goo blog サービス終了のお知らせ 

風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

トランプ狂想曲

2016-11-17 00:58:57 | 時事放談
 安倍首相が明日、トランプ次期米大統領と会うというので、今朝の日経は「トランプ氏に同盟の価値をどう説くか」と銘打った社説を掲載していた。
 トランプ氏は、周知の通り、「日米や米韓、米欧の北大西洋条約機構(NATO)といった同盟関係は、米側の持ち出しが多く、公平ではないと考えている。この認識を改めさせるにはまず客観的なデータを示し、理解してもらうことが第一歩だ」(日経)として、「在日米軍基地を維持するために日本は多くの資金を払っている。基地が集中する沖縄の社会的な負担も大きい」(同)ことを説くべきだと言う。だが「これらの説明だけでは不十分だろう。トランプ氏の根底には『米国は日本を守るのに日本は米国を守らない』という不満があるからだ。事実関係だけみれば、あながち間違った指摘ではない」(同)として、「この批判に反論するには、日本はお金を払うだけでなく、憲法が許す範囲で米軍の活動を物理的にも支援していくとの姿勢を示すことが欠かせない」(同)と言う。
 なんと卑屈な見方だろう。まあ、日本経済新聞という立場上、戦後70年の繁栄を担保してきた所謂「吉田ドクトリン」の軽武装・経済重視路線を維持するためには、ひたすら軽武装の言い訳をせよと言うことか。
 しかし、日米同盟は、メディアは敢えて触れたがらないようだが、血を流す同盟だ。独裁国家ならともかく民主主義国家の米国が日本との同盟関係を続けるのは、そこに国益を見出しているからに他ならない。トランプ氏はこのあたりの事情を単に知らないだけか、知っていてもすっとぼけて知らない振りをしているだけだろう。太平洋と大西洋に挟まれた巨大な孤島とも言うべき米国にとって、ユーラシア大陸における覇権(かつてのソ連や今の中国)への抑えとして、前方展開能力を持ちその基地を構えることの意義は、地政学的にはあらためて言うまでもないことだ。それが日本や韓国や東アジア諸国を同盟あるいは準同盟として自陣営に引き留めるための安心供与になっているのは、別に中東の原油に依存するわけではない米国が中東でプレゼンスを維持することが西欧諸国を同盟あるいは準同盟として自陣営に引き留めるための安心供与になっているのと同じ理屈だ。もっと言うなら(言い過ぎかも知れないが)、在日米軍が重しとなって、日本は物理的に満足な武装ができず、精神的にも戦後70年経ってなお「普通の国」になれていない。かつてキッシンジャーが極秘訪中した際、周恩来が在日米軍の脅威を主張したのに反論して、日本の軍国主義化を防止していると、逆にその意義を説いた、有名な「ビンのフタ論」のレトリックの裏返しだ(まあそれで日本の防衛費は5兆円(=GDPの1%以下)でお茶を濁していられるのだが)。
 今朝の日経・社説は、安倍首相とトランプ氏の会談のもう一つの重要課題として、「米次期政権が保護貿易主義に傾かないよう働きかけること」(日経)を勧めているが、これも卑屈な見方だ。米国の繁栄は自由貿易を基本とすることは誰も否定しないだろう。選挙期間中、「強いアメリカ」(Make America Great Again)を標榜して来たトランプ氏が、強いアメリカの基盤をみすみすぶっ壊すとは思えない。
 ニューズウィーク日本版の最新号(11・22)で、編集長が興味深い話を引用していた。It起業家・投資家でトランプ支持者のピーター・ティール氏が最近、講演でこう語ったという。「メディアはトランプの発言を言葉どおり受け取るが、彼の存在を真剣に受け止めようとしない」と。そしてそのメディアとは逆に「多くの有権者はトランプという存在を真剣に受け止め、彼が発する言葉はそのまま受け取らない」と。例えば不法移民対策について、「メキシコとの国境沿いに壁を造る」とトランプが言うと、支持者はそれを額面どおりに受け取らず、「より理性的で、理にかなった移民政策が生まれる」と感じるのだという。
 さらに同じコラムで編集長は、「トランプの本質は『ビジネスマン』というより、『セールスマン』に近い。彼にとって選挙中に語ってきたことは『公約』というよりも、あくまでもセールストークなのかもしれない」とまで言う。
 きっと、そうなのだ。誤解を恐れずに言えば、一般の米国人の多くは、日本と韓国と台湾の位置関係すら理解しない大いなる田舎者(と言うと失礼だが、一種の天上天下唯我独尊)で、実際にパスポートを持たない(従い海外旅行などしたことがない)人が多い。自分の身さえ安全であれば、遠い東アジアの安全保障や外交のことなど、気にも留めないだろう(実はそれが自らの身に降りかかることにも気づかない)。一般の米国人はトランプ氏の発言のどこまでを本気で信じているのか、トランプ氏自身もまたどこまでを本気で実行しようとしているのか、甚だ怪しいものだ。
 米国では、英国におけるBREXIT投票の後(所謂BREGRET)を彷彿とさせるような、トランプ反対デモが起こっているらしい。日本でも過剰反応、言わばトランプ狂想曲が、ややヒステリックに奏でられている。日本の場合、自国のことでもないのに、如何に米国への依存心(これを属国意識と言うと怒られるかな)が強いことの何よりの証拠で、憂鬱な気分になる(斯く言う私もこうしてブログに書いているのだから世話ないことだ)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする