旅限無(りょげむ)

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ちょっと待てよ、サミット! 其の四

2006-07-14 22:30:05 | 外交・世界情勢全般


3月末時点の中国の外貨準備高は8751億ドル。中国政府系紙は外貨準備が5月にさらに9250億ドルに拡大し、年内に1兆ドルに達する軌道に乗っていると報じている。中国は05年7月に人民元を対ドルで2.1%切り上げ、それ以降、人民元は1.45%上昇している。しかし巴副所長は、ドルが弱含んでいるために人民元の実質為替レートは実際には小幅下落していると指摘し、それが中国の膨張する貿易黒字に直接結び付いていると説明した。6月の中国の貿易黒字は過去最高の145億ドルで、上期全体の黒字は前年同期を55%上回る614億5000万ドルに達した。ロイター - 7月14日

■中国経済がバブルであろうと、マフィア経済であろうと、愚かで火の車になっている米国財務省にとってはどうでも良い事です。バブル崩壊の時に米国が見せた見事な「為替手品」を中国は徹底的に研究している事でしょうから、易々と人民元の切り上げ圧力に屈したりはしないでしょうなあ。第二のプラザ会議の招待状が来ても、上手に断って必要なら恫喝するでしょう。今回のサミットでも、その予告編が見られるかも知れませんなあ。


中国石油管道ウルムチ輸油気の支社-阿拉山口石油輸送ステーションは7月11日、カザフスタンからの原油注入を開始した。中新社が伝えた。同石油輸送ステーションは、新彊ウイグル自治区の中国・カザフスタン国境、阿拉山口通関口中国側から2.5キロメートル離れている。阿拉山口輸送ステーションに注入された原油は、長さ252キロメートルの石油輸送パイプラインの中国区域を通じて最終ステーションである新彊独山子石化総工場に輸送される。これにより、中国初の大型国境間長距離石油輸送パイプラインが全線開通した。XFN 2006年7月14日

■東シベリアのパイプラインは、ロシアが日本を弄ぶ玩具になっていますが、強(したた)かな中国は裏口からしっかりと上海機構のコネを使って原油を輸入しているのですなあ。これもサミット直前に発表されたニュースです。イランに確保していた日本の石油利権はどうなるのでしょう?


中国石油天然ガス(CNPC)は、ロシアの国営石油会社ロスネフチ<ROSN>との関係を強化するため、同社の新規株式公開(IPO)に合わせて30億ドル相当の株式を取得する注文を出した。関係筋が13日、ロイターに明らかにした。同関係筋は匿名を条件に「既に発注された」と語った。取得を目指す株式数や価格については明らかにしていない。

■パイルラインを二股にして、中国市場と日本市場を天秤に掛けているような振りをして、ロシアは着々と「いつもニコニコ現金払い」の相手に石油を売り付けているのです。日本が割って入るには、札束を詰めたジュラルミン・ケースをコンテナに積んで飛んで行かねば間に合いませんぞ!相手は、銭ゲバ・マフィアです。


複数の関係筋は7月4日、ロイターに、CNPCがロスネフチのIPOで最大30億ドルを出資することに関心を示しているが、CNPCは見返りとして、ロシア原油資源に対する中国からのアクセス拡大を求めていると明らかにしていた。また、そのうち1人の関係者は、CNPCが30億ドルを出資する条件には、シベリアのバンコール油田を開発する合弁事業の設立やシベリア東部での協力関係強化、原油供給の長期契約などが含まれていると話した。
ロイター- 7月13日

■北朝鮮の鉱物資源に加えてロシアからの石油資源を確保すれば、中国は国内の壊滅的な経済危機は乗り越えられるでしょう。この約定が結ばれたのが、北朝鮮のミサイル乱射事件と同じ日だというのは、どういう意味が有るのでしょう?


中国政府は13日、香港沖合いの海底で、同国で最大規模となる可能性を秘めた天然ガス田を発見したと発表した。採掘が可能になれば、急増する中国のエネルギー需要をまかなう重要な資源になる可能性がある、としている。国土資源省によると、埋蔵されているガスの量は1000億立方メートルを上回ると推定されている。
ロイター - 7月14日

■「それなら尖閣諸島にちょっかい出すな!」と言いたいのが日本人の人情ですが、毎日、沢山のアクセスを頂いている『園田直を知っていますか?』に書いた通り、日本は最初から領土交渉で敗北しているのです。「尖閣も香港沖も!」そんな雄叫びを上げているチャイナに、さて、小泉プレスリー首相は『ラブ・ミー・テンダー』で応酬するのでしょうか?それにしても、あの発音でもブッシュ大統領には通じたのは大したものですぞ!会見場の記者諸君は誰も小泉プレスリー首相の英国仕込み?の変なカタカナ発音にはまったく反応していませんでした!ブッシュ大統領が間髪入れずにテキサス訛で言い直した瞬間に、ちょっとした爆笑が湧いたのをテレビ映像は永久に記録しましたぞ!嗚呼、恥ずかしい……。サミットでもっと恥ずかしい事をが起こらないように、只管(ひたすら)祈るばかりです。

■提灯を寄付しても、英霊は祖国が恥を掻いたら怒るでしょうなあ。


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ちょっと待てよ、サミット! 其の参

2006-07-14 22:29:34 | 外交・世界情勢全般


その上で、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議について「北朝鮮が早期かつ無条件で協議に復帰することが問題解決に不可欠」と早期の協議復帰を求める。イラン核問題にも触れ、国連安全保障理事会常任理事国とドイツが問題解決へ向け6月上旬にイランへ提示した「包括的見返り案」に対し、早期に回答をするように要求。
共同通信 - 7月14日

■ほらッ!イランはしっかりと名指しして、具体的な交渉の段階まで明示していますぞ。北朝鮮は名指しもせず、「国際の平和と安全に対する脅威」などと、何が何だか分からない文言しか盛り込まれない!「日本国民の生命・財産と在日米軍基地の軍事力に対して」とはっきり書かねば、北朝鮮は痛くも痒くもないでしょうなあ。恥も外聞もトウの昔に捨て去った「地上の楽園」は、悪質なブラック・ユーモアの材料にしかなっていません。偽札を押し付けられ、覚醒剤を売りつけられ、国民は拉致されて全領土が長距離弾道ミサイルの射程に収まってしまった!相手は、銀座の高級饅頭から弾道ミサイルの部品やコンピュータ、『寅さん』映画のフィルムまで、欲しい物は何でも手に入れているそうです。まったく、ろくな物が得られない日朝貿易の実態が明らかになる程に、大日本帝国の「領土」になっていた頃に開発した水力発電やら鉱物資源やらの豊かさは、全部中国に横取りされてしまったような状態です。

■吸血鬼のように、ずたボロの北朝鮮から、金鉱山、銅高山、港湾設備、日本の100円ショップでも売れない粗悪品の市場などなど、中国は文字通り搾取(さくしゅ)しているそうですなあ。大日本帝国は、戦況が悪化した時に強引な労働者の動員をしたのは本当でしょうが、それは日本本土で「学徒動員!」などという「大躍進」や「千里馬運動」みたいな断末魔を演じていた頃のことで、それまでは教育機関を始め東洋一の水力発電所やら史上初の良質な治安状況を確保したりもしたのです。そのための投資資金は日本からの持ち出しで賄われたのも事実です。今の北京政府は、徹底的な収奪しかしていません。「ハゲ鷹ファンド」なら、倒産を救ったり転売した後に利益が出る可能性も残しますが、今の北京政府が北朝鮮を食い物にしている様子は、中華思想に基づく「朝貢貿易」ですらありません。隋と唐を苦しめた高句麗の栄光など、今の金王朝には微塵も有りませんなあ。ちょっと西のモンゴルでは、チンギス汗800年祭で盛り上がっているというのに!


中国政府直属のシンクタンクである国務院発展研究センター金融研究所の巴曙松・副所長は13日、ロイターに対し、同国の貿易黒字が人民元の実質為替レートの下落もあって急増し、外貨準備高を2008年までに1兆4000億ドルを超える水準に押し上げる、との見方を示した。 従って中国人民銀行(中央銀行)は、人民元の許容変動幅を拡大するか、インフレ進行を容認するかのどちらかによって為替レートを実質的に引き上げる選択を迫られている、と同副所長は指摘。もし人民銀行が後者を選んだ場合、金利の引き上げが必要になろうと述べた。同副所長は「たとえ当局が一段と厳しい引き締め措置を直ちにとったとしても、外貨準備の増大傾向を早期に反転させるのはなお困難だろう」とし、中国の外貨準備高は年2000億ドルずつ増加しており、中国の経済構造が劇的に変化しない限り、08年には1兆4000億ドルを超えて1兆5000億ドルに向かうだろうと予想した。

