ヌマンタの書斎

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金融犯罪の仕組み 小沼啓二

2009-03-19 12:25:00 | 
人類の歴史上、富と権力が常に求め合うのは当たり前のことだった。

もっといえば、清廉潔白な政府なんて貧乏国以外ありえなかった。権力は常に富みを求め、富みは権力に吸い寄せられるのが人間社会の当たり前のかたちだった。

権力を得るには力が必要となる。歴史上その力は武力であることが必要不可欠だったが、権力は血縁による継承が可能でもあった。あるいは宗教のような精神的な力を背景に権力を得ることも、しばしば見られる現象だった。

近代以降では、民主主義という名の数の暴力により権力を得ることも可能となった。されど権力が富を求め、富が権力に擦り寄る状況に変りはなかった。

しかし、古来より賢明なる権力者は、富を得る手段を法治により、誰にでも公平に、かつ平等に出来るよう工夫をこらした。秦の始皇帝は法治を掲げ、オリエントの王様はバビロニア法典を作り上げた。

権力者は、その有する権勢をもって嫌がる民から無理やりに富を簒奪することが出来る。しかし、嫌がる相手から収奪できる富は無限ではない。強欲なる権力者が、その欲望に任せるままに富を積み重ねれば、民は国を捨て余所へと逃げ出してしまう。

これでは永久に富み栄えることは出来ない。そこで考えた権力者は、富を得る活動(主に商業活動)を安全に、かつ公平に誰もが出来る状況を作り出し、そこに民を集めることを考え付いた。民の活動を権力により保証して、安心して稼げる場を提供することで、その富の一部を堂々と税として納めさせることで、より多くの富を得ることを可能ならしめた。

国家と言う名の権力が、普通の大衆にも富を稼げる場を提供し、その安全を保証するがゆえに、多くの民が集まり、今まで以上に繁栄を実現させた。これこそが、巨大な国家を作り上げる最上の方法であったことは、歴史が証明している。

ここでのポイントは、富を得る活動は誰にでも平等であり、安全に出来ると思えることであった。それを保証したのが法であり、裁判所であった。もっとも現実には、少数民族や冷遇された宗教の信者には平等ではなく、さまざまな障害もあったが、それでも多くの民が希望を抱いただけでも上出来だった。

しかし、いつの時代にも人より多く富みを得たいと願う輩は絶えることはない。権力者に擦寄り、自分に有利なように法や制度を歪め、不公正なる手段をもって多くの富をかき集めることは、何時の時代、どの国でも極めて魅力的な手段であった。

そして、古来より多くの権力者がこの誘惑に負け、不公正な金儲けに手を貸し、甘く腐った金塊の褥にだらしなく横たわったものだ。国家権力の上部が、この不正に染まった時、当然に不正は社会全般を侵し、腐敗と悲劇が町を覆いつくすこととなる。

その結果として、かつては繁栄を誇った大帝国は衰退し、外敵の侵略を招き、滅びの道を辿る羽目になる。歴史上外敵の攻撃だけで滅んだ国家は少ない。むしろ国家の内側での腐敗と混乱により弱体化したがゆえに、滅びの日を迎えることが多い。

だからこそ、国家権力の不正は批難されねばならない。泥棒がいかに多くとも国は滅びない。国家権力が泥棒同様不正を働くような事態になり、それを批難する声が消えた時こそ、その国は滅びる。

顧みて我が日本はどうか。この国でも権力者が絡んだ不正はかなりある。かなりあるが、妙なもので一部に集中するのではなく、かなりの層に薄く広く拡散して不正が存在する。要するに「赤信号、皆で渡れば怖くない」という事らしい。

不正による腐った果実は、小さく、多様にばら撒かれたが故に罪悪感は薄く、誰もが努力(それが違法だとしても)すれば、その魅惑的な甘い果実に齧りつける。それゆえに、いまだ金融犯罪はなくなることなく存在する。

しかし忘れてはならない。この小さくばら撒かれた不正な果実は、多くの大衆の富を掠め取ったものだということに。まだ大衆は我慢しているが、それがいつまでも続くと思わないことだ。

既に国民年金制度は若い世代には信用されていない。不正を不正とも思わずに、甘い腐臭に倫理観を麻痺させたまま、大衆の犠牲の下に繁栄を貪る権力の退廃は、そろそろ限界に達しつつある。

法や制度を歪めて、不正を不正にみせない小細工は万能ではない。マスコミがこの金融犯罪の告発をサボりだしたら
その時こそ繁栄に終わりの幕を下ろすこととなるはずだ。官庁の広報資料の垂れ流しに終始する大手新聞、TVのありようは、日本の繁栄が終わりに近いことを告げる予兆に思えてならない。

まぁ、いつかは滅びるのでしょうが、出来たらその日は見たくない。あたしゃ、のうのうと暮らしていたいものでね。
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