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風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

オールスター・宴のあと

2021-07-18 11:19:06 | スポーツ・芸能好き
 AP通信によると、オールスター戦のテレビ視聴率は、前回(2019年)の5.0%を下回り、4.5%と過去最低となった模様だ(但し視聴者数は前回から約1%上昇したという)。此度の宴の目玉がアメリカ人じゃなかったから、という理由もなきにしもあらずだが、むしろメジャーリーグ人気は長期低迷しており、それ故に、日本人であっても二刀流の素晴らしさは疑いようがなく、懸命にプロモートした、というところだろう。
 日本では、かつて子供が好きなモノ三傑として「巨人・大鵬・卵焼き」などと言われたことがあった。私も子供の頃は、大鵬(というより輪島・北の湖の時代だったが)やONを応援したし、今の週休二日と違ってたった一日の貴重な日曜日に友達と野球に興じたものだったが、かれこれ50年近く前のことである。1990年代にJリーグが始まり、その後はTVゲームやSNS全盛で、野球人気は長期低迷し、既に地上波で放送されなくなって久しい。
 それでも、大谷の凄さを知るのは実力者たちそのものだ。前回ブログで引用したUSA TODAYは、大谷がロッカールームでメジャーのスター選手たちからサイン攻めにあう様子を伝えた。
 野球マニアの間でも異様な盛り上がりを見せている。2018年の直筆サイン入りルーキー・カードが米国の大手ゴールディン・オークションズで$148,330(ざっと1500万円超!)で落札されたらしい。MLBのオークション・サイトを覗くと(日本時間18日11時現在)、オールスター戦で使用されたものと同型のユニホームが選手の直筆サイン入りで65選手分、出品されていて(ア・リーグのものはパジャマかと揶揄されたが)、大谷は入札数100で、なんと$111,120の値を付け、2位のタティス(入札数40、$5,010)、3位のゲレロ(入札数45、4,030ドル)、4位のジャッジ(入札数47、$3,010)を大きく引き離している(最安値は$300、オークションは21日迄)。ちょっと気持ち悪いほどだ。人気が長期低迷するメジャーリーグにあって、彼が救世主であるのは間違いない。
 いやアメリカ社会にとっても救世主と言ってよいのではないだろうか。Covid-19のことをChina Virusと呼ぶ大統領がいて(デルタ株をカッコ書きにしてインド株と呼ぶくらいだから、その呼称自体を否定するものではない、それを大統領が言う?という話で、そこがトランプ氏のお茶目なところ)、未曾有のコロナ禍で鬱屈したアメリカ社会の各地でアジア系(および太平洋諸島系)アメリカ人(AAPI:Asian American and Pacific Islanders)に対する嫌がらせが多発したことは、BLM運動以来、社会の分断を煽るものとして、心あるアメリカ人の心を痛めてきた。それだけに、大谷の野球の実力もさることながら、気さくにサインに応じる人柄や、周囲にさりげなく目配り・気配りできるオトナのマナーや、不調が続かないメンタルの強さ・穏やかさや、純粋に野球が出来る喜びを(危険や疲労を顧みず)走攻守、全身で表現する天真爛漫さ、言わば優雅な振舞いが、多民族国家アメリカにおけるアジア人の控えめな自己主張となり、それらが称賛を受けるたびに、アジア系アメリカ人には大いなる癒しとなっていることだろう(と、かつて滞米中に野茂に癒された私はそう思う)。
 一日半前のUSA TODAYは、”Shohei Ohtani's MLB All-Star jersey draws $111,000 bid – a six-figure edge over next player”と題して、オークションの様子を伝えるとともに、ESPNのパーソナリティ Stephen A. Smith氏が、大谷が英語が話せないことを批判して謝罪に追い込まれたことに触れながら、才能と実績とカリスマ性こそが重要なのだと結んでいる(Not that it particularly matters. Talent, production and charisma remain louder than words.)。このあたりは根深いものがある。日本の大相撲で活躍するモンゴル人力士が、ただでさえ例えば横綱らしくないなどと批判する人(私も含めて)がいる中で、日本語を全く話さないとしたら、どう思うか? という問題に近い(もとより日本とアメリカではそもそも国の成り立ちが違うし、大相撲=伝統芸能≠格闘技を理解するのは難しい)。
