RAMBLIN' JACK ELLIOTT / A STRAGER HERE
先日のグラミー賞で『Best Traditional Blues Album』 部門を受賞したランブリン・ジャック・エリオットの最新作「A STRAGER HERE」です。
フォークの神様ウッディ・ガスリーの継承者にして、かのボブ・ディランにも多大な影響を与えたというランブリン・ジャック・エリオット。彼がジョー・ヘンリーをプロデューサーに向かえ、ブラインド・レモン・ジェファソン、レヴァレンド・ゲイリー・デイヴィス、ロニー・ジョンソン、ブラインド・ウィリー・ジョンソン、ミシシッピ・ジョン・ハート、サン・ハウス、タンパ・レッドなど、まだブルースが得体の知れない魔力を秘めていた時代の巨匠達の曲を歌った作品です。ジョー・ヘンリー曰く「大恐慌の時代が生んだカントリー・ブルース」を。
しかし、ただフォーク・シンガーがブルースを歌ってみました、という作品ではありません。何せプロデューサーは現在のルーツ・ミュージック・シーンにおいて最も重要なプロデューサーといっても良いジョー・ヘンリーですから。ソロモン・バークの「DON'T GIVE UP ON ME」とか、ベティ・ラヴェットの「I'VE GOT OWN HELL TO RAISE」とか、エルヴィス・コステロ&アラン・トゥーサンの「THE RIVER IN REVERSE」とか、コンピレーション盤「I BELIEVE TO MY SOUL」とか。もちろん、シンガー・ソング・ライターとして自身の作品も大変評価の高い人でもありますけどね。で、このジョー・ヘンリー、09年はランブリン・ジャック・エリオットのこの作品と並んでアラン・トゥーサンの「THE BRIGHT MISSISSIPPI」をプロデュースしたことも話題になりましたね。
その「THE BRIGHT MISSISSIPPI」ではトゥーサンに古き良きニューオーリンズ・ジャズの世界を持ちかけ、ドン・バイロン、マーク・リーボウ、ジェイ・ベルローズといった一癖も二癖もありそうなバック・メンバーを配し、トラディショナルな息吹を現代世界の音楽として見事に甦らせました。
そしてジャック・エリオットのこの作品も構図的には似ています。彼をフォークではなくブルースの世界へ迷い込ませ、バックにはグレッグ・リーズ、デヴィッド・ピルチ、ジェイ・ベルローズ、ヴァン・ダイク・パークスといった、いかにもジョー・ヘンリー作品らしい面子に、ロス・ロボスのデヴィッド・ヒダルゴも加わっています。彼らの奏でるブルースは、確かにブルースなのでしょうが、一口にブルースとは言い切れないボーダーレスな広がりを持ち、ノスタルジック且つロマンチックでありながら退廃的でダークな色彩を放っています。ジャック・エリオットのしゃがれ声も、年輪を感じさせる渋みの中にうっすらと陰を感じさせる味わい深い響きを持っています。
例えばデルタの魔力が込められたようなサン・ハウスの「Grinnin' In Your Face」では、深く沈むようなリズムに絡む、不安感を煽るような鍵盤の響き、そしてその上を沈鬱に唸るジャック・エリオットの歌唱は相当に深い。ブラインド・ウィリー・ジョンソンの「Soul Of A Man」では、彼の枯れていながらも凛とした歌声もさることながら、グレッグ・リーズのスライドがまるで神秘的な魂を呼び起こすかのようで素晴らしい! そして抗えようのない死について歌ったレヴァレンド・ゲイリー・デイヴィスの「Death Don't Have No Mercy」は、悲しげなリズムのうねりと諦観したようなジャック・エリオットの歌声に惹き込まれます。さらにリロイ・カーの「How Long Blues」ではデヴィッド・ヒダルゴのアコーディオンが酩酊する曲調に華を添える。そしてこれら陰影の濃い曲の狭間に朗らかなカントリー・ブルース「Richland Women Blues」があったりするところがまた憎いですね。
それにしてもジェイ・ベルローズとデヴィッド・ピルチによるリズム隊は良い仕事してますね。このアルバムが特別なのはこの二人によるところが大きいのでは? 二人の奏でるリズムには何処か時代を超越したトリップ感があります。これは私達が知る由もないあの時代のアメリカを、現代のフィルターを通して覗いたような作品かもしれません。
1931年ニューヨークに生まれ、カウボーイに憧れ14歳で家出。ワシントンDCでロデオの馬の世話係をしつつ、ロデオショーの道化師からギターと歌を習う。その後一旦家に戻るも、ウッディ・ガスリーの歌をラジオで聴いたのをきっかけに、ウッディに会いにいき、供に暮らし、供に全米中を旅したという、そんなジャック・エリオットの生き方こそ、私達の知らないあの時代のアメリカそのものであり、だからこそ、このアルバムでのジャック・エリオットの歌声には、そういう時代のアメリカを語るにふさわしい説得力があるのかもしれません。
~関連過去ブログ~ お時間有ったらぜひ!

