花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「格子縞文様」について

2012-03-15 | 文様について

presented by hanamura ginza


3月も半ばを迎え、
ここ東京では、ようやく梅の蕾がほころびはじめていますが、
相変わらず空気の冷たい日が続いています。

それでも、陽射しだけはすっかり春めいてきました。
窓から射す眩しい陽の光をみると、
心和む春まで、もうあと少しなのだと思えます。

春から初夏にかけた季節は、
道端の陽だまりや、
新緑の間から降り注ぐように射す陽射しの輝きが、
一際幸せに感じられるときでもありますね。

現代のお家では、少なくなりましたが、
いわゆる日本家屋では、
そういった自然の光を巧みに
室内に取り入れる工夫がなされていますね。

直接的な光ではなく、
木でつくられた格子窓や、
障子を通して室内にもたらさらる自然の光は、
陰影があって風情が感じられますね。
こういったきめ細やかな居住空間への工夫は、
世界中でも類をみません。

今日は、そのような日本家屋に縁の深い格子縞の文様について
お話ししましょう。

格子縞文様は、世界各地でみることができ、
現代でも人気の高い文様のひとつです。

しかし、その格子縞が用いられはじめた時期は、
定かではありません。
イギリスのアイルランドやスコットランドでは、
紀元前の遺跡から格子縞の衣装が発掘されています。
こうした格子縞は、「チェック」と呼ばれ、
現在でもその地方の民族衣装にも用いられています。

日本では、平安時代に建築された寝殿や社寺につけられた
蔀(しとみ)と呼ばれた戸や御簾(みす)が
格子状につくられていました。

しかしながら、雅で華やかな意匠がもてはやされた当時、
シンプルな格子縞は、着物の文様には用いられませんでした。

格子縞が着物の文様として用いられるようになったのは、
平安時代の後期になります。

南蛮貿易が盛んに行われるようになった当時の日本には、
異国からさまざまなものが輸入されました。
そのなかには、異国で織られた絹布などもあり、
そのような布地に格子縞や縞などの柄を織り込んだものが多かったのです。

異国からもたらされた貴重な布にみられる格子縞や縞柄は、
異国情緒漂う文様として広まり、
絵巻などにもあらわされるようになりました。

それでも、栄華を誇示するような豪華絢爛な意匠が好まれたこの時代、
シンプルな格子は特権階級の人々からは敬遠され、
庶民が着る衣服の意匠となっていました。

やがて、室町時代になって茶道がはじめられるようになると、
異国からもたらされた格子縞や縞のシンプルな意匠が、
侘び錆びを好む茶人にかえって愛用され、
茶道具を包む仕覆などに用いられるようになりました。

当時、こういった格子縞や縞柄は、
「間道(かんとう)」と呼ばれていました。
間道の名前は、「漢道」から変化したもので、
シルクロードを渡ってもたらされた布地ということを意味しています。

格子縞が広く人気を集めたのは、
江戸時代になってからです。

奢侈(しゃし)禁止令が発布され、
華やかな意匠の着物がはばかれたこともありましたが、
町人文化が花開いた当時、
格子縞や縞柄は、粋な江戸っ子の意匠として流行し、
さまざまな格子縞が考案されました。



上の写真の名古屋帯は、
吉野間道とよばれる格子縞です。
吉野格子縞ともいわれます。
吉野間道の名前は、
当時京の島原で人気の高かった遊女、
吉野太夫が愛用した打掛がこの文様だったことに
由来しています。

また、京の裕福な商人だった灰屋紹益(はいや じょうえき)が
のちに妻として迎えた吉野太夫に贈った布地の柄だったという説もあります。

いずれにしても、艶が感じられる逸話ですね。
そのお話の真偽はともかく、
当時の人々がこの格子縞を愛したことが伝わってくる話です。

吉野格子と同じように、
歌舞伎の役者が身に着け、評判になった格子縞もあります。
そういった格子縞は、その役者の名前をとって、

高麗屋格子(こうらいやこうし)、
菊五郎格子(きくごろうこうし)、
半四郎格子(はんしろうこうし)などと、呼ばれています。

下の写真の名古屋帯は、
昭和初期頃につくられた和更紗布からお仕立て替えしたものです。
火消しの文様に、格子縞が組み合わされた意匠は、
「火事とけんかは江戸の華」といわれた、
江戸時代の粋な文化をあらわしています。



まっすぐな線が交差してあらわされた格子縞は、
一見シンプルで規則正しく見えます。
しかしよく見ると、現代の機会によるプリントなどとは異なり、
人間の手によって描かれたものなので、
そこにはわずかな「ゆらぎ」が生じていて、
素朴なあたたかみが感じられます。

この格子縞を身にまとったときには、
意匠に生じている「ゆらぎ」が身体の曲線に沿い、
お着物と響きあって自然な女性美をかたちづくります。

外から射しこむ自然の光が
格子窓によって刻々と表情を変えていくさまに美を感じるように、
江戸時代の人々は、きわめてシンプルな意匠だからこそ生じる深い趣きに
心を奪われていたのではないでしょうか。

※上の写真の「吉野格子縞 名古屋帯」と「段縞に火消し文 和更紗 名古屋帯」は、
3月16日(金)に花邑銀座店でご紹介予定の商品です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は3月22日(木)予定です。

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