花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「海老文様」について

2010-12-14 | 文様について

presented by hanamura


12月も半ばとなり、
冬本番の寒さとなってきました。

ここ東京では、紅葉していた木の葉が
いつの間にか地面に散り、
北風に舞っています。

まもなく年末年始ということで、
スーパーやデパートの食品売り場では、
クリスマス用のオードブルや
お正月用のおせち料理の豪華な
サンプル品がずらりと並び、
にぎやかです。

昨今では、共働きのご夫婦が増え、
少人数の家族が多いこともあり、
手間のかかるオードブルやおせち料理を
お店でご予約される方が多いようです。

その品揃えも豊富で、
三つ星の高級ホテルのものや
老舗の日本料理屋さんのもの、
洋風から中華までさまざまです。

オードブルやおせち料理に
欠かせない主役といえば、
やはり「海老」ですよね。
とくに大きな伊勢エビは、
お正月などのハレの席には欠かせません。

真っ赤に熱せられた海老が
どーんと入っていると見た目も華やかで、
とても豪華にみえます。

今日はその「海老」の文様についてお話ししましょう。



長い髭のような触角を頭につけ、
腰を丸めて「ぴょーん」と勢いよく飛び跳ねる海老は、
古くから腰が曲がっても元気な老人の姿に例えられ、
不老長寿をあらわすものとされてきました。

「海老」という名前も、
「海の翁(おきな)」「海の老人」
という意味合いからきているのです。

そのため、古来から、お祝いの席に並べられたり、
贈答品とされたりすることも多かったようです。

海老は「蝦」、「鰕」や「蛯」と書くこともありますが、
厳密にいうと、「蝦」、「鰕」は小さくて泳ぐ種類、
「蛯」と「海老」は大きくて歩く種類のエビを指します。
この漢字の種類の多さだけでも、
古くから海老が食材として重用されてきたことが
よくわかりますね。

ちなみに、「エビ」の語源は、
身体の色が葡萄(えび)の色に似ていることに由来しています。
現在では語源となった葡萄を「えび」ではなく、
「ぶどう」と発音していることを考えると、面白いですね。
現在でも日本の伝統的な色名では
「葡萄色」のことを「えびいろ」と発音します。

海老は、平安時代の文献にも
食材として登場します。
しかし、昔の人々にとって、
海老は一部の貴族や裕福な人々の間でのみ食される
特別なものでした。

室町時代には海老が文様として用いられはじめ、
吉祥文様として、家紋のモチーフとなりました。
武家社会では、硬い殻に覆われた海老の姿を
甲冑を身に付けた勇ましい武将の象徴としたようです。

その後、江戸時代になると歌舞伎の衣装や、
浴衣、陶器の文様などにも多く用いられ、
縁起を担ぐ意味合いから
大漁半纏のモチーフにもなりました。



上の写真の海老文様の名古屋帯は、
昭和初期頃につくられた絹布から
お仕立て替えしたものです。
勢いよく飛び跳ねた海老の様子がよくあらわされた
躍動感とおもしろみのある意匠です。

不老長寿の象徴とされてきた海老ですが、
最近の研究により、
実際にメタボリックシンドロームの予防などに
効果が高いことがわかってきました。

海老の殻に含まれている
「キチン」という不溶性食物繊維は
コレステロールの吸収を抑えたり、
免疫力を高めたりする効果があるのです。

さらに、身の部分には
強力な抗酸化作用の働きがあり、
がんの予防に良いとされる
「アスタキサンチン」も含まれています。

まさに「不老長寿」の象徴の
面目躍如といったところでしょうか。

年末年始のお食事では、
名実ともに縁起の良い海老をたっぷり食べて
新たな一年の活力としたいですね。

※上の写真は花邑 銀座店にてご紹介している名古屋帯の文様です。

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次回の更新は12月21日(火)予定です。


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