07.01.26 グラミー特集:ランブリン・ジャック・エリオット(「I STAND ALONE」)
惜しくも受賞は逃したものの、06年度のグラミー賞で『Best Traditional Folk Album』にノミネートされた前作「I STAND ALONE」。弾き語り中心の素朴な作品なれど、デヴィッド・ヒダルゴをはじめ、ネルス・クライン、フリー、コリン・タッカー、ルシンダ・ウィリアムスなど、興味深いゲストも参加。実は私、正直申しますと新作よりこちらの方が好きだったりします。
先日のグラミー賞で『Best Traditional Blues Album』 部門を受賞したランブリン・ジャック・エリオットの最新作「A STRAGER HERE」です。
フォークの神様ウッディ・ガスリーの継承者にして、かのボブ・ディランにも多大な影響を与えたというランブリン・ジャック・エリオット。彼がジョー・ヘンリーをプロデューサーに向かえ、ブラインド・レモン・ジェファソン、レヴァレンド・ゲイリー・デイヴィス、ロニー・ジョンソン、ブラインド・ウィリー・ジョンソン、ミシシッピ・ジョン・ハート、サン・ハウス、タンパ・レッドなど、まだブルースが得体の知れない魔力を秘めていた時代の巨匠達の曲を歌った作品です。ジョー・ヘンリー曰く「大恐慌の時代が生んだカントリー・ブルース」を。
しかし、ただフォーク・シンガーがブルースを歌ってみました、という作品ではありません。何せプロデューサーは現在のルーツ・ミュージック・シーンにおいて最も重要なプロデューサーといっても良いジョー・ヘンリーですから。ソロモン・バークの「DON'T GIVE UP ON ME」とか、ベティ・ラヴェットの「I'VE GOT OWN HELL TO RAISE」とか、エルヴィス・コステロ&アラン・トゥーサンの「THE RIVER IN REVERSE」とか、コンピレーション盤「I BELIEVE TO MY SOUL」とか。もちろん、シンガー・ソング・ライターとして自身の作品も大変評価の高い人でもありますけどね。で、このジョー・ヘンリー、09年はランブリン・ジャック・エリオットのこの作品と並んでアラン・トゥーサンの「THE BRIGHT MISSISSIPPI」をプロデュースしたことも話題になりましたね。
その「THE BRIGHT MISSISSIPPI」ではトゥーサンに古き良きニューオーリンズ・ジャズの世界を持ちかけ、ドン・バイロン、マーク・リーボウ、ジェイ・ベルローズといった一癖も二癖もありそうなバック・メンバーを配し、トラディショナルな息吹を現代世界の音楽として見事に甦らせました。
そしてジャック・エリオットのこの作品も構図的には似ています。彼をフォークではなくブルースの世界へ迷い込ませ、バックにはグレッグ・リーズ、デヴィッド・ピルチ、ジェイ・ベルローズ、ヴァン・ダイク・パークスといった、いかにもジョー・ヘンリー作品らしい面子に、ロス・ロボスのデヴィッド・ヒダルゴも加わっています。彼らの奏でるブルースは、確かにブルースなのでしょうが、一口にブルースとは言い切れないボーダーレスな広がりを持ち、ノスタルジック且つロマンチックでありながら退廃的でダークな色彩を放っています。ジャック・エリオットのしゃがれ声も、年輪を感じさせる渋みの中にうっすらと陰を感じさせる味わい深い響きを持っています。
例えばデルタの魔力が込められたようなサン・ハウスの「Grinnin' In Your Face」では、深く沈むようなリズムに絡む、不安感を煽るような鍵盤の響き、そしてその上を沈鬱に唸るジャック・エリオットの歌唱は相当に深い。ブラインド・ウィリー・ジョンソンの「Soul Of A Man」では、彼の枯れていながらも凛とした歌声もさることながら、グレッグ・リーズのスライドがまるで神秘的な魂を呼び起こすかのようで素晴らしい! そして抗えようのない死について歌ったレヴァレンド・ゲイリー・デイヴィスの「Death Don't Have No Mercy」は、悲しげなリズムのうねりと諦観したようなジャック・エリオットの歌声に惹き込まれます。さらにリロイ・カーの「How Long Blues」ではデヴィッド・ヒダルゴのアコーディオンが酩酊する曲調に華を添える。そしてこれら陰影の濃い曲の狭間に朗らかなカントリー・ブルース「Richland Women Blues」があったりするところがまた憎いですね。
それにしてもジェイ・ベルローズとデヴィッド・ピルチによるリズム隊は良い仕事してますね。このアルバムが特別なのはこの二人によるところが大きいのでは? 二人の奏でるリズムには何処か時代を超越したトリップ感があります。これは私達が知る由もないあの時代のアメリカを、現代のフィルターを通して覗いたような作品かもしれません。
1931年ニューヨークに生まれ、カウボーイに憧れ14歳で家出。ワシントンDCでロデオの馬の世話係をしつつ、ロデオショーの道化師からギターと歌を習う。その後一旦家に戻るも、ウッディ・ガスリーの歌をラジオで聴いたのをきっかけに、ウッディに会いにいき、供に暮らし、供に全米中を旅したという、そんなジャック・エリオットの生き方こそ、私達の知らないあの時代のアメリカそのものであり、だからこそ、このアルバムでのジャック・エリオットの歌声には、そういう時代のアメリカを語るにふさわしい説得力があるのかもしれません。
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07.01.26 グラミー特集:ランブリン・ジャック・エリオット(「I STAND ALONE」)
惜しくも受賞は逃したものの、06年度のグラミー賞で『Best Traditional Folk Album』にノミネートされた前作「I STAND ALONE」。弾き語り中心の素朴な作品なれど、デヴィッド・ヒダルゴをはじめ、ネルス・クライン、フリー、コリン・タッカー、ルシンダ・ウィリアムスなど、興味深いゲストも参加。実は私、正直申しますと新作よりこちらの方が好きだったりします。