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風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

いろいろな地図

2016-11-19 01:07:31 | 時事放談
 オーストラリアで売られている世界地図は南北が逆さまだと噂に聞いていたので、真偽を確かめるべく探したことがある。確かに、シドニー市街(CBD:Central Business District)図では、観光地であるハーバー・ブリッジやオペラ・ハウスを擁するシドニー湾が南に向かって広がっており、地図の上では南が上になっているのだが、世界地図の多くは、私たちが普段目にするものと同じ、北が上になっており、逆さまのものはあるにはあったが見つけるのに苦労した。
 数年前、このような「逆さ地図」を、富山県(刊行物センター)が販売したので話題になった。正確には「環日本海・東アジア諸国図」と呼び、日本海を中心に据え、下半分に配置された大陸側(極東ロシアや朝鮮半島や中国)から眺めると、弓なりの日本列島から台湾にかけて南西諸島が邪魔になって、地図の上半分に広がる太平洋に出て行くのを遮られているのがよく分かる。この地図を見た韓国が、日本海を自分の湖か池(彼らの用語で東海)だと主張したのは、彼らの歴史認識と同様、歴史的事実を踏まえない幻想(ファンタジー)だ。
 これら島の連なりが所謂「第一列島線」と呼ばれるもので、中国人民解放軍の軍事戦略であるA2AD(Anti-Access/Area Denial:接近阻止、領域拒否)の内のA2(接近阻止)すなわち敵(米海・空軍)の侵入を許さない基準線だ。他方、同じライン上の半島や島々(北はアリューシャン列島から、南はフィリピンまで)は、トルーマン大統領時代のアチソン国務長官が「アメリカが責任を持つ防衛ライン」と発言して、アチソン・ライン(不後退防衛線)と呼ばれ、朝鮮半島は除外されているものと勘違いした金日成国家主席が南に攻め込む朝鮮戦争の誘因になったとされている。
 冷戦たけなわの頃は、北極海を中心に米・ソが対峙する地図が有名になった。左手にソ連、右手に米国を配置すると、ソ連から米国に向けてミサイルを放つのに、北極海の上空を越えれば楽々と到達することに気付いて、愕然としたものだった。同じように、北極海を中心に据えて、手前に北米を配置し、上方のユーラシア大陸を眺める地図では、左手(つまり極東)に日本があり、右手(西の果て)に英国があって、ユーラシア大陸を挟み撃ちにする格好になる(普段、私たちが目にするメルカトル図法でもそうなるのだが、北極海を中心に据え、手前に北米を配置することで、見る者=米国の意図が明確になる)。米国の同盟戦略上、実に象徴的ではないだろうか。
 前回ブログで、「ビンのフタ論」に触れたが、上述の通り、米国はユーラシア大陸で覇権国が出現するのを排除することを大戦略としており、在日米軍は中国(ユーラシア大陸の覇権)と日本(軍国主義化)への抑止の一石二鳥である。他方、中国は伝統的に陸軍国だが、爆発的な経済発展を支えるシーレーン防衛を中心に海洋進出への関心を高め、太平洋に出るルートを探っている。一つはバシー海峡(台湾~フィリピン間、150キロ)であり、もう一つは宮古海峡(沖縄~宮古間、290キロ)だ。一つの中国の名のもとに台湾”省”化を狙うのはバシー海峡獲得のためであり、沖縄独立を扇動するのは(尖閣諸島を巡る主権争いと違って)宮古海峡獲得のためだと言われる。
 トランプ氏が東アジア・ピボットに関心を払わなければ、中国がその「権力の空白」を狙って海洋進出を加速するのは間違いない。3年前の首脳会談で習近平国家主席がオバマ大統領に提案したように、太平洋を米・中で分割する「新型の大国関係」が認められるなら(さながら大航海時代のスペイン・ポルトガルによる地球分割のように)、いずれ中国空母が米国西海岸を窺うことがあるかも知れない。果たしてそれはトランプ大統領が望む秩序だろうか。それとも陳腐な妄想に過ぎないと排除するだろうか。
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