■サマワから陸自が引き上げれば、イラクや中東の問題が解決して日本はお役御免になるわけではない!という当たり前な話を、東大の山内昌之教授が分かり易く説明する投稿記事が6月7日の朝日新聞に掲載されました。5月末に東京で開催された「第4回日本・アラブ対話フォーラム」に参加した感想を織り交ぜながら、今の中東情勢を総括したものです。
……これは外務省を事務方としながらも、政治家や実業家や有識者による政府への中東政策の提言と建設的批判は目指す集まりである。正式メンバーのエジプトとサウジアラビア以外に、最近ではフォーラムの充実ぶりを聞いた他のアラブ各国からも強い参加希望が寄せられるようになった。今回の会議では、初めてイラクとパレスチナの参加者も迎えたのである。
こういう重要な会議が開かれても、日本のマスコミではほとんど取り上げないのはとても不思議です。山内教授の御指摘の通り、油価高騰の原因は日産383万バーレルのイラン石油と、日産202万バーレルのイラク石油が、それぞれ世界の全産油量の4.5%、2.4%を占めているのですから、合計7%もの莫大な原油が、核開発疑惑だの宗派内の勢力争いなどで何が起こるか分からないのです。浅はかなのか世界的な陰謀を企んでいるのか分からないブッシュ政権が、イランの核疑惑への対応を誤れば、イラクもイランも大混乱させて中東全体が火を噴くような最悪の事態も有り得ますなあ。
……フォーラムに参加したサウジアラビアのトワイジェリー議員が「もう一つのイラク」を作ってはならないと述べたのはもともなのだ。米国のボルトン国連大使は、日本がイランと共同開発しているアザデガン油田の掘削中止を求めているが、英国はじめEUのイラン石油利権について米国が沈黙を保つのはバランスを欠いている。また米国は、日本の輸入石油のうち約14%を占めるイラン相当分を放棄する代償を提供するわけでもない。……日本こそ原子力の平和利用意味を道徳的に説く資格があると対話フォーラムで語ったのは、エジプト大統領政治顧問のオサーマ・エル・バーズ氏である。
■このような高邁(こうまい)な政治思想を掲げられますと、日本にはそれに相応しい総理も総理候補も居ないという事に愕然としてしまいますなあ。失礼ながら、「ジュンちゃーん」とアホな声援を送っていた多くの皆さんの目には、こんな中東の姿は見えず、耳には声が届きそうにもありませんぞ。選挙のお祭騒ぎは面白ければ良いのでしょうから、ホリエモン君でも小泉チルドレンでも、何でも良いのでしょうなあ。香港や台湾が危なくて買えないぞ!と拒否しているような怪しげな牛肉を全面的に輸入してしまうのが日本政府ですからなあ。有権者と当選者とは同じレベルなのでしょう。小泉政権支持者は、やはり安い牛丼が大好きなのでしょうか?そのお気に入りも、原油価格が暴騰したらあらゆるコストが高くなって楽しめなくなるのですが……
イラクのジャービル国会議員(バグダード大学政治思想学部長)は、イラク南部での連邦制の導入にシーア派指導者のシスターニ師も慎重であると紹介した。そこにはイランの干渉を斥けながら国家分裂を避けようとする穏健派の良心が感じられた。シーア派であっても自分達はアラブへの帰属意識をもっているのに、総じてイラクのシーア派はアラブ世界から注目されず現時あのイラクも冷遇されていると複雑なアイデンティティを率直に語ったものだ。……イラン大統領から新首相にイラン外相の訪問がもちかけられたときにも、すぐに断ったらしい。イランが核問題をかかえており、欧米の関与する紛争にイラクがまきこまれたくなかったからだろう。……
■山内教授はイランとイラクの国境地帯が流動化して行く危険を強調しつつ、日本には日本の外交戦略が必要なのだと、ちょっと難しい事を要求しておられますぞ。