 此度のオールスター戦でMVPを獲ったブラディミール・ゲレロ・ジュニアのお父ちゃんがルーキーイヤーのときの直筆サイン入り野球カードを引き当てたことがある。今も押入れの奥にあって、野茂のものだったら大いに自慢するところ、ゲレロなので(とは言いつつ個人的には超お宝なのだが)、取り出すのが面倒なので諦めた・・・
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オールスターは大谷のもの

2021-07-15 01:06:08 | スポーツ・芸能好き
 大谷翔平選手がMLBオールスター戦に史上初めて投打「二刀流」で出場した。先発登板は日本人選手として野茂英雄以来26年振りであり、勝利投手は2019年のヤンキースの田中将大以来二大会連続で日本人が獲得することになった。
 ア・リーグの指揮官を務めるケビン・キャッシュ監督は、「ルール上、大谷には、2人の選手として出てもらう」と語った。本来、大谷が投手として打席に入る場合、DHを解除しなければならないが、そうなると、「投手が打席に入るたびに代打を出したり、ダブルスイッチ(投手交代時に野手も同時に交代させ、投手の打順を入れ替える策)を頻繁にしたりしなければならない」 「自分が混乱しそうなので、リーグにルール変更をお願いした」ということだ(日経新聞・丹羽政善氏コラムより)。
 それにしても、「二刀流」大谷を見せるためにあっさりルールを変えさせるほどの大谷フィーバーは、私たち日本人の想像を軽く超えている。
 野球ジャーナリストのBob Nightengale氏は、USA TODAYに寄せたコラム: 'Simply thankful' Shohei Ohtani calls MLB All-Star Game the most memorable experience of his careerで、大谷はMVPに推されなかったし、打者としてヒットを打たなかったし、投手として三振を取れなかったが、そんなことはどうでもよい、今宵は大谷のものだった、と書いた(He wasn’t voted the MVP, that honor went to Vladimir Guerrero Jr. He didn’t produce a hit, or even get the ball out of the infield in two plate appearances. He pitched a 1-2-3 inning, but didn’t strike anyone out. It made no difference. The night, with the American League winning the All-Star Game, 5-2, for the eighth consecutive year Tuesday night at Coors Field, still belonged to Shohei Ohtani of the Los Angeles Angels.) 日本人として誇らしいのを通り越して、訝しいほどの異常事態である(笑)。
 実際、前日のホームランダービーでは一回戦で二度の延長の末に惜敗したものの、500フィート(152メートル)以上の本塁打を参加8選手中で最多の6本も放ち、オールスター戦では全19投手の中で最速の100.2マイル(161キロ)をマークするなど、その実力の片鱗を見せつけている。先頭打者として、初回の1打席目は二ゴロに終わったが、初球から(本塁打を)狙って行ったようだし、投手として、全部(三振を)取りにいくつもりで行ったようで、その躍動は眩しいばかりだ。
 Wall Street Journal紙は、「マウンドではノーラン・ライアンの速球、打席ではケン・グリフィー・ジュニアのパワーを兼ね備えた投打の『二刀流』で旋風を巻き起こす大谷」と書き(因みにスポーツ・イラストレイティッド誌は「ウィリー・メイズのように打ち、ロジャー・クレメンスのように投げている」と書いた)、「100マイルの速球と本塁打の組み合わせは前代未聞」であって、「DH制によって、投手として登板しない日に野手として出場せずに打席に立てること」は過去の選手(とりわけベーブ・ルースの時代)にはない利点としながら、「これまでの常識では、5日に1度のペースで登板し、その間に打席に立つということは、心身への負担が大きすぎてうまくいかないとされてきた」 「仮にルースが二刀流で活躍できるほどの投手だったとしても、肉体的にそれが可能だったのか」と問いかけ、「大谷は日本のベーブ・ルースではない。最初の『ショウヘイ・オオタニ』であり、唯一無二の存在だ」と絶賛した。
