息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
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と、なんだかだらだら日常のことなども

英雄の書

2012-08-28 10:48:55 | 著者名 ま行
 


宮部みゆき 著

主人公・森崎友理子の兄・大樹がクラスメートを殺し、姿を消した。
人望があり、頼りになる兄のはずだったのに。
友里子が兄の部屋で耳にしたのは書物の声。
兄を奪った「英雄」とはなんなのか。破獄が起こった、とは。

彼女は書物の導きのまま、兄を探す旅に出る。
普段暮らしているのとは違う領域。無名僧という不思議な存在。
オルキャストという役割。
不思議な世界観の中で繰り広げられる冒険は、自分自身と戦いの日々でもある。

壮大なファンタジーながら子供騙しではない。
また、よく使う言葉なのに使い方や解釈が違うものが多い。
それがわかりづらさ、入り込みにくさにつながっているのは事実だ。
じっくり頭を整理しつつ読まないと混乱してしまうかも。

しかしながら私はファンタジーとかこういう異空間が大好き。
ややロールプレイングゲームばりな雰囲気が強いが、それを差し引いても
すごい世界観だ。
上下2巻の長い物語なのに、上巻は世界観の説明に随分ページを割いているのに、
それでももっと知りたい、まだまだ読みたいと思わせられる。
ものごとの価値観をひっくり返すような設定を盛り込むには、これでは
まだまだ足りないというのが印象だ。

大樹が英雄に取り込まれたきっかけは、クラスメイトのいじめだった。
いじめを見逃せなかったことから自らが次の犠牲者となり、担任までもが彼を
見捨てた。
その陰湿さ、逃れられないやりきれなさは、今いじめが注目されている時期だけに
リアルに胸に迫る。

最終的に大樹が戻るわけではなく、家族の苦しみが終わるわけでもない。
それでもそれぞれに心の整理をつけ、自分のすべきことを探りはじめる。
誰にも知られなかったはずの友里子の冒険が、どん底から家族を救い、
僅かな光を見出すきっかけになったのだ。
何よりも強くなった友里子の心が、未来を暗示する。

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