読書な日々

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『夏目漱石とクラシック音楽』

2018年10月17日 | 人文科学系
瀧井敬子『夏目漱石とクラシック音楽』(毎日新聞出版、2018年)

夏目漱石が絵画に造詣が深かったことはよく知られている。小説の主人公に画家をもってきたて、美学論を思考させたりするほどだし、自らも絵手紙をよく描いていた。

だが、音楽、とくにクラシック音楽については知られていない。ということでこの著作ではかなり詳しく、夏目漱石が生きた時代におけるクラシック音楽についても書いている。明治時代の話なので、当然、それは明治日本の西洋音楽受容史のような内容になっている。

その調べ方はかなり専門的で、漱石全集でいい加減な予想で書かれていたものも訂正しているくらいである。しかしだからといって、漱石の文学や思想の理解が深まるかというとそうでもない。

たしかに『それから』の主人公の代助が上手にピアノを弾くという設定になっているとか、『三四郎』の美禰子がヴァイオリンを弾けるという設定になっているという、今まで何度も読んでいたのに気づかなかったことを気付かされたということはあるが、だからといってこれらの小説の読みが深まるというものでもない。

それはやはり漱石の音楽に対する向かい方が初心者程度のものであるがゆえに、それほどクラシック音楽がちょっと興味がある、音楽会にはフロックコートを着てでかけるのがステータスだと思っているという程度のものに過ぎないからだろう。

漱石が書き残した断片でさえも、それがどんな紙に書かれており、どこにしまわれていたのかということまで問題にして、そこからそれがどんな時期にどういう目的で書かれたかということまで推測している最新の『漱石全集』の編集には、新しい事実として書き加えられるかもしれないようなものばかりだ。

まぉそういうことに興味のある人は読んでみられるが、よかろう。

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