■サミット目前で、日本は最悪の金融政策「ゼロ金利」を脱却する!という極当たり前の決定を下します。未だに、日本中で取り付け騒ぎが起こらなかったのが不思議なのですが、最近までちょっと便利に預金を引き出そうと思ったら、トンデモない手数料を分捕られても、ほとんど利息の付かない預金口座を残していた日本人には、「欲しがりません、勝つまでは!」の教育が行き届いているのでしょうなあ。看板通りにグローバル化を実施し、金利も自由化していたら、田舎の地銀などは解約が続出して利息をたっぷり付ける外国の銀行に預け直す人が続出したでしょうが、実質的な金融「鎖国」体制と、歴史に無い「ゼロ金利」を4年も5年も実施できたのは、日本の奇跡と言っても良いでしょうなあ。中国の預金者は、そんなに大人しくはありません。

■非合法な地下銀行を利用する者も多いし、毛沢東の肖像が印刷されている人民元を嫌って、ひたすら米ドルか金貨か石油を買い集める人達です。米ドルは世界で一番米国の国債を買っている国に集まる仕組みになっていますから、あれよあれよと思う間に、日本よりも多くのドルを中国が蓄えてしまいました。少なくとも、中国人民銀行は「スーパーK」の製造印刷はしていないようですから、日本の技術援助とパクリで作り出した工業製品を米国に売り付けて手に入れたドルを還流させて米国の国債を買い支え、期限が来た債権を売り払ってまたドルを積み増しているようですなあ。

ちょっと待てよ、サミット! 其の弐

2006-07-14 22:28:46 | 外交・世界情勢全般


米通商代表部(USTR)の農業交渉責任者であるジェイソン・ハフェマイスター代表補代理は13日、ワシントンで一部日本メディアと会見した。行き詰まっている世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の農業分野について、「各国の市場開放が不十分ならば米国は合意できない。我々は真剣な交渉相手を求めている」と述べ、ドーハ・ラウンドの成功には、日本など食料輸入国が大幅な関税削減などで輸出国側に歩み寄ることが不可欠だ、との認識を示した。15日から始まる主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)については「前向きなサインを期待している」と述べた。読売新聞 - 7月14日

■中途半端に米の輸入を始めている事を日本国民の多くは忘れているでしょうなあ。最近も、日本人が喰わない輸入米の保管料が馬鹿にならなくなって家畜の飼料にするんだとの報道が有りました。どんな農薬を使っているのか分からない、妙に安い中国産野菜を食べるようになってしまったのも、WTOに日本が加盟したのが遠因です。自動車や電化製品を売りたければ農産物を買え!と小麦や大豆やとうもろこしが腐るほど収穫できる米国が騒いだ結果でしたなあ。クリントン時代は、「USTR」は悪の権化だったはずですが、もうすっかり忘れているのですなあ、日本人は。米を炊くのが面倒くさい!と平気で主張する母が増え、カップ麺を乾いたままばりばり食べて泣いていた小学生が秋田県で水死しましたなあ。あの母子家庭には炊飯設備が無かった!

■日本の農業を守るか?トヨタ世界一を守るか?その大問題はまだ解決などしていませんぞ。勿論、農協利権やら農水族議員の裏商売が繁盛する必要は有りませんが、日本列島の水と土と食の問題を工業や貿易とバランスさせるには、もっと大きな議論が起こらねばなりません。子供や若者がシャリシャリ、もぐもぐと米国産のジャンク・フードを食べて無駄に太って行くのは亡国への道でしょうなあ。


ロシア通信(RIA)などが13日、クドリン財務相の発言として報じたところによると、ロシアは世界貿易機関(WTO)加盟に関して米政府との合意に達した。それによると、ブッシュ米大統領とプーチン・ロシア大統領が、14日か15日にサンクトペテルブルクで会う際にロシアのWTO加盟に関する協定に調印するという。インタファクスがクドリン財務相の発言として伝えたところでは、同相は「協定に、明日か明後日、主要国(G8)首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)が始まる前に調印できるよう期待している」と語った。ロイター - 7月14日

■米国は他の貧乏国家がWTOに加盟するのは応援しているのに、ロシアだけには意地悪しているとばかり思っていたら、ちゃんと裏では話が付いていたのですなあ。中国の加盟も唐突でしたが、その後で「知的所有権」が大問題になって未だに解決していないのに、米国は「あれは大失敗でした」とは一言も謝りませんなあ。中国以上のマフィア経済国家になってしまったロシアを、本当にWTOに加盟させても良いのでしょうか?この問題でも、日本は一切の口出しを許されていませんぞ!北朝鮮のミサイル問題など、本当は極小さな問題だったのではないか?という疑惑が出るのはこういう事情が有るからです。


