ヌマンタの書斎

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プロレスってさ ブルーノ・サンマルチノ

2009-03-16 16:13:00 | スポーツ
何度も書くが、プロレスはスポーツではない。あくまで格闘演劇だ。

基本となるのは善玉と悪役の戦いだ。卑怯なやり口で観客を煽り、善玉を痛めつける悪役は、実のところ本当に喧嘩が強い奴が多い。手加減するのもお手の物だ。

一方、悪役に卑劣な攻撃に耐えて、観客の応援に励まされて立ち上がり、逆襲に転じる善玉は演技は出来ても、腕っ節はたいしたことがないことがある。

善玉に求められるのは、格闘技の強さよりも、強く見せられる演技力であり、観客好みの二枚目ぶりなのだ。私見だが、善玉役を演じるプロレスラーには人間的には、善人とは言いかねるロクデナシがけっこう居たと思う。人気に胡坐をかいて、増長したふるまいで顰蹙を買っていた善玉レスラーは少なくない。むしろ悪役にイイ人が珍しくないのがプロレスの世界だった。

そんな訳で、私は善玉レスラーよりも悪役レスラーの方が好きだった。もちろん、なかには例外もある。その好例がニューヨークの帝王ことブルーノ・サンマルチノだった。

絶対に黄色人種や黒人ではありえない、異常なまでに発達した筋肉を誇る怪力レスラーがサンマルチノだった。まだ当時は筋肉増強剤はそれほど使われていないはずだし、なによりトレーニングで鍛えたというより、過酷な肉体労働で育まれた迫力有る体つきだった。

顔つきは二枚目というより愛嬌のあるタイプだが、なによりイタリア系であり、当時ニューヨークで多数を占めていたイタリア系移民たちに絶大な人気を誇った。実際はどうだか知らないが、マフィアのボスたちのお気に入りとの噂もあったぐらいだ。

サンマルチノはボクシングやレスリングを少し齧った程度の腕前であり、格闘者としてはさしたる技能があったとは思えなかった。ただし、その鍛え上げた筋肉から繰り出す締め技は迫力満点だった。なかでも、悪役を締め上げるベア・ハッグやバックブリーカーという大技は、実に絵になる姿であった。

では強かったのか?プロレス観戦歴の長い私だが、正直分らない。知っているのは、サンマルチノが人間的に好漢であったことであり、悪役レスラーからも一目置かれる凄みを持っていたことだ。

実はサンマルチノは、カツラを着用してリングに上がっていた。頭頂部が禿げるタイプだったらしい。初めて対戦する相手レスラーに対して試合前「Don’t Touch My Hair」と低い声で警告することで有名だった。

私の知る限り、この警告を無視したレスラーは皆無だ。どんな悪役レスラーでも、試合中サンマルチノのカツラに手を出す奴はいなかった。まあ、マフィアのボスの後ろ盾があり、逆らえばハドソン湾の海の底に沈められると噂があったぐらいだから、当然かもしれない。

しかし、プロレスラーはひねくれ者や変人が多い。タブーを破って業界を干されたレスラーは数知れずだ。でも、サンマルチノのタブーを破った奴は一人もいない。弱い奴の警告ならば、決して守られないことを考えると、サンマルチノはそれなりに強かったのかもしれない。

もっとも私の知るサンマルチノは信義に厚い男だということだ。あのジャイアント馬場とは、若手の修行時代に知り合い、意気投合して親友の間柄であった。それゆえ、馬場のライバルである猪木の主催する新日本プロレスのリングには、決して上がらなかった。

サンマルチノの所属するWWFは、日本では新日本プロレスと業務提携していたから、プロモーターのビンス・マクマホンはこの造反に頭を抱えたが、頑固一徹のサンマルチノは馬場との友情を優先して筋を通したらしい。

明らかな契約違反であったが、さしもの猪木もサンマルチノを来日させることは出来なかった。金よりも、契約よりも友情を重んじたサンマルチノは、多くのレスラーから一目置かれる大物だった。

プロレスラーの魅力は、その人間力にこそある。華麗な技もなく、派手なパフォーマンスもやらなかったが、サンマルチノは立派な善玉レスラーだったと思う。
コメント (2)
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