 日本でも「エースで4番~」などと歌われるが、昨季のナ・リーグMVPを獲得したフレディ・フリーマン氏は、「米国にももちろん、高校、大学までなら、二刀流選手はいる。ここにいるオールスターの連中なら、みんなそうだったんじゃないかな。俺だってそうだった。でも、いろんな理由でそれをあきらめる。俺はケガをしたけれど、先が見えない、ということが一番大きい。でもこうやって、大谷がその先にゴールがあることを示してくれた。これで将来、才能のある若い選手が、どっちかに絞らなければいけないと、自分で限界を決めなくてもすむんじゃないだろうか。もう、どちらかに――という考えは、時代遅れかもしれない」と語った(日経新聞・丹羽政善氏コラムより)。丹羽氏は、かつてイチローがデビューし、活躍を始めると、体が小さくても大リーグで活躍できる――そんな希望を抱かせたことを彷彿とさせる、と書いた。
 実力だけではなく、球場でさりげなくゴミを拾うとか、折れたバットを拾って審判に手渡すとか、このオールスター戦でも、三人目のバッターで、昨年まで地元ロッキーズで活躍したノーラン・アレナド選手(現=カージナルス)を打席に迎えた時、スタンドのファンから大声援とスタンディングオベーションが巻き起こると、大谷はマウンドを外してファンの拍手が終わるまで見守るなど、その振舞いまでもが高く評価される。日本人で活躍したメジャーリーガーの野茂やイチローと言えば修行僧のようなポーカーフェイスが特徴的だったが、大谷は感情表現が豊かで、老若男女のファンから愛されるキャラは、今や一種のアイドルのようだ。
 大谷がオールスター戦で使用したスパイク、アームガード、レッグガードの3点セットは、早速、米野球殿堂博物館に寄贈された。これからも寄贈されるものが続出することだろう。ただでさえ苛酷な「二刀流」で、愛すべき野球小僧のように投げて打って走ることを楽しみながら躍動する彼を、これからもはらはらしながら見守ることだろう。くれぐれもケガにだけは留意して欲しいものだ。
 なお、上に添付した写真は、26年前に野茂が先発した1995年のオールスター戦記念Tシャツ。その1年前にボストンに赴任し、近所のショッピング・モールで購入したもので、一度も袖を通さないまま、タンスの奥にしまってあったのを久しぶりに引っ張り出してみた。似顔絵の中で、一番奥の右から三番目に、名前のリストでは右側(ナショナル・リーグ)の下から4番目に、野茂がいる。それ以外にも懐かしい名プレイヤーが目白押しである。(右上から)ドジャースで野茂の女房役だったマイク・ピアッツァ、遊撃手として13年連続ゴールドグラブ賞に輝くオジー・スミス、通算最多762本塁打のバリー・ボンズ、2年目から引退する迄の19年間、打率3割を切ったことがなかったトニー・グウィン(滞米中に買ったグローブには彼の名前が刻まれていた)、アメリカ外出身選手として2番目に多い609本の本塁打記録を持つサミー・ソーサ、史上最多18回のゴールドグラブ賞に輝く通算355勝のグレッグ・マダックス、(左上から)ホワイト・ソックスの永久欠番(35)のフランク・トーマス、歴代最多の2632試合連続出場のカル・リプケンJr、イチロー憧れのケン・グリフィーJr、ドーピング疑惑のHR打者マーク・マグワイア、私が駐在した地元ボストン・レッドソックスの大砲モ・ボーン、2m8cmの長身で歴代2位の通算4875奪三振を記録したランディー・ジョンソン・・・等々、なんと豪華な顔ぶれだろう。まさに一夜の夢の球宴である。日本でも二戦ではなく一戦に集中すればもっと有難がられるだろうに・・・
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日本選手権・男子100m決勝

2021-06-26 21:01:25 | スポーツ・芸能好き
 陸上の日本選手権・男子100メートル決勝で、多田修平選手が10秒15で優勝し、五輪代表に内定した。3位の山県亮太と4位の小池祐貴との差は僅か1000分の1秒で、明暗を分け、山縣が二人目の五輪代表に内定した。
 五輪参加標準記録を突破した5人が顔を揃え、自己ベスト9秒台の4人を含む史上最高の舞台は、3位から6位までの4人が100分の2秒差の中に並ぶ大混戦で、見ごたえがあった。結果として、今、最も調子がよさげな二人が五輪代表を勝ち得た形で、一発勝負の怖さを感じる。