小泉純一郎首相はサンクトペテルブルク・サミット(主要国首脳会議)出席を前にロシアのインタファクス通信とのインタビューに応じ、日ロ間の相互信頼を確立し、経済関係を発展させるためには平和条約の締結が必要だと強調した。……首相は「ここ数年間、日ロの経済・貿易関係は発展を維持しているが、潜在的可能性をはるかに下回るレベルだ」と語り、その主たる原因は平和条約が存在せず、信頼関係が構築されていないからだと述べた。首相はまた、北朝鮮のミサイル発射問題について、サミットで国際社会が協調反応を示すことが重要だと指摘。北朝鮮に6カ国協議への無条件復帰を改めて呼び掛けた。時事通信 - 7月13日

■ロシアとの間には北方領土問題、東シベリアのパイプライン問題が横たわっているのですが、小泉プレスリー首相にとっては、蟹を買って廃車寸前のボロ車を売る、そんな情けない貿易を基盤として「平和条約」の締結を目論むつもりなのでしょうか?北朝鮮ぐらいの小物が相手なら、「日朝平壌宣言」程度の幼稚な作文でも大喜びで乗って来ますが、大国ロシアとなればまったく話は違って来ますぞ。


主要国(G8)は、ロシアで15日から開く首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)で、北朝鮮のミサイル発射問題について「国際、地域の平和と安定を損なう」と強い懸念を表明し、発射凍結などを求める「不拡散に関する首脳声明」を発表することを決めた。日本政府関係者が14日、明らかにした。声明は前文で「大量破壊兵器と(ミサイルなどの)運搬手段の拡散は、国際の平和と安全に対する脅威」と表明。名指しは避けるものの北朝鮮などを念頭に、ミサイルや関連物資の技術移転などの阻止の必要性を訴える。

■「名指しは避けるものの」などと暢気な報道ですなあ。「拉致」「拉致」「拉致」と書き込まなかったばかりに、共同宣言に調印した後で、日本を「嘘つき」呼ばわりして開き直った相手でしょ?名指ししなければ、「えッ、それは誰の事?それはともかく、我々は要求する!」と交渉の現場では騒ぎ出すに決まっているでしょうに!何だか、日本の外務省が急に大活躍し始めたような話は、裏で誰かさんが結託して作ったシナリオ通りの展開だったのではないでしょうか?どこまでも北朝鮮に「知らぬ、存ぜぬ!」と開き直れる穴と隙間をたっぷりと用意した文書を作って、日本の世論(せろん)のガス抜きをして黙らせる。その後であちこちから回って来る請求書を押し付ける?

ちょっと待てよ、サミット! 其の壱

2006-07-14 22:28:23 | 外交・世界情勢全般
■北朝鮮のミサイル乱射事件!中東戦争の勃発!その黒々とした爆煙に隠れてイランの核開発問題!初めてロシアで開催されるサミットを前に、気のせいか日本を標的にしたような難問が、誰にでも非常に分かり易い形で噴き出しているのは偶然なのでしょうか?ちょっとサミット(頂上会議)について復習してみましょう。

■石油危機やらドル・ショックやらで世界が緊張した1975年にランブイエで日、米、英、仏、独、伊の6か国の首脳が集まって、話し合いで国際問題を解決しましょうね、と言う約束を再確認したのが最初です。この冷戦時代に開かれて会議自体、少々胡散臭いのですが、有象無象が集まる国際連合よりもてきぱきと議論が進むので、このG6会議が世界の注目を集めるようになります。1976年のプエルトリコ会議からはカナダも参加してG7になります。そして、1977年のロンドン会議からは欧州共同体(EC)の委員長が参加しています。この頃から既にサミットの形骸化の予兆が出ていますなあ。

■冷戦が終了したので、1991年のロンドン会議からは、G7サミットの会合の後で、ロシア大統領と各首脳が話し合う慣例が出来ます。サミットの和訳は「先進国首脳会議」なので、ロシアの参加は看板に偽り有り!ということになります。でも、ソ連崩壊後の経済ぼろぼろ状態だったロシアは、有毒物質が詰まった粗大ゴミみたいなもので、仲間外れにして暴発されたらエライことだったので、目の届くところに椅子を用意したのでした。でも、ソビエト革命の段階から欧米経済と裏ではちゃんと繋がっていたと言われているので、素人には分からない事情が有ったのでしょうなあ。

■その後もロシアの大統領は、1994年のナポリ会合では首脳会議の政治討議に参加、1997年のデンヴァー会議では参加したくても発言の材料の無い「世界経済」「金融」には出られないという、とても恥ずかしい立場ながら基本的には全ての日程に参加するようになります。この段階で世界中の社会主義者や社会主義研究者は失業状態になりましたが、不思議に日本ではその現象が顕著にはなりませんでしたなあ。そんな体たらくだから北朝鮮につけ込まれるのですぞ!それはともかく、1998年のバーミンガム会議からは済し崩しに「G8サミット」と名前が変わります。今から考えれば、名称変更の条件に日本は「北方領土問題」を持ち出しても良かったのではないでしょうか?

