花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「万両」文様について

2013-09-26 | 文様について

presented by hanamura ginza


はやいもので、まもなく 10 月ですね。
気がつけば、空気もだいぶひんやりとして、
日に日に秋が深まっているのが感じられます。
青空の下、道を歩くのも快適な季節になりましたね。

これからの季節には、紅葉などを眺めに遠出をするのも良いのですが、
家の近所を歩いていても、
秋の気配を随所に感じることができ、楽しいものです。

お庭やベランダなどに四季折々の植物を植えられているお家も多く、
庭に植えられた柿の実が色づいてきたなとか、
こっちの家では、コスモスがきれいだなとか、
目を楽しませてくれます。

こうした家庭で楽しめる園芸は、
盆栽ブームやガーデニングブームなどもあり、
最近では、品種改良された植物や外国の植物など、
はじめて見るようなものも多く出回っていますね。

家庭での園芸が、日本ではじめられたのは平安時代の頃です。
当時の貴族たちは、自分の庭に梅や椿、桜などを植えて、鑑賞しました。
やがて江戸時代になると、こうした園芸は庶民にも広まり、
大流行となりました。

とくに、椿は二代将軍の徳川秀忠が好んだことから、
品種改良が進み、100 品種もが誕生しました。
品種改良の技術は、世界の中でもトップレベルで、
園芸は武士のたしなみとしても人気が広がりました。

その中でも、当時人気を博したのは、
ヤブコウジ科の「十両」、「百両」、「万両」、
また、センリョウ科の「千両」とよばれる植物です。

これらの植物は、実の数や葉の形は異なるものの、
どれも緑色の葉に小さな実をつけ、
秋から冬にかけてその実が赤く熟します。
この赤い実は、古来よりお正月の縁起物とされ、
お正月飾りなどにも用いられてきました。

「十両」、「百両」、「千両」、「万両」は、
一見すると特徴が似ているため、
単体でみると見分けがつにくいのですが、
並べてみると、その違いは一目瞭然です。
その中でも、一番実の数が少なく、小ぶりなものは「十両」で、
こちらは「ヤブコウジ」とよばれることがあります。

次に大きなものは「百両」で、
こちらは古来には「カラタチバナ」とも呼ばれていました。
江戸時代の頃、この「カラタチバナ」が百両以上で販売されていたことから、
「百両金」とも呼ばれていたようです。
この「百両」より大きく、
実が葉の上に付いているものは「千両」と呼ばれています。
そして、「万両」は一番大きく、
葉の下にたくさんの実をたわわに実らせています。

これらの植物は、江戸時代になると品種改良が進み、
葉の形や色などが異なるさまざまな種類が誕生し、
その流行は明治時代のころまでつづきました。




上の写真は
昭和初期ごろにつくられた銘仙絣からお仕立て替えした名古屋帯です。
抽象的ではありますが、
葉の形や、実の付き方から、
おそらく万両をあらわしたもののようです。

「万両」のように、江戸時代に品種改良がされた品種は
その他にもカエデやフクジュソウなどがあり、
これらは「古典園芸植物」ともよばれ、
現在でもよく見かけることができます。

冬に近づくと、お家の玄関や庭先で緑色の葉の陰から
ちらりとのぞく赤い実がみえることがあり、
そのかわいらしさに思わず立ち止まってしまうことがあります。
こうした愛らしい姿をみると、
昔の人々がこれらの植物に「千両」「万両」という縁起の良い名前をつけて、
愛でていた気持ちがよくわかります。

上の写真の「横縞に植物文様 絣織り 名古屋帯 」は 花邑 銀座店でご紹介中の商品です。

●花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 10 月 10 日(木)予定です。
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