風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

156万ドルのチップ

2017-10-25 23:08:53 | 日々の生活
 アインシュタイン博士が残した2枚の手書きメモが競売にかけられ、驚きの156万ドルと24万ドルで落札されたという。
 そのメモは、ノーベル賞を受賞した翌1922年に来日して帝国ホテルに滞在した際、メッセージを届けに来た日本人配達人にチップ代わりに渡したもので、ホテルの便箋を使ってドイツ語でそれぞれ「静かで節度のある生活は、絶え間ない不安に襲われながら成功を追い求めるよりも多くの喜びをもたらしてくれる」「意志あるところに道は開ける」と書かれたものらしい。出品したのは配達人の親族だそうで、当時、アインシュタインは配達人に「あなたが幸運なら、これらの紙は通常のチップよりずっと価値があるものになるだろう」と語ったといい、現実化したのはともかく、まさか1億8千万円の価値になろうとは思ってもみなかっただろう。
これを読んで思い出したのは、ピカソにまつわるエピソードだ。レストランでピカソを見かけた婦人が「お礼はするので絵を描いて貰えないか」と頼みこんだところ、紙ナプキンにさらさらっと30秒足らずで描きあげた絵に「代金1万ドル」と吹っかけられて、「30秒もかかっていないのに!?」と驚くと、ピカソは「いや、この絵が描けるようになるまで40年と30秒かかっているのだ」と悠然と答えたという。よくできた作り話だ。
 たかがメモ書きの汚い文字でも、紙ナプキンに殴り描きされたスケッチでも、希少性に目がくらみ、芸術性に値段はあってなきが如しで、その価値を求める人の欲望が決めることだ。三島由紀夫や永井荷風といった人気作家の署名入り古本が300円じゃなくて10万円で取引されるのも同じことだし、テレビショッピングで番組終了後30分以内に受付ける特別価格というのも、パチンコ屋に(実は毎日)「本日開店」と花輪が飾られるのも、同じ理屈だ。
いやはや、人間は欲深いと見るか、付加価値に可能性を見出すか。
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