ヌマンタの書斎

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「自動車産業進化論」 徳大寺有恒

2008-11-20 12:35:15 | 
丁度、カルロス・ゴーン社長(当時)が日産の経営改革に乗り出し、それが話題になっていた頃のことだった。

東京近郊の群馬県は、各家庭における自動車保有台数が日本で最も多いところとして知られている。自動車販売ディーラーはもちろん、中古車ディーラーや自動車整備工場も当然に多い。

とある業者さんと一緒に昼食をしていたら、その業者さんの顔見知りの方々と合席になった。偶然だが、全員が自動車関係の仕事の方であった。

その席で話題になったのが、日産のエンジンの優秀さであった。整備工場の方が「とにかく頑丈だ」と力説する。日産が長年生産してきたL型六気筒直列エンジンの頑丈さは、私でも知っている。ターボをつけたり、ボアアップしたりと改造しても壊れない優れもののエンジンとして評価が高い。

車を改造するのが好きな走り屋さんたちの間では、信仰にまで高まるほどの信頼性の高いエンジンであることは間違いない。すると、解体業者の方が「海外からも注文が多い」と教えてくれた。

長年走り、車本体はボロボロのガタガタでも、日産のエンジンはまだまだ使える。だから海外からの名指しで注文がくるそうだ。ちなみに二番手は三菱だそうだ。やはり、この会社も技術力は高いとされている。

で、当時(今もだが)日本のナンバーワン自動車会社であるトヨタはどうか?

解体業者も整備工場の方も口をそろえて「トヨタのエンジンは駄目だね」と断言する。新車の頃はともかく、車検を8回以上繰り返して廃車まぎわになると、エンジン自体もガタがきて、とても輸出には使えたものじゃないと言う。ただし、クラウンのエンジンは別格とも言い添えていた。

海外に廃車の自動車部品のパーツを輸出している業者の方は、パーツの注文は多いが、エンジンはあんましねと肩をすくめる。整備工場の方が「エンジンブロックの頑丈さが違うね」と言い、「さすがトヨタだよ。無駄はやらない。だから廃車の頃になると、エンジンも駄目になっている」。

私にも納得ができた。トヨタのコスト管理の厳しさは有名だ。徹底的に無駄を省いて車を作るそうだ。だからこそ、日本一の利益を捻出できるのであろう。

一方、経営危機に陥った日産は、トヨタからみれば無駄の多い自動車作りをしてきたのだろう。だからこそ、車はボロボロになっても、エンジンは元気一杯という現象が起る。どちらが経営的に正しいのかは、既に市場が答を出しているといわざる得ない。

実のところ、私は車はホンダ以外買ったことがない。免許取得以来4台乗り継いだがすべてホンダ車だ。だけど、もし他社の車に乗るとしたら、是非とも日産に乗ってみたいと密かに思っていた。やはり技術の日産に対する憧れは根強いものがある。

その時の会話で、業者さんたちは一様にゴーン社長になって、日産がどう変るかを期待と不安の相半ばする気持ちを率直に語っていたと思う。

表題の本が書かれたのは2001年だ。日産が見事に再建されたのは間違いない。ただなぁ~、私が乗りたいと憧れるような車は相変わらず少ない。ティアナとフーガとスカイラインくらいだ、乗りたいと思うのは。そして猫の額ほどの我が家の庭には、どの車も入らない。

ゴーン社長が力を入れて変えると宣言していたスタイルも、また可もなく不可もない平凡なものになってきた。技術的にも、それほど目を見張るものはない。

化石燃料である石油の枯渇が現実味をましてきた21世紀。生き残る自動車メーカーは多くはあるまい。されど、日本の高度成長を支えてきた大きな立役者が自動車メーカーであるのも事実。下請け、孫請けまで含めれば、建築業界に匹敵する巨大な産業構造を持つ自動車産業の行く末は不透明だ。

自動車メーカーの栄枯盛衰は、戦後の日本経済そのものを象徴していると思う。今後もその行く末を注意深く追ってみたいと考えています。
コメント (2)
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