紙や植木を切るための「はさみ」は、このX型です。
U字型はU字型の腰が支点になったもので、
細かいものを切るときによくつかいます。
片手で握って切るので「握りばさみ」と呼ばれます。



帯の仕立てでは、X型の「裁ちばさみ」と
U字型の「握りばさみ」の両方をつかいます。
だいたいどこのおうちの裁縫箱にもどちらとも入っていますよね。
「裁ちばさみ」は布を切るために、
「握りばさみ」は糸を切るためのはさみですね。

帯の仕立てでは、布を切る最初の作業に
「裁ちばさみ」を使います。
帯反は、仕立てに必要な長さより1尺ほど長めにつくられています。
そのため、はじめにその1尺ほどの余分な長さを
切らなければなりません。

帯反ではない布地を使用する「仕立て変え」のときにも、
まずはさみが必要になります。
帯に仕立てたときの柄ゆきを考え、
「裁ちばさみ」で布地を切り、つないで帯反にします。

どちらの作業も、切り間違えのないように長さを何度も測ります。
そして切る箇所に目をとおして※1「切り取り線」をひき、
その線に沿って、まっすぐに切っていきます。

また、「はしをつくる」※2ときにも
「裁ちばさみ」で帯反を切る作業があります。

帯の「はしをつくる」ときに「のりしろ」となる
部分は内側に折り込まれ、綴じられます。
このとき、この「のりしろ」部分の箇所は、
帯反が2枚重なって折り込まれます。
そのためこのまま仕立てると、
2枚が重なり、この部分に段ができてしまいます。
そこで、この2枚に重なった上の1枚だけを
「裁ちばさみ」で少し切ります。
つまり、段差を滑らかにするために、2枚の長さをずらすのです。

さらに、帯芯のはしも「裁ちばさみ」で切る必要があります。
新しい帯芯は、はしがまっすぐに作られていないのが普通です。
そのため帯反に綴じる前には、はしにまっすぐな線をひき、
その線に沿って切ります。
帯芯のはしがまっすぐでないと、
仕立てあがった帯のはしも曲がってしまうので、
「裁ちばさみ」で慎重に切っていきます。

一方の「握りばさみ」は、糸を切ったりなど、
その手のひらサイズの姿をいかした細かい作業に用います。
「裁ちばさみ」に対して、「握りばさみ」は地味な作業につかわれます。
しかし、実はこの「握りばさみ」のようなU字型のものが、
「はさみ」の原型なんです。

もともと古代のギリシャ(紀元前1000年)で使われていた「はさみ」は、
このU字型ものだったようです。
このU字型の「はさみ」は世界各地にひろまり、
6世紀には中国を経て日本へと伝えられました。
しかし、その後X型の「はさみ」が発明されるとともに、
U字型のはさみはだんだん使われなくなっていきました。
そして、現在ではこのU字型の「はさみ」を愛用しているのは
日本だけという状況になってしまったのです。

海外に行ってこの「握りばさみ」をみせると、
「日本にはこんなはさみがあるのか」と逆に驚かれるようです。
そのため、「はさみ」の原形であるU字型のはさみですが、
今では「和ばさみ」とも呼ばれ、日本独自の道具として使われているのです。

道具を大切にする日本の精神がよくあらわされている話しですよね。
なんだかちょっと得意な気持ちになってしまいます。

※1.1月29日更新のブログ「針について」を参照してください。

※2.2月26日更新のブログ「ヤマト糊について」を参照してください。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は3月11日(火)予定です。


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