ヌマンタの書斎

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不滅のアレグレット 松本零士

2023-03-01 15:21:12 | 
十代の頃の楽しみの一つは、FM放送のエアチェックだった。

中波放送ではDJが快活なお喋りを聞かせてくれて、それはそれで楽しかった。でも中波放送は音質がイマイチだった。FM放送はその点、音質が良くしっかり受信できれば、レコードには及ばないもののかなりの良質な音楽が楽しめた。

当時はFM放送で流れる曲を教えてくれる専門雑誌が4誌あった。FMfan、週刊FM、レコパル、FMステーションとあり、それぞれ個性があり、この雑誌に掲載される放送スケジュールをチェックして、気に入った曲をラインマーカーでチェックする。そして当日、その時間になるとカセットに録音する。

このエアチェックは当時の流行であり、上手く録音して自分の好きな曲をカセットに収めて、車のドライブ中に聴いたり、登山中、テントの中で皆で聴いたりするのが楽しみだった。

私は週刊FMを愛読していたが、時々レコパルも買っていた。掲載される漫画が楽しみだったからだ。手塚治虫、石ノ森章太郎など多彩なメンバーが音楽家の半生を短編漫画として掲載されていた。

そして松本零士もその常連だった。ワーグナーやベートーヴェンなどを暗い筆致で描いていたが、相当に情念の籠った作品であったと記憶している。たしかワーグナーの大ファンで、あまりに大音量でレコードをかけるので近所から苦情が出たと記憶している。

暗い筆致と評したのは、その描き方が兵器や戦士を描くのと同様であったからだ。そう、松本零士は武器や軍人を最も美しく描ける漫画家であった。ただし、決して戦争賛美者ではない。むしろ武器を美しく描き、兵士を勇敢に描き出すことで、戦争の残酷さや無常さを表現していたと思う。それが彼の代表作である「戦場漫画シリーズ」であった。

松本というと宇宙戦艦ヤマトや銀河鉄道999を思い浮かべる方は多いと思う。実際大ブームとなったのだから代表作でも間違いないと思う。でも、私が最も松本らしいと思っていたのが「戦場漫画シリーズ」と四畳半系というか男おいどん系の漫画であり、SFや昆虫を扱った短編集であった。

正直言うと、松本零士は長編漫画があまり上手くなかったと思う。その点、宇宙戦艦ヤマトは元虫プロのマネージャーであった西崎氏がプロデュースして、上手く長編にまとめている。999にしてもTV局及び編集プロダクションの強い意向があり、短編の連作形式で上手にまとまっているに過ぎない。

一方、短編の描き手としては素晴らしく、小さな描写に情念を込め、蛇足にならずに綺麗にまとめている。表題の作品は、FMレコパルに連載された音楽家をテーマとした作品のうち、松本作品をまとめたもので、かなりのレアもの。もう古書店でしか入手できないと思うので、見つけたら是非ご購入ください。なかなかの逸品ですよ。

追記 松本零士は先月、急性心不全でお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈り致したいと思います。

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2 コメント

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Unknown (kinkacho)
2023-03-04 07:49:30
ヌマンタさん、こんにちは。
レコパルのマンガ、作者のクオリティが凄く高かったですよね。親が雑誌を買っていたので、毎号読んでました。対象が大人だったので、ませた子供のkinkachoには子供向け雑誌のマンガより面白かったです。
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Unknown (ヌマンタ)
2023-03-06 10:02:25
kinkachoさん、こんにちは。本当に豪華な執筆陣でした。漫画家って音楽を聴きながら仕事する人が多いので、こだわりが皆あるのでしょうね。4誌あったFM雑誌のなかでもレコパルは個性派でした。
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