花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

悉皆屋さんのおはなし-その5-

2008-08-12 | 悉皆屋さんのおはなし

presented by hanamura


「洗い」について

着物や帯をいくつか並べてみると、
実に、さまざまな装飾がされているのが分かりますね。
デザインの違いだけではなく、
織りや、染め方、刺繍にも違いがあり、
とても繊細な技術が用いられています。

そのため、着物や帯を洗うときには、
それらの装飾を損なわないように、
細かな気配りをしなければいけません。

しかし、同じ「丸洗い」でも、
業者さんによってその洗い方は違うようです。(※1)
そして「丸洗い」だけではなく、
最近耳にすることが多い「京洗い」も例外ではないそうです。
悉皆屋さんは京洗いについて

『京洗いと呼ばれるものがどういうものか、
みんなぼかしているので、いちがいにははっきりとはいえません。』

と答えていました。

しかし、「京洗い」や「丸洗い」のように、
最近になってはじまった洗いには、
ドライを用いることが多いようです。



一方、「洗い張り」と同じように昔ながらの方法で
行う「生洗い」という洗い方もあります。

『生洗いというのは、個人の方が昔ながらの方法でやっている、
いわゆる染み抜き屋さん。
机の上に着物を広げて、薬品をいくつか使いながら、
袖口やシミをこすったりたたいて汚れを落としたり、
汗を飛ばしていきます。』

生洗いは染み抜き屋さんの机の上でやっているんですね。
机の上で丁寧に汚れを落としていく「生洗い」は、
「洗い張り」と同じように安心できる洗い方かもしれません。

着物や帯にとっては、昔ながらの方法で
時間をかけて丁寧に洗うことが一番良い方法なんですね。
しかし、その洗い張りでさえも、
用いる原料などが不足して、昔と同じような方法で洗うのは、
なかなか難しいことのようです。

『洗い張りの仕上げのときには、昔は板に生地を貼って
「ふのり」を引いてましたが、
今は「ふのり」がないのでほとんどが合成糊です。
「ふのり」は最高の糊です。
合成糊はものすごく静電気が出るので、
裾なんかにまとわりついてほこりを吸ってしまいます。
仕事をしていると合成糊と「ふのり」のレベルの差が
とても大きいことが良く分かります。
それがわかっていても、今は「ふのり」が少ないので、
みんな合成糊になっています。』

天然の海藻からつくられる「ふのり」(※2)。
この「ふのり」の原料そのものも、なくなっているのでしょうか?

『ふのりの原料は、なくなっているし、高い。
それにすぐ腐るので、置いておけないんですよ。
合成糊は腐る心配がなく、簡単にできちゃう。
そうやって、みんなだんだんとはしょっていってしまうので、
肝心なものがなくなっているんです。』

働き手や、技術が変わっただけではなく、
大切な原料でさえも少なくなっているんですね。

(※1)7月29日(火)更新のブログ「悉皆屋さんのお話-その4-」
をご覧ください。

(※2)海藻の一種を水洗し脱塩して天日にて漂白処理したものが「板ふのり」。
「板ふのり」を煮て糊として用いる。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は8月26日(火)予定です。


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悉皆屋さんのおはなし-その4-

2008-08-05 | 悉皆屋さんのおはなし

presented by hanamura


「洗い」について

愛用した着物や帯は、
季節が変わるごとに「洗い」にだすと、
長もちさせることができます。

しかし呉服には、さまざまな洗い方があり、
着物や帯の状態によって、
洗い方を選ぶことが大事なようです。

前回は、悉皆屋さんにその「洗い」の中から、
「洗い張り」と「丸洗い」について、
お話しをしていただきました。(※1)

そのお話しの中で、悉皆屋さんは
『洗い張りは最高の加工、ドライ(丸洗い)は最悪の加工です。』
と言っていましたね。

しかし、同じ「丸洗い」でも、
引き受ける業者さんによって、その洗い方には違いがあるようです。



『たとえば、個人でやっている染み抜き屋さんに丸洗いを頼むと、
良心的な人は容器に溶剤をいれて着物を浸けて洗ってくれますが、
大きな工場ならドライ機を使っています。』

『洋服のドライクリーニングと違って、
和服のドライは何が加工されているのか分からないので、
ドライはとても難しい。
洋服のドライは強い洗剤を使うので汚れはかなり落ちます。
ところが、和服は簡単に色も落ちてしまう。』

着物や帯にはさまざまな織りや染めがあり、
さらに刺繍などが加えられて作られています。
そのため、着物や帯を洗うときには
細かい配慮が必要なんですね。

『だから、洋服と兼用でやっている着物ドライは危ないんです。
うちの近くにも着物と洋服をやっている安くていいドライ店が
ありますが、10点のうち1点は事故を起こしています。』