 気の毒だったのは桐生祥秀で、どうもいつもの彼らしい切れがなかった。「歩いていても痛い」という右アキレスけんに不安を抱え、前日のレース後には足を引きずるような仕草も見せていたという。ケガを防ぎながら如何に体調をピークに合わせるかも勝負の内とは言え、2013年秋に東京五輪開催が決定したとき、京都・洛南高校3年生だった彼は、「(年齢的に)自分の一番いい時。陸上をする中で最高峰の大会が日本で行われたらどうなるのか」と夢を語り、その後、日本人初の9秒台を出して日本の短距離界を牽引して来ただけに、代表漏れの悔しさは如何ばかりかと慮る。4x100mリレー(所謂4継)に選ばれる可能性は残るが、本番まで一ヶ月を切る中で、この体調で大丈夫だろうか。
 もう一人、アメリカで練習に専念してきたサニブラウン・ハキームは、結局、レース勘を取り戻すことが出来なかったのか、本人曰く、準備不足がたたって、敗退した。彼にも、小池祐貴ともども4x100mリレーに期待したい。
 意外だったのは、そんな歴戦のツワモノどもに交じって2位に食い込んだデーデー・ブルーノだ。現在、東海大学4年生の21歳、もともとサッカー少年で、高校2年から陸上を始めて、6月上旬の日本学生陸上競技個人選手権では優勝を果たしたという。五輪参加標準記録には及ばなかったが、これからが楽しみな選手だ。
 なお、どうでもいいことだが・・・会場となった大阪・ヤンマースタジアム長居は、大阪国際女子マラソン開催で知られ、かれこれ40年前、私が高校生のみぎりに、インターハイ予選の大阪大会が開催された競技場でもある。1964年にオープンし、1997年の「なみはや国体」開催に向けて全面改修工事が行われて、すっかり近代的な佇まいに衣替えしたので、もはや私が走った頃の素朴な競技場の面影はないが、「長居」と聞くたびに、胸がきゅんとなる(笑)。私は決勝に残れないような凡百の競技者に過ぎなかったが、若いエネルギーを持て余し、後先のことは考えず、ひたすら練習に明け暮れていたあの頃が、無性に懐かしい。
 多田・山県両選手(+もう一人は小池?)には、敗れた桐生などの一流選手ばかりでなく、現在、また過去の名もない陸上少年たちの夢を乗せて、五輪の晴れ舞台で活躍されることをお祈りしたい。
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山縣亮太・悲願の9秒95

2021-06-09 00:33:18 | スポーツ・芸能好き
 週末は、体操の内村航平選手がオリンピック代表に内定したり、全米女子オープンで笹生優花選手が優勝したりと、スポーツ・ニュースに湧いたが、へなちょこ高校陸上部出身の私としては、敢えて山縣亮太選手が100m9秒95の日本新記録を叩き出したことを取り上げたい。日本男子で9秒台は4人目となり、もはや驚くことではなくなったが、これまでの彼を振り返ると感慨もひとしおで、健闘を称えたい。
 かつて山縣選手は桐生祥秀選手と並び9秒台に最も近い男と言われた。実際に10秒00を二度出している(2017年の全日本実業団(追い風0.2m)と2018年のアジア大会(追い風0.8m))。中でもアジア大会では9秒997だったが、1000分の1秒を切り上げるルールに従い、記録上は10秒00になってしまった。どうもどの大会でも風や天候などのコンディションに恵まれなかった。ここ2年はケガに苦しみ、この冬には膝を痛めた。本人も、肉離れなら待てば治るが、膝は治っても同じ動きをしたらまたやる(けがをする)と、もう続けられないかもと諦めかけたこともあったようだ。そこで、セルフコーチングを諦め、高野大樹コーチの指導を仰いだ(といったあたりは、マスターズで優勝した松山英樹選手のケースに似ている)。そして、明後日には29歳の誕生日を迎える。年齢的にも、もう難しいかもしれないと、外野の私は早々に諦めかけていたのだが(苦笑)、4月末に彼の地元・広島で行われた織田記念国際陸上・男子100mで優勝するのを、たまたまテレビで見て、大舞台にはめっぽう強い彼のこと、オリンピックイヤーの今年は何かやってくれるかも知れないと、密かに期待したのだった。
 今回は珍しく好条件が揃ったようだ。日本海に近い布勢陸上競技場は地理的に追い風が吹きやすく、公認記録(追い風2.0m以内)が出にくい(その対策として防風フェンスが設置されている)。予選では、他の組が2.6mの追い風参考記録にとどまったが、彼の組だけは追い風1.7mで、10秒01を出し、オリンピック参加標準記録を突破した。これで肩の荷がおりたことだろう。決勝は追い風2.0mジャストで、文字通り追い風になった。また、国内ではこの布勢と新国立競技場のトラックだけに、オリンピックなどの国際大会で使われる最高品質の素材「スーパーエックス」が使われていて、反発力が高いのが特徴だそうだ。さらに、レース前半、先行する隣のレーンの多田修平選手を追いかける展開は、桐生選手が日本人初の9秒台を出したときと同じだった。陸上の女神が微