きょう、九州電力は、三反園鹿児島県知事が求めていた「川内原発を即時に一時停止して点検をすること」を拒絶しました。
この話は、反原発を考えている人たちの間で一般的には、九州電力への不信としてとらえられていることが多いと思います。
しかし、僕は反原発的感覚をベースに考えても、違和感を感じているのは、鹿児島県知事に関してです。反原発側の一部のネット住民は、「木下が裏切った」とタイトルだけでまた中身も読まずに過剰反応するかもしれませんが、読者はきちんと確認してください。
この話は、そもそもおかしいのです。
「熊本地震で県民が不安を感じているから即座に一時停止して点検しろ」というのが、鹿児島県知事の主張です。
まず、県民不安を大前提に考えるなら、一時停止点検でなく、そもそも稼働は継続すべきではないと論を立てるのが普通の感覚です。
そうは言わずに、前回の熊本地震で異常がおきているのか、それを確認すべきという主張。
政治的アドバルーンということ以外に、これ僕には意味がわからないです。
熊本地震で、周辺の地震リスクが増加しているから、この原発の稼働はすべきではないとする流れならよくわかります。
しかし、すでに起きた地震によって、内部に異常が生じている可能性があるかもしれないから、早めに停止させていったん確認しろというのが知事が主張されている論理と思います。
勿論、どんなときにも原発は異常がおこる可能性はありえますから、稼働はすべて停止すべきです。
大きい地震が近くで発生したなら、当然そう思います。
しかし、ある特定の地震揺れで、その影響がおきたかもしれないから、確認で一時停止しろというのは、本当に異常が確認されるような揺れだったのかどうかが問われることになります。
起きうるかもしれない状況を想定して、原発について稼働停止を求める話。
すでに起きたある揺れについて、即時一時停止して、点検しろという話。
いいですか、「稼働停止を求める」ことと、「一時停止で点検」は、二つは実は質の違う要求です。
「一時停止で点検」は運用する側の基準による話で、それを外部から求めるのは、よほどの技術的根拠を必要とします。
この場合は、川内原発が実際にどのくらい揺れているのかということがそれに該当すると考えるしかありません。
近隣でどれだけ揺れたのかでなく、実際に数値として川内原発がどこまで揺れたのか。
僕はこの話は、熊本地震がおきた時に、「制御棒が入らなくなっている」というデマが垂れ流されたときのやり取りを思い出す感覚に近いです。
その時の僕の文章を再掲載します。
------------------------------------------------------------------------------------------------------
この地震の行く末がどうなるのか分からない中で、川内原発を稼動し続ける政府・原子力規制委員会・九州電力に私は一個人として、異議申し立ては変わりません。
地震がどういうものか、気象庁会見がわからないと話している中で、「止めない」という原子力規制委員会トップの言い分は、狂気に近い状態と思います。
原発のことは彼等が辛うじて専門家であるとは言い張れても、地震のことなど何一つ分かっていない状態です。そうした連中は、福島第一原発事故でも唯一の砦となった免震棟すら反故にしており、そんな原発を稼動させ続ける感覚は許されませんし、ましてあれだけのパワーの地震が起きている中で、その状況推移が見えていないのに、稼動を続けて万が一のリスクを拡大させ続けていることは、許される話ではありません。
僕の基本認識は以上です。
ですが、川内原発の稼動が許される話ではないとしても、あきらかに意味不明の情報が匿名ツイッターから発信され、それに慄いたり、拡散させている状態を見ると、またしてもネット住民の頭はお花畑かと思います。
流れているのは、次の情報です。
「九州電力の知人からの情報熊本地震により川内原発の制御棒が入る長いシリンダーが歪み、制御棒の出し入れが100%作動しないらしいだから、地震発生時に自動停止できなかったというつまり 現時点でも原発を停止できないらしい(今後も稼働しっぱなし!)」
熊本地震で、川内原発の震度は2から3とされています。
仮に、川内原発の震度を九州電力が嘘をついていたり、川内原発の揺れに関して、掛かっている力を嘘をついていると仮定してみます(嘘をついているのが事実と僕が考えるわけでなく、そういう仮定でもしないと、この話は全く成り立たないからです)。
気象庁によると、川内原発の周辺の自治体で、震度は最大でも震度4でした。
気象庁のこのデータが嘘をついている可能性も全面的には否定できないと言われる向きもあるかもしれませんが、現地からそんな声もおきている状態ではありませんから、震度4は事実としか思えません(原発と違って一般住民がいますから、震度偽装発表は意味がありませんし不可能、というかそんなことはしないよ気象庁は、あたりまえ)。
こんなことまで、確認しながら書いていて、溜息が出ます。
よいですか、原発周辺自治体の震度計よりも、構造が強固な原発に設置されている震度計が大きな数字を出すことは考えられません。
川内原発直下地震でもないのですから。
そうすると、川内原発の最大震度は、万が一に九州電力が偽装していても(私は今回は偽装可能性を考えていません)、震度4を超えることは考えられません。
よいですか、では、川内原発が制御棒を入れて自動停止するのは、いくらの震度くらいとしているのか?
