読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『ビニール傘』

2021年12月12日 | 作家カ行
岸政彦『ビニール傘』(2017年、新潮社)

「ビニール傘」と「背中の月」という二篇の短編が入っている。どちらも、未来も展望もない現代の若者たちの悲しい人生を描いている。

これが真面目に働いても年収300万にいかないような若者たちの多くが置かれた現状なのだろう。非正規雇用なら200万にも達しないのかもしれない。

そうした若者の視点が向けられるのは同棲している男や女のこと。ここで描かれている男女は決して同棲相手と喧嘩するわけではないし、どちらかといえば仲良くやっているほうなのだろうが、彼らに展望もなにもないのは、ちょうど「背中の月」で、主人公が通勤電車から見る廃屋にあったであろう、戦後に若者だった田舎出の男女の生活史のような物語だ。

まるで私の両親を描いたかのような(もちろん私の両親は田舎から大阪に出てきたわけでも、食堂をやっていたわけでもないが、人生のあり方としてよく似ている、大学に入った息子の入学式に晴れやかな思いでやってきたという話は、ほぼ同じなので驚いた)、この物語を、この小説の主人公たちは生きることさえもできない。

私はとくに「背中の月」を読みながら、又吉直樹の『劇場』を読んでいるような既視感があった。同じような、人生の切り口、物語の語り口を持っている。こういうのが流行りなんだろうか。

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