■そして、対テロ戦争が本格化した2003年のエビアン・サミット以降、ロシアは完全に全ての日程に参加するようになりました。サッカーのワールド・カップがドイツで開催された2006年に、いよいよロシアでサミットが開かれるというわけです。最初に並べた北朝鮮のミサイル、中東戦争、イランの核開発の3点セットをもう一度考えてみると、北朝鮮の問題を真剣に討議しようと言いそうな参加国が無いことに気が付きます。サンクト・ペテルブルク・サミットには、もっと重大なテーマが有るのではないでしょうか?


胡錦濤国家主席はロシアのプーチン大統領の招請を受け、17日にサンクトペテルブルグで開催される「G8・発展途上国対話」に出席する。11日の外交部定例記者会見で発表された。会見に立った外交部の姜瑜報道官によると、会議ではエネルギー安全保障、伝染病予防、教育問題、アフリカの発展問題などが話し合われる。 姜瑜報道官はまた、「胡錦濤主席は16日、インド、ブラジル、南アフリカ、メキシコ、コンゴ共和国の首脳とグループ会談し、関心を共にする問題について意見を交換する」と述べた。
人民網日本語版 2006年7月12日

■勿論、中国はサミット参加国ではありません!しかし、今、国連安保理で大騒ぎしている北朝鮮のミサイル「実験」の制裁決議を巡るマスコミ報道を見ると、何だか中国がサミットの参加国でもあるかのような印象が強くなっていませんかな?珍しく日本の外務省が機敏に動いて米国と連携して安保理を動かしているような報道も有りますが、海外からの報道を見ていると、そんな事を言っているのは日本のテレビや新聞だけみたいですぞ!何だか太鼓の音に乗って踊っている猿回しの猿のような気もしますなあ。突然、日本が抜群の外交能力を身に付けて国連で暴れ回るようになった?そんな事が信じられるでしょうか?もっと大きな絵図を描いた連中が居るような気がして仕方がありませんなあ。


小泉純一郎首相は14日午前(日本時間同日夕)、ヨルダンのバヒト首相とアカバの国王離宮で会談した。緊迫化する中東情勢に関連し、バヒト首相は、イスラエルに「最大限の自制」を促すよう要請。小泉首相は15日から始まる主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)で、中東和平に向けたメッセージを発するべきだとの考えを示した。小泉首相は、ヨルダンの社会、経済開発を支援するため1200万ドルの無償資金協力を表明し、日本、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンの4者がパレスチナ・ヨルダン渓谷の農業、産業開発を進める「平和と繁栄の回廊」構想への協力を要請した。
共同通信- 7月14日

■少なくとも、衛星放送の海外テレビ・ニュースを観ている限り、小泉プレスリー首相の「平和と繁栄の回廊」に注目するコメントを出している国は見当たりません。歓迎の挨拶をしているのは第一にヨルダン、第二がパレスチナ自治政府のハマスと対立している人達、イスラエル側は戦争の真っ最中なので、こんな寝言に本気で耳を傾けている暇など有りません!あッ?この順位は間違いですね。一番喜んでいるのは日本の外務省と外交辞令を真に受けている小泉プレスリー首相でした。

小泉さんに暑中見舞い 其の参

2006-07-14 10:49:42 | 外交・情勢(アジア)
■既にパレスチナ自治政府内の武装勢力の拠点のほとんどは制圧しているようですから、ヒズボラが当面の敵とされたことになります。自衛行動が何処まで広がるかは、シリアとイランの出方次第ということになりそうです。

さらにイスラエルは国連に対して、ヒズボラによる攻撃を「明らかな宣戦布告」とし、攻撃の責任はレバノン政府にあると訴えた。その後、イスラエルはレバノンに侵攻して空爆を開始。この空爆により、多くの橋が破壊され、市民2人が死亡した。イスラエル国連大使は記者団に対し、レバノンに加え、ヒズボラを支援しているとされるイランとシリアも非難した。
ロイター - 7月13日