下記リンクを確認してください。
http://www.kyuden.co.jp/library/pdf/environment/action-report05/cdrom/20.pdf
彼らは震度5程度のゆれが来た場合に、自動停止すると、前から公にしています。
よろしいですか、制御棒を入れるとか入れないとか、そういう時点は、川内原発が震度5になった状態でないとそもそも始まっていません。
そして、彼等の報告では川内原発震度は2から3。
まわりの自治体の最大震度は4(気象庁に基づくもの)。
万が一の偽装可能性を想定しても、実際に震度5程度のゆれが襲っているとは、到底思えません。
-------------------------------------------------------------------------------------
原子力規制委員会に報告されている数値は下記のとおりです。震度3までの地震ならこの程度だろうと思います。
<九州電・川内(PWR)>
鹿児島県:最大震度5弱
薩摩川内市:震度4
1・2号機:運転継続中
プラントの状態に異常なし。
排気筒モニタ、モニタリングポストに異常なし。
地震計の指示値(1号機で代表)
広報用地震計の指示値(下記設定値の参考値。)
(補助建屋最下階)8.6gal、
(補助建屋1階) 12.6gal
原子炉自動停止設定値
(補助建屋最下階)水平方向160gal、鉛直方向80gal
(補助建屋1階) 水平方向260ga
九州電力のHPには、下記データも掲載されています。
特に大きい地震の震度は震度3を指しています。下記は九州電力ホームページより引用。
今回の地震による揺れで内部に異常が起きている懸念がぬぐえないから、一時停止で点検をというのは、震度3で10gal程度の揺れがあった場合は、毎回適用しないとならなくなります。
これは、1997年鹿児島北西部地震に関して九州電力の対応がおかしかったと考える感覚からしても(この時は最大震度で6弱が川内市内で観測でも停止せず)、過剰すぎる要求と思います。
いいですか、既におきた地震で、その微細な揺れで一時停止し点検を求めることの根拠は、かなり希薄です。
しかも、すでに四ヶ月以上が経過しています。そして来月と12月に川内原発1号機と2号機は定期点検に入ります。
「そこで念入りに点検にします」という回答が技術的対応としては、あたりまえの話になります。
これは、なんか決まりきった出来レースをしているような感覚に近い。
むしろ、原発に対して異議を唱えるポーズを鹿児島県知事がしているようにしか見えない話です。
そもそも彼は、川内再稼働に反対することを、選挙前後で明言しないことを貫き通した人物です(地元の記者が何回聞いても明言しなかった)。前知事に反対している、しかし保守派の支持を失いたくなかった為です。
しかし、前知事の川内原発再稼働を許せない一定数の県民支持も、彼の当選には寄与しました。
そうした状況下で、稼働している川内原発に対して、何かの姿勢は示さないとならない。
その為に、行われている、妥協的政治的パフォーマンスの様相が強いと思うのです。
ご本人がそういうパフォーマンスをされることはご勝手にというしかありません。
しかし、そうしたパフォーマンスによって、何かしらの達成があると反原発側が考えていることは、実は大きな間違いだろうと思います。
政治家が政治的におこなうことは、その内実をきちんと見定める努力をしないとなりません。そうした反省は、僕の中にも他の首長案件についても存在しています。
一見、反原発言説を行う政治家を、内実も信用してよいのかと自問自答はいつも必要ということです。
もっと、絶望してください。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------
【 放射能汚染の実地調査を市民側で行っていた或る専門家、全身の骨にがんが広がり亡くなるという悲劇 】
関口鉄夫さんのご冥福をお祈りいたします。
『2016年 真夏の大放談(4)』
【ノーベル賞の或るケーススタディから考察してみる、放射能を巡る"政治"ということ 】
重要情報や根幹的なテクストはメールマガジンで毎週金曜夜に配信(月4回)。
木下黄太メルマガ購読申込先⇒http://www.hoshanobogyo.com/
-----------------------------------------------------------------------------------
追記
ネット上では、三反園知事を「左」「反原発」として排撃するツイートばかりが散見されます。原発稼働について、この程度の注文をつける話でも過剰反応するネット住民の質の低さは想像を絶しますが、おそらくは何か具体的な工作が為されているのだろうと思われます(いくらなんでもこの程度の話に攻撃反応が多すぎる)。最近、「放射脳」的攻撃の増加も含めて、ネット上での反応がちょっと過剰になっていることは、今回の問題の本質とは別にして、一度きちんと考えておいた方がよいと思います。
これは被曝回避側にとって、実は、まずい話ばかりではないような気がしています。