因縁のアイスコーヒー

「氷をたくさん入れちゃうと、コーヒーがあまり入らないんだ」と小声で言うと、Aはウィンクしながら、氷が3個ほど浮かんでいるアイスコーヒーを私の前に置いた。一年間だけ高校の教師をしていて、喫茶店でバイトしている生徒の様子を見に行ったときのできごとだ。暑がりの私は、キンキンに冷えたアイスコーヒーが飲みたかった。しかし、彼はせっかく先生がきたのだから、なるべくたくさんコーヒーを飲ませてあげようという、氷も溶けるような暖かい心で、わざわざ氷を少なくしたコーヒーを持ってきてくれたのだ。今日も暑くなる予報の東京。今年初めてアイスコーヒーを作って、40年も前のそんなできごとを思いだした。私はあの時、「おまえね、これじゃちょっと冷えたコーヒーだし、味が濃すぎるよ。アイスコーヒーは氷で薄まることを前提に作ってあるんだから、もっと氷が入っていないとアイスコーヒーとは言えない」と自分の都合(価値観)を述べようとは思わなかった。他人を気づかう心をそのまま素直に受ける大切さを、あの時に学んだ気がする。

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