読書な日々

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『国立がんセンターでなぜガンは治らない?』

2016年03月10日 | 評論
前田洋平『国立がんセンターでなぜガンは治らない?』(文春新書、2015年)

なんとも逆説的なタイトルである。日本最高峰のガン研究所であり、ガン治療病院であるはずの、国立がんセンターでは、ガンが治らないというのだから。

2010年まで、国立がんセンターは「ガン難民製造工場」と、あるがん患者から言われていたという。最先端のガン治療の砦だと思って、最後のわらにすがる気持ちで、行ったのに、けんもほろろに追い返された経験をもつ人たちが大勢いたからだ。

民主党政権になって、このガンセンターで治療経験のあった仙谷由人内閣府特命担当大臣が、山形大学医学部病院の脳神経外科医をしていた嘉山孝正をこの国立がんセンターの理事長に推薦して、改革を始めた。

この改革は、まさに当初の、そしてだれもが期待する国立がんセンターとしての役割、日本津々浦浦のがん医療を平均化し、さらにそこでできない治療の難しいがんについては最後の砦として最先端のがん医療を施す、そのための、医療および研究の拠点とするというものであった。そして理事長就任1年で、慢性的な赤字体質を黒字に転換し、患者のための医療ができ、医者もしっかりと働ける機関にした。

しかし、彼が求める改革は、国立がんセンターと同等の機関である6つの医療センターを統合して、アメリカの国立健康機関(NIH)のようなものを作ることで、そこで医療の政策立案もすることを目指していた。だがこの改革方向は、厚生労働省をぶっ潰すことになるし、それと結託して甘い汁を吸っていた政治家たちの利権と衝突することになり、二期目の理事長選で敗れたのだった。

こういう本を読むと、昨日の記事もそうだが、日本って官僚たちに食い物にされている国なんだなとつくづく思う。でもこの嘉山孝正のように、本当に患者のことを考えて、ブレることなく仕事をしている医師もいるのだし、自分では先頭を切らなくても、こういう人の呼びかけがあればしっかり応える優れた人たちもいるのだということに、一縷の望みがある。

ジャーナリストの書いた本だけあって、読みやすくて、あっという間に読んでしまった。

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