10点のうち1点とは、心細くなる数ですね。
これでは安心しておまかせすることは難しいかもしれません。
一方、和服専門のドライ店はどうでしょう。

『和服専門のドライ店は、着物がデリケートなことを知っているので
弱い洗剤を使っています。
しかし、弱いということは洗浄力も弱いということ。
だから、袖口や裾など汚れの強いところは、
機械に入れる前に部分洗いをしているんです。』

同じ「丸洗い」と呼ばれるものでも、
手間のかけ方はだいぶ違いますね。

着物や帯を洗いにだすときには、
親身になって相談に乗ってくれる
悉皆屋さんを選ぶことも大事なことのようです。

(※1)7月29日(火)更新のブログ「悉皆屋さんのお話-その3-」
をご覧ください。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は8月12日(火)予定です。


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悉皆屋さんのおはなし-その3-

2008-07-29 | 悉皆屋さんのおはなし

presented by hanamura


「洗い」について

みなさんはお気に入りの帯や、
祖母や母からもらった思い出の着物をお持ちですか?
大切な帯や着物は長く、良い状態で使いたいですよね。

そして長く、良い状態で使うためには「お手入れ」が欠かせません。
呉服の「お手入れ」といえば、「洗い」にだすことが1番ですね。
季節が変わるごとに、愛用した帯や着物を「洗い」にだすと、
良い状態で長持ちさせることができます。

洋服の「洗い」といえばドライクリーニングです。
しかし呉服の「洗い」には、さまざまな方法があります。
「洗い張り」、「丸洗い」、「生洗い」、
そして「京洗い」と呼ばれるものもあります。
このさまざまな洗い方について、
知っているようで知らない事もありますね。

洗い方の違いが分からず、
呉服屋さんに言われるまま
「洗い」に出してしまっている人も多いのではないでしょうか。
花邑でも、よく「洗い張りとはどのようなことをいうのですか?」
というご質問をいただきます。

そこで悉皆屋さんに呉服の「洗い」についての
お話しを伺ってみました。
はじめに「洗い張り」と「丸洗い」について、質問しました。

『洗い張りは最高の加工、ドライ(丸洗い)は最悪の加工です。』

悉皆屋さんは、きっぱりと断言するように答えてから、
お話しはじめました。



『洗い張りというのは、お客さんから受け取った品物をほどいて、
それを一つにつないで洗うことです。
そのときに落ちない汚れは、染み抜き屋にだす
というのが昔ながらのやり方。
でも、今は染み抜き屋にだすと高いので、
だいたい洗い張り上がりでやっています。』

『丸洗いはドライと同じ。
和服工場で着物をドライ機に入れ、
薬品を使ってゴロンゴロンとやっています。』

『ドライをすることによって、
生地はどんどんやせて傷んでいきます。
けれど、着物をほどいて洗い張りをするとまた仕立てを
しなくてはいけないので、お金もかかるから
お客さんも嫌がるし、業者の人も好みません。』

『本当なら、ドライや生洗いを3回やったら、
今度は着物をほどいて洗い張りを1回やるのがベストです。
不思議ですけど、洗い張りすることによって、
生地は完璧に戻ります。』

ちなみに花邑でも、
帯に仕立てるための生地はほとんど「洗い張り」にだしています。
悉皆屋さんの言うとおり、
「洗い張り」にだした生地は、汚れが落ちるだけではなく、
生地そのものが蘇ったようになるんです。

その一方「丸洗い」は生地を傷めてしまうんですね。

長く、大切に使うためには、手間はかかりますが
「丸洗い」だけではなく「洗い張り」をすることが良いようです。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は8月5日(火)予定です。


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悉皆屋さんのおはなし-その2-

2008-07-22 | 悉皆屋さんのおはなし

presented by hanamura


職人さんたちについて

呉服のことなら「よろず受け賜わる」という「悉皆屋」さん。

今回は、「悉皆屋」さんに、
着物ができるまでのお話しや、
その作業を請け負う職人についてのお話しを伺いました。

『着物1枚をつくるための工程は、
山のようにあり、そしていろいろな職人が関わっています。』

「悉皆屋」さんはそう前置きをしてからお話しはじめました。



『身近なところでは染み抜き屋さん。
染み抜き屋さんにも、小さな机でコトコトやる染み抜き屋さんから、
和服ドライのような大きなお店まであります。』

『それから、洗い張り屋さん、湯のし屋さん、
染め物屋さん、糊屋さん、仕立て屋さん…。』

『お客さんから注文をいただいたら
まず、お客さんのサイズを確認して、白生地からつけていきます。
厳密にいえば、染付けが良く仕上がるように白生地を「湯通し」して
糊を落とし、それを「湯のし」仕上げして元に戻します。
目に見えないところですが、それが一番肝心なんです。
湯通しは原則ですが、加工賃を抑えるために
最近ははっしょているところも多いようですね。』

