ランクヘッド「青に染まる白」全曲レビューその2は「十六夜の月の道」です。
2.十六夜の月の道
元々先行でリスナーの耳に届いていたり、そのお陰でライブでは半年前から定番曲だったりと
力強いメロディと強烈なグルーヴが渦巻き更に和のエッセンスをも最大限に活かしたロックナンバー。
前作の過度に尖った音像も大好きですが
こうやって和メロを活かしつつ攻める音像も大好きですね。
どっちがどう、って話ではなく両方ランクヘッドってバンドには必要な気がします。
何も考えないでがむしゃらに突っ切るサウンドも、日本人ならではの激情を叩き付けるサウンドも
両方ある意味ランクヘッドの核と言えば核だと思いますから。
それこそ和洋折衷っていうか。
この曲が素晴らしいのは、そんな和のテイストを込めつつ突き抜けてる激しさ・・・だけではなく
人間は決して心から分かり合える事はない
決して悲しみは消えないし
心に残ってる傷や痛みは半永久的に残るものだっていう有りの侭の事実で
それを隠したり誤魔化したり、平気の平左で仮面を付けて生活している人間だらけだからこそ
強く強く響くようなリアルな歌になってて、
誰もが水面下で燻ってる現実があるからこそ、そんな必死の叫びが心に響いて、
大きく伝わって、沁み込んでいく様な痛みがあって
でもそんな痛みは個人的には必要だって思えるし、それを糧にしてまた頑張れる節もあって。
誰もが誰も分かり合えないし、分かってあげられる部分も限られてるし、いくらきれいごと言っても
他人の心の隙間を埋められる量にも絶対的な限界があって
その事実からは逃れられない。
けど、そこで達観して諦めるのではなく、むしろそこからあがいて必死に叫んで
その感情が胸を打つような寂しくも温かい和製ロックンロールにもきちんとなっていて
そこが個人的には一番素晴らしいと思えるポイントですね。
無理だって感情に蓋をしてないっていうか
事実を受け入れて、限界を認めて、そこから祈り歌う感覚が何よりのユニークになっている、そんな一曲です。
【誰にも見えない白い肌の裏の 広がる宇宙を隠してあなたは笑う】
本音で語り合おうとか
本気で付き合おうとか考えても
人間って不器用で、溜め込んで、上手く感情を曝け出せない生き物ですから
絶対的に誰にも触れさせられる事の出来ない黒い部分があって
そこを解消するなんて他人には到底無理で
半ば不可能な現実で
だからこそ完全には分かり合えない、ある程度の武装を余儀なくされて
そこを埋められるか埋められないか、埋められたとしても埋められるスペースにも限界があって
いつまで経っても埋められなければ、その分溝なんて深まる一方でしかないんですよね。
出したくても出せない怒り
伝えたくても伝える事の出来ない憎しみ。
その結果、結局関係を失ったり、間に存在していた大切な何かが壊れたり
そんなものは人間ですから全く経験せずに生きていけるなんて有り得ない事で
そこに存在する軋轢や重ならない部分の存在は
その都度認めていかなきゃいけない事実で。
いくらきれいごとを抜かしても、所詮は人間、小さい生き物だと思いますから。理想と現実は別物なんです。
いくら頑張っても、その隙間を埋めようと思っても、絶対に埋まらない溝は存在する(と、思う)。
【だけど願った あなただけを、月よどうか照らせ】
ただ、そんな現実や結果が目の前に存在したとしても
消えない事実に悩まされても
そのジレンマや不協和音が何も残さないか、って言ったらそれは違う。
傷付いた分だけ心には存在が残るし
傷付けた分だけ相手に対する罪悪感が残った。
だからこそ、そんな絶対的な破綻の上で相手の、誰かの幸せを願う気持ちだったり
その後の人生を祝福する気持ちだったり
幸せであれと願う心だったり。
そんな最終的には何もかもを許せる気持ちを得て、そこからの思いを更にぶつけるっていう
単純にどうしようもない気持ちを言葉に歌にしてるだけではなく
そこからの強い祈りも同時に音楽に乗せていて
そんながむしゃらな想いだったり気持ちもまた強く感情に訴えて作用するような
一つの楽曲の中で精神的な成長の変遷も感じ取れるような
そういう力強さもまた前述のペーソスと同じくらいに存在する楽曲ですね。そこがある種の救いなのかな、と。
「二人黙って歩いた」ってフレーズもそうですが
非常に状況だったり背景がよく浮かぶような、そんな一曲にもなっています。
決別を想起させるような曲って大体が自分を責めたりする歌詞が殆どのように感じますけど
この曲は元々分かり合えるスペースには人間同士限界が存在するっていう
そんな現実的な内容になってるのが面白くもある一曲で。
でも、それでも最後は幸せや満たされる事を願う悔しさを越えた想いがこの曲ならではのカタルシスだと思います。