■事態は「第5次中東戦争」の入り口です。その現場に我らが小泉プレスリー首相が滞在しているのですぞ!今こそ「言葉」が必要なのですが、ワン・フレーズ・ポリティクスなど通じる相手ではありませんからなあ……。


小泉純一郎首相は13日昼(日本時間同日夕)、パレスチナ自治政府のアッバス議長とラマラの議長府で会談し、パレスチナに対する総額約3000万ドルの医療・雇用支援を表明した。同時に、パレスチナ・ヨルダン渓谷の農業、産業開発を進める「平和と繁栄の回廊」構想を提示した。同構想は、中東和平実現に向けた信頼醸成が目的。小泉首相は12日のオルメルト・イスラエル首相との会談で、具体化に向け日本、イスラエル、パレスチナにヨルダンを加えた4者による協議機関の設置を提案し、賛同を得た。小泉首相はアッバス議長にも協力を呼び掛け、初会合を日本で開催することを提案。アッバス議長は協議機関設置に同意した。
共同通信 - 7月13日

■日本で準備した「平和と繁栄の回廊」構想にはレバノンが入っていません。更に「4者会合」にはハマスが入るのか入らないのかも言及していません。でも、ハマスの要人とは会談していないことでハマスを排除した提案であるかのようなイメージを作ってしまいますが、それは外務省の目論見通りの展開なのでしょうか?中東と言う場所は、玉虫色の約束事をすると後で大きな問題が起こる場所ですぞ!具体的な計画も無いまま「3000万ドル」などと金額ばかり明言して大丈夫でしょうか?ラマラの議長府を訪れたのなら、ヨルダン渓谷の開発よりもラマラ周辺の復興が急がれる事情は分かったはずですが、「復興支援」という文言は一切報道されていません。何処か大きくズレているような印象が強いですなあ。


小泉純一郎首相は13日夜(日本時間14日未明)、ヨルダンのアブドラ国王とアカバの国王離宮で会談した。首相は中東情勢の緊迫化に関し「難しい時期だからこそ、中長期的な地域発展の希望を与えることが大切だ」と指摘。パレスチナ・ヨルダン渓谷の農業、産業開発をイスラエル、パレスチナとヨルダン、日本が協力して進める「平和と繁栄の回廊」構想を提案した。これに対し、アブドラ国王は「全面的に協力する」と表明。両首脳は、構想具体化へ4者の協議機関を早期に発足させることで合意した。
共同通信 - 7月14日

■一滴の石油も出ず、アカバ港以外に海への出口を持たないヨルダンは、ムハンマドの直系と言われる血統を伝える王様だけが頼りのイスラム国です。常に周辺のアラブ諸国に意地悪されたり苛められる苦しい立場に置かれているので、先代のフセイン国王はPLOを国外に追放し、イスラエルと手打ちをして米国と手を結んだのでした。産油国のアラブ諸国からろくな経済支援も得られないのに、PLOの保護者の役を押し付けられ、イスラエルの敵に仕立て上げられた苦い経験を持っていますから、何処の国からでも「資金援助」は大歓迎なのです。小泉さんは悪気が有って「中長期的な」話をして歩いているのではないと思いますが、中東では常に「明日のこと」が最優先なのです。約束は常に破られ、仲間は裏切られ、信頼など決して長持ちしない、何でも起こるのが中東です。

■誰が小泉さんに中東の「中長期的」発展計画などを持たせたのでしょう?米国が国威信を懸けて作った『ロード・マップ』がどうなったのかを知らない人達が鉛筆舐め舐め作文したのでしょうか?幼児のように素朴で世間知らずな提案は、時には愛らしく周囲をほっとさせるくらいの役には立つでしょうが、小泉さんが間抜けな計画案を喋り回っている間に、戦火はどんどん広がっているのです。思い込んだら同じ事を意地になって繰り返す、悪い癖が出てしまいましたなあ。小泉さんの暑気当たりという一席、そういう事にしておいた方が良さそうです。暑中見舞いを申し上げる次第です。

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小泉さんに暑中見舞い 其の弐

2006-07-14 10:49:16 | 外交・情勢(アジア)
■1979年以来、それまでに占領した緩衝地帯を周辺国に返還して来た流れが止まって逆流を始める事になり兼ねません。