……いずれにせよ日本は、イラクとイランの問題が不即不離に変動する面を注視する必要がある。歴史的なイラン評価と戦略的な思考を冷静に進めるように米国に助言する方向こそ、イランを核不拡散の道に導くと同時にアザデガン開発を成功させる日本の基本的な国益にかなう。北朝鮮を含む6カ国協議に米国を入れるために努力した日本は、イランとの多国間協議の場に米国と一緒に入って然るべきだろう。しかし、中国がこれに反対していると聞く。日中関係の閉塞感は、中東外交にも及んでいる。
何とも恐ろしい話で投稿論文が締め括られたものです。平壌電撃訪問などで国民を驚かせた小泉さんですが、外交政策は幼稚化と矮小化が進んでしまったようです。日米関係以外に外交の話題が無くなってしまったのは、やはり靖国問題が原因なのでしょうなあ。「靖国問題」というのは、参拝問題ではなく、総裁選挙の「公約」にした責任と外交感覚の問題でしょう。「心の問題」ならば、総裁選挙などとは無関係に毎日欠かさず参拝していれば、8月15日にも黙って参拝すれば良いのですし、民主主義の原則に従って「公約」を実行するのなら、その旨を宣言して約束通りに参拝すれば良いのです。選挙対策の売り物の一つに靖国を利用するから、話がややこしくなってしまったように思えます。それは「心の問題」などという文学的な代物ではないでしょうし、騒ぎが大きくなったのはマスコミの責任だ!などと言い切れる小泉総理は、やはり変な政治家なのでしょうなあ。
■問題のイランは、原油高を利用して人気取りの補助金バラまきを続けてやっと政権を維持している状態で、あまりの苦しさにロシアと中国の甘言に乗せられて、上海機構の会議にのこのこと出掛けて行くほどの錯乱状態なのですから、対ロシア外交も対中国外交も織り込んで、こうしたイランの動きを制する策を日本は打ち出さねばならないのですが、北朝鮮外交で露呈した小泉総理と外務官僚との協力体制の浅薄さを見てしまうと、世界戦略の中心に中東和平を置いて日本が活動するのは無理なようです。因みに小泉総理は、楽しみにしていた最期の訪米旅行の後、中東諸国も訪問するのだそうですぞ。勿論、イランにもイラクにも行きません。否。行けないのでしょうなあ。
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……これは外務省を事務方としながらも、政治家や実業家や有識者による政府への中東政策の提言と建設的批判は目指す集まりである。正式メンバーのエジプトとサウジアラビア以外に、最近ではフォーラムの充実ぶりを聞いた他のアラブ各国からも強い参加希望が寄せられるようになった。今回の会議では、初めてイラクとパレスチナの参加者も迎えたのである。
こういう重要な会議が開かれても、日本のマスコミではほとんど取り上げないのはとても不思議です。山内教授の御指摘の通り、油価高騰の原因は日産383万バーレルのイラン石油と、日産202万バーレルのイラク石油が、それぞれ世界の全産油量の4.5%、2.4%を占めているのですから、合計7%もの莫大な原油が、核開発疑惑だの宗派内の勢力争いなどで何が起こるか分からないのです。浅はかなのか世界的な陰謀を企んでいるのか分からないブッシュ政権が、イランの核疑惑への対応を誤れば、イラクもイランも大混乱させて中東全体が火を噴くような最悪の事態も有り得ますなあ。
……フォーラムに参加したサウジアラビアのトワイジェリー議員が「もう一つのイラク」を作ってはならないと述べたのはもともなのだ。米国のボルトン国連大使は、日本がイランと共同開発しているアザデガン油田の掘削中止を求めているが、英国はじめEUのイラン石油利権について米国が沈黙を保つのはバランスを欠いている。また米国は、日本の輸入石油のうち約14%を占めるイラン相当分を放棄する代償を提供するわけでもない。……日本こそ原子力の平和利用意味を道徳的に説く資格があると対話フォーラムで語ったのは、エジプト大統領政治顧問のオサーマ・エル・バーズ氏である。
