哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

塩野七生さんの「日本人へ」90

2010-10-11 00:28:28 | 時事
 今回の表題コラムは、最近笑えた話として、楽天やユニクロで社内公用語を全て英語にするとしたことを挙げていた。外国語を使わざるを得ない場合に、常に頭のスイッチを切り替えなくてはならないストレスがあるし、創造性のある思考は母国語で行うのが自然であるという。社内で日本人同士も英語で挨拶をしなくてはいけないような滑稽さは、むしろ海外の経営者なら苦笑するだろう、と指摘して結んでいる。

 確かテレビの報道で楽天の社長が、社員の「英語だと微妙なニュアンスが伝わらない」という意見に対し、英語で「そんなことはない」と答えたシーンがあった。報道では、詳細がわからないので、他にどんなやり取りがあったかは知らないが、社長はどこまで社員に求めるのか、あるいは社長と社員同士のスタンスの違いは解消したのだろうか。

 塩野さんのコラムに書いてある通り、日本語で考える微妙なニュアンスまで全て英語で表現しようとすると、どうしても壁があるし、何よりも創造力の妨げになりかねないという指摘はもっともだと思う。外国在住の長い塩野さんでさえそうなのだから、日本にいていくら英語を勉強しようとも、その点は変わらないだろう。

 ただビジネス上の取引に創造力はいらない、という考えであれば、英語は単なる取引上のコミュニケーション手段に過ぎないのだから、社内を英語にしても一向に構わないように思える。要するに創造的な仕事は社長が全部やり、全てトップダウンで行うスタイルの企業なら、塩野さんの心配も不要なわけだ。社員としては、頭の中を英語にスイッチを切り替えるストレスはあるが、日本に居ても企業内の部署によっては英語でのビジネス遂行が当たり前のところも結構あるので、会社用語の違いと思えば何とかなりそうかもしれない。

 しかし、塩野さんの指摘が該当するのは、商品開発など創造力を要する部門だろう。創造性を発揮しないといけない場面で、日本語の打ち合わせができないということは、創造性の貧困に繋がる可能性があるのかもしれない。