着物を反物から仕立てたことがある人ならば、
この「湯通し」と「湯のし」を頼んだことが
あるのではないでしょうか。

しかし、「悉皆屋」さんがお話ししたように、
呉服屋さんが湯通しを省こうとしたら、
注意した方が良さそうですね。

さて、訪問着などの柄がつながっている白生地は、
「湯通し」が終わると下絵羽屋さんに持っていきます。

『白生地は下絵羽屋さんで裁断します。
上がったら、それを模様師さんのところに持って行って、
藍花(墨)で柄を描いていきます。
そのときに「もうちょっとこっちに柄をつけてくれ」
「こっちを消してくれ」とお客さんと調整します。』

『そうやって下絵を描いたものを次に糊屋さんのところに持っていき、
染めない部分に糊を置いて行くわけです。
糊屋が糊を置いて、次に染め屋が地の色を染めます』

本当にたくさんの工程があるんですね。

『最初の染めの段階だけでこうです。』
「悉皆屋」さんは、そう言って肩をすくめました。

そして、現在の職人たちのお話しをしはじめました。

『しかし、この糊屋さんが、今みんな辞めてしまっています。
昔は余裕があったのでいい仕事ができましたが、
今は在庫がなくて余裕がないから白生地を仕入れたらすぐに染め、
すぐに売るという感じなので、いい仕事ができなくなっているのです。』

『というのは、糊は天候に左右される仕事です。
糊屋が糊を置いて、
次に染め屋が地の色を染めますが、
分業のため、直接つながりがないので、
急かされたりすると天気が悪くても染め屋は染めてしまいます。
そうすると仕上がりが悪くなってしまうので、
染め屋は糊屋が悪い、糊屋は染め屋が悪いと、
お互いの責任のなすりあいをするわけです。』

まとめ役である「悉皆屋」さんならではの視点ですね。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は7月29日(火)予定です。


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悉皆屋さんのおはなし

2008-07-15 | 悉皆屋さんのおはなし

presented by hanamura


「悉皆屋」とは

みなさんは、お母さまやお祖母さまからもらった
思い出の着物や帯をお持ちですか?
もしくは、ふんぱつして買ったお気に入りの着物や帯を
お持ちの方もいらっしゃるでしょう。

こういった大切な着物や帯は、
状態が良いままで、長く使っていきたいですね。
しかし、そのためにはきちんとしたお手入れをすることが必要です。

今回お話しする「悉皆屋」は、そのお手入れはもちろん、
呉服に関係することならば、なんでも相談にのってくれる
頼もしい人たちのことをいいます。

みなさんも、1度はこの「悉皆屋(しっかいや)」という
言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

しかし、その呼び名を聞いたことはあっても、
実際には「どういうお仕事をしているの?」と
疑問に思う人も多いのではないでしょうか。

「悉皆屋」のお仕事は、日の当たらない地味な仕事なので、
知っているようで知らないことも多いですよね。

それならば「悉皆屋」さんに直接聞いてみようー。
ということで、花邑の帯教室では
この「悉皆屋」さんを教室に招いて、
『「悉皆屋」さんにお話しを聞く会』を催しました。

今回から何回かに分けて、そのときに伺ったお話しをしていきます。



『「悉皆屋」さんにお話しを聞く会』には、
花邑の帯教室の生徒さんが30人ぐらい集まりました。

部屋中に埋まった生徒さんをみて、
「悉皆屋」という仕事に対する
興味の深さを改めて知ることができました。

寡黙な「悉皆屋」さんは、
大勢の女性に囲まれ、恥ずかしそうでしたが
そのお仕事について丁寧にお話ししてくれました。

はじめに「悉皆屋」というのはどういう仕事をいうのですか?
と伺ってみました。

『「悉皆屋」とは、「よろず受け賜わる」ということで、
できてもできなくても、何でも引き受けるということです。
ちょっとはったり的なところがありますね(笑)。
デパートや呉服屋が注文を受けたものは、
たいていは悉皆屋に行き、
そこから、染め屋さん、染め抜き屋さん、洗い張り屋さん、
仕立て屋さんなどの各分業に回されるわけです。
それぞれ得意なことや得意じゃないことがありますから、
悉皆屋がそれぞれに適した仕事を回し、
一つの完成品を仕上げていきます。』

1枚の着物や1本の帯をつくるためにはいくつもの工程があり、
それらの作業は分業になっています。
その「まとめ役」をしているのが「悉皆屋」さんなんですね。

実は花邑でもこの「悉皆屋」さんに
だいぶお世話になっています。
帯にするための布を「洗い張り」に出したり、
藍染めの色落ちを防ぐために「藍止」に出したり、
布地を染めていただくなど、
さまざまなことをお願いしています。

そして、布の扱いのことで分からないことは
まず「悉皆屋」さんに相談しています。

「まとめ役」ということは、作業の工程だけではなく、
布の扱いなど呉服に関するすべてのことを分かっているということ。
「悉皆屋」は着物の「カウンセラー」のような存在でもあるのです。

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次回の更新は7月22日(火)予定です。


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