イスラエル軍は13日午後(日本時間同日夜)、レバノン東部ベカー高原の同国空軍基地を空爆した。同国の軍事施設を直接の標的としたのは初めて。レバノンのイスラム教シーア派民兵組織「ヒズボラ」による12日のイスラエル兵拉致事件への報復で、イスラエル軍はヒズボラの拠点など計100か所以上にも攻撃を加え、少なくとも47人が死亡した。ヒズボラもイスラエル北部ナハリヤなど10か所以上をロケット弾で次々と攻撃し、民間人2人が死亡、50人以上が負傷した。

■ナハリアは、ハイファよりも北にある地中海に面した小奇麗な街です。PLOがヨルダンを追い出されてレバノンに本拠地を移していた頃、ゴム・ボートに乗ったテロ・グループが夜陰に紛れてレバノンの南岸から密かに上陸して、大捕り物事件が起こった場所です。ナハリアにロケット弾が着弾しただけでも大変な危機ですが、それを遥かに越えてハイファまで飛んだのですから、報復は熾烈を極めるでしょうなあ。ベカー高原を先制攻撃しているところを見ると、射程を大幅に伸ばしたロケット兵器の存在をイスラエル軍は事前に知っていたのかも知れませんが、まさかハイファまで標的にされているとは思いもしなかったのではないでしょうか?。


イスラエル軍の激しい軍事攻勢は12日夜の緊急閣議でヒズボラとレバノンへの報復措置が正式承認されたことを受けたもの。同軍は13日、ベイルート空港空爆に続き、海上封鎖のため艦艇をレバノン領海に侵入させるなど陸海空各領域の軍事封鎖を進めている。
読売新聞 - 7月14日

■双方の軍が対峙し国連の平和維持軍も駐留している国境を迂回して、海から武装勢力に侵入されるとイスラエル北部の市民生活が完全に破壊されるので、海上封鎖作戦は不可欠です。空港を使用不能にしたのは空からの逃走も武器の搬入も許さない姿勢を示したのでしょうが、こうなるとレバノンに隣接するシリアの動きが重要になります。陸路で助っ人や武器弾薬を運び込んだりすると、イスラエルは予防的な空爆を実行するでしょう。しかし、シリア領にまで攻撃を加えるとなると、その裏に居るイランとの衝突も覚悟したことを意味します。イランの核開発ばかりが注目されていますが、通常兵器や爆発物の供給源としてもイランは大きな役割を担っているので、サミットで中東問題を扱う場合、イラン問題は更に大きく扱われることになりそうですなあ。


イスラエル軍は13日、レバノンの港湾を封鎖したほか、ベイルート国際空港や同国の空軍基地などを空爆した。イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラがイスラエル兵を拉致したことへの報復措置として、12日にイスラエル軍が攻撃を開始して以降、レバノン市民の累計死者数は53人となった。ヒズボラもイスラエル北部を、少なくとも70発のロケット弾で攻撃。イスラエル救急隊員によると、女性2人が死亡、42人が負傷した。今回の衝突は、イスラエルがレバノン南部を占領していた96年以来、最も激しいものとなる。レバノンのアリディ情報相は緊急閣議後、完全な停戦を望んでおり、イスラエルによる「制限ない攻撃」が終わることを望んでいると述べた。イスラエル空軍の高官はロイターに対し、ヒズボラへの攻撃が続く限りレバノン空海域封鎖を継続する方針を示した。
ロイター - 7月14日

■国会に議席を得て政治組織に衣替えしたヒズボラならば、時を見てレバノン政府の一員として交渉相手になれた可能性も有ったでしょうが、テロリストはテロリストだ!とイスラエルは断を下すでしょうし、相手は「聖戦(ジハード)」を叫んで応じるでしょうなあ。


イスラエル内閣は12日、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラが国境を超えて攻撃し、イスラエル兵2人の身柄を拘束、8人を殺害したことを受け、「厳格な」報復攻撃を行うことを承認した。イスラエルのオルメルト首相率いる内閣は声明を発表し、「国境を越えた攻撃と、身柄を拘束された兵士の安全な帰還については、レバノン政府が責任を負うべきだ」と述べた。また、「この攻撃に対してイスラエルはふさわしい厳しさを以って行動する。犯罪者に対し、直ちに厳しい態度で臨み、イスラエルに対する今後の攻撃を防ぐために行動する」とした。

小泉さんに暑中見舞い 其の壱

2006-07-14 10:48:44 | 外交・情勢(アジア)
■小泉プレスリー首相は強運の持ち主だと日本のマスコミは面白可笑しく書き続けて来ましたが、それは本当なのだろうか?支持率が下がると不思議な巡り合わせで敵対勢力が自滅したり、マスコミが「サプライズ」と呼ぶちょっとした独断専行で策を巡らしたり、そんなこんなで5年間も政権を維持し続けたわけですが、後になって冷静に分析してみればマスコミの報道によって小泉さんが神憑(がか)りしたかのような幻想が作り出されていただけだったと判明するかも知れませんぞ。国会内の権力闘争を「誰にでも分かる」テレビ・ドラマ仕立てにしてしまったり、複雑な制度改革を「素人受け」するキャッチフレーズだけで中身が分からない状態にしてしまったり、何よりも外交を「呑み込み易い」単純な図式に落とし込んでしまったのは深刻な禍根を残してしまったのではないでしょうか?