■このような高邁(こうまい)な政治思想を掲げられますと、日本にはそれに相応しい総理も総理候補も居ないという事に愕然としてしまいますなあ。失礼ながら、「ジュンちゃーん」とアホな声援を送っていた多くの皆さんの目には、こんな中東の姿は見えず、耳には声が届きそうにもありませんぞ。選挙のお祭騒ぎは面白ければ良いのでしょうから、ホリエモン君でも小泉チルドレンでも、何でも良いのでしょうなあ。香港や台湾が危なくて買えないぞ!と拒否しているような怪しげな牛肉を全面的に輸入してしまうのが日本政府ですからなあ。有権者と当選者とは同じレベルなのでしょう。小泉政権支持者は、やはり安い牛丼が大好きなのでしょうか?そのお気に入りも、原油価格が暴騰したらあらゆるコストが高くなって楽しめなくなるのですが……
イラクのジャービル国会議員(バグダード大学政治思想学部長)は、イラク南部での連邦制の導入にシーア派指導者のシスターニ師も慎重であると紹介した。そこにはイランの干渉を斥けながら国家分裂を避けようとする穏健派の良心が感じられた。シーア派であっても自分達はアラブへの帰属意識をもっているのに、総じてイラクのシーア派はアラブ世界から注目されず現時あのイラクも冷遇されていると複雑なアイデンティティを率直に語ったものだ。……イラン大統領から新首相にイラン外相の訪問がもちかけられたときにも、すぐに断ったらしい。イランが核問題をかかえており、欧米の関与する紛争にイラクがまきこまれたくなかったからだろう。……
■山内教授はイランとイラクの国境地帯が流動化して行く危険を強調しつつ、日本には日本の外交戦略が必要なのだと、ちょっと難しい事を要求しておられますぞ。
……いずれにせよ日本は、イラクとイランの問題が不即不離に変動する面を注視する必要がある。歴史的なイラン評価と戦略的な思考を冷静に進めるように米国に助言する方向こそ、イランを核不拡散の道に導くと同時にアザデガン開発を成功させる日本の基本的な国益にかなう。北朝鮮を含む6カ国協議に米国を入れるために努力した日本は、イランとの多国間協議の場に米国と一緒に入って然るべきだろう。しかし、中国がこれに反対していると聞く。日中関係の閉塞感は、中東外交にも及んでいる。
何とも恐ろしい話で投稿論文が締め括られたものです。平壌電撃訪問などで国民を驚かせた小泉さんですが、外交政策は幼稚化と矮小化が進んでしまったようです。日米関係以外に外交の話題が無くなってしまったのは、やはり靖国問題が原因なのでしょうなあ。「靖国問題」というのは、参拝問題ではなく、総裁選挙の「公約」にした責任と外交感覚の問題でしょう。「心の問題」ならば、総裁選挙などとは無関係に毎日欠かさず参拝していれば、8月15日にも黙って参拝すれば良いのですし、民主主義の原則に従って「公約」を実行するのなら、その旨を宣言して約束通りに参拝すれば良いのです。選挙対策の売り物の一つに靖国を利用するから、話がややこしくなってしまったように思えます。それは「心の問題」などという文学的な代物ではないでしょうし、騒ぎが大きくなったのはマスコミの責任だ!などと言い切れる小泉総理は、やはり変な政治家なのでしょうなあ。
■問題のイランは、原油高を利用して人気取りの補助金バラまきを続けてやっと政権を維持している状態で、あまりの苦しさにロシアと中国の甘言に乗せられて、上海機構の会議にのこのこと出掛けて行くほどの錯乱状態なのですから、対ロシア外交も対中国外交も織り込んで、こうしたイランの動きを制する策を日本は打ち出さねばならないのですが、北朝鮮外交で露呈した小泉総理と外務官僚との協力体制の浅薄さを見てしまうと、世界戦略の中心に中東和平を置いて日本が活動するのは無理なようです。因みに小泉総理は、楽しみにしていた最期の訪米旅行の後、中東諸国も訪問するのだそうですぞ。勿論、イランにもイラクにも行きません。否。行けないのでしょうなあ。
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