読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「バレエの歴史」

2008年03月27日 | 人文科学系
佐々木涼子『バレエの歴史』(学習研究社、2008年)

フランス文学の研究者のようで、フランス絶対王政期の宮廷でバレエが誕生してから今日までの、主としてフランスにおけるバレエの歴史を概観したものになっている。日本語タイトルは「バレエの歴史」だが、よく見るとフランス語で Histoire du Ballet Francaisと書いてある。副題に「フランス・バレエ史」とあるから、フランスが中心だよと断ってはいるのだろうけれど、ぱっと見るとヨーロッパ全体のバレエを扱っているのかなと勘違いしてしまうかも。

私が興味を引いたのはとくに17世紀と18世紀のフランスのバレエ(宮廷バレエとパリ・オペラ座のバレエ)で、バレエが国王の威信を見せつけたり、自分の目指しているものを誇示するための手段だったりというように、政治の道具の一つだったというような話が実に面白い。芸術と政治は無関係と思っている筋には気に入らないかもしれないが、芸術をその時代の社会の動き(そこには政治・経済・イデオロギー)なんかと関わらせて論じるというのは、それがうまくいったときには、なんか知らないけれど、知的興味をかきたてられる面白さがある。

たとえばこの本にも「フランス語の擁護と顕揚」なんかで有名な詩人のバイイという人が詩と音楽のアカデミーを作るのだが、そこで詩と音楽を融合させ、それに舞踏を結びつけて、ギリシャ時代の演劇を復興しようとするのだが、それが地方の貴族が群雄割拠して国王の力が弱かったが徐々に国王も力をつけてきて絶対王政の方向に歩みだした時代だったので、そのばらばらの芸術分野を統合しようとする思想そのものが、国王による国家統一の思想から受け入れられたのではないかという説明が出てくる。これなんかは演劇の分野における遠近法の確立が神の視点の確立となり国王による絶対的支配を思想的に準備したり補強するものであったというような思想史的解説とよく似ている。

こういうのが面白いと私は思う。もちろん一つの作品の中にそうした芸術分野の流れ以外の要素をもちこむのは余程の読み込みや当時の社会状況についての詳しい研究が必要になってくるので簡単にできるものではない。一歩間違えばパブロフの犬的なこんな社会だったからこんな作品ができたみたいな、紋切り型のものしか書けない。

最近はこうした古い時代のステップの研究も相当進んでいるし、発音の仕方も微妙に違っていたことが分かってきている。しかも上演が夜に行われるというのが普通で、ということは蝋燭の火で照明としていたのだということを考えると、どんな雰囲気で上演されていたのか想像もつかないが、そのあたりの雰囲気をつかむのに格好なDVDがある。それはモリエールの「町人貴族」という作品を Le Poeme hamoniqueという演劇集団が上演したもので、これはコメディ=バレエだからバレエも出てくるし、コメディーでもあるので当時の演劇でのフランス語の雰囲気も味わえる秀逸な作品だ。

また日本でもフランスで勉強してきてバロックダンスを研究している人がいる。浜中康子という人で、ビデオも出している。これなんかを見ると、優雅なバロックダンスが味わえる。

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