■ロシアのサミットに向かう「途中に立ち寄った」中東では、次々と封印が解かれパンドラの箱の蓋が開けられたような憎悪の爆発が連続しています。小泉さんはまだ強運に恵まれているかのように、ロケット弾が落ちて来るような場所には居会わせないように移動しています。ガザ回廊には近付かないし、レバノン国境にも近付かないので、案外現場の緊張感が分からない状態に置かれているのかも知れません。日本で準備して来た「平和と繁栄の回廊」を水戸黄門の印籠みたいに振りかざして歩いている小泉さんは、外交辞令も含めて何処へ行っても大歓迎を受けている格好になっているので、御本人は得意になっているのでしょうが、それも後になって面倒なことになる心配が有りますなあ。


パレスチナ自治政府のアッバス議長は12日夕、小泉首相との13日の会談を前に、ヨルダン川西岸ラマッラの議長府で日本人記者団と会見した。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラがイスラエル兵を拉致、同国軍のレバノン侵攻を招いたことについて、議長は「新たな当事者たちが加わり(和平情勢が)一層こじれた」と危機感を示した。議長は、ハマスが先に拉致した別のイスラエル兵解放問題も含め、「我々が望んでいるのはアラブの一致団結した対応」と語った。周辺アラブ諸国が、緊張緩和に向け、ヒズボラやハマスに近いシリアも取り込んだ形で積極関与するよう求めたものだ。
読売新聞 - 7月13日

■ハマスにヒズボラが呼応して動き出したのですから、シリアとイランが積極的に介入して来る可能性が高まり、戦況はますます悪化の一途を辿るでしょう。ハマスはパレスチナ自治政府が、ヒズボラはレバノン政府が取り込んで合法的な組織に変質する期待を抱かせたのですが、どちらも武装組織としてのアイデンティティを捨てることは有りませんでした。10年の平和は状況を変える効果を発揮することなど無かっただけでなく、何処から入ったのか分からないロケット技術で越境兵器が進化していたのでした。


レバノンとの国境に近いイスラエル第3の都市ハイファに13日、ロケット弾が着弾した。イスラエル軍は、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラによるものとしている。レバノンからイスラエルに向け80発以上のロケット弾が発射されたが、国境から30キロ以上離れているハイファには、これまで到達していなかった。今のところ、死傷者は報告されていない。イスラエルのアヤロン駐米大使は、ハイファへの攻撃について、状況が「かなり大幅に悪化した」と述べた。一方、ヒズボラ側は、ハイファへの砲撃を否定している。ロイター - 7月14日

■発射したのかしないのか、それも分からない混乱状態のようですが、ヒズボラもハマスと同じで、組織としての統一を失っている事が露見したことになります。ハイファはイスラエル建国以来、最も重要な港湾都市です。バハイ教というイスラムから枝分かれした世界宗教の本殿の黄金のドームが輝いている海辺の丘の街ですが、ここが飛び道具で攻撃された事など一度も有りません。ここに届くロケット弾の出現はイスラエルの防衛本能を極限にまで強めてしまいますぞ!犠牲者は出ていない模様ですが、レバノン南部から発射されたロケット弾がハイファに着弾したのですから、下手をしたらイスラエル軍はレバノンの南半分を掃討しようと考えるかも知れません。

■ヒズボラが結成される切っ掛けとなった1982年のレバノン侵攻でも、イスラエル軍は無制限に北上などしませんでした。しかし、レバノン国境からハイファを狙える兵器が敵の手に入ったとすれば、同じ性能の武器がぐるりと回ってヨルダン国境からヨルダン川西岸に運び込まれたら、経済の中心地のテル・アビブが楽々と射程に収まってしまいます。イスラエルが最も恐れるパレスチナ領が西側に膨らんでくびれている地政学的な弱点を攻撃されて国土が南北に分断される恐れが出て来ます。そうなったらイスラエル軍は半狂乱で広大な緩衝地帯を手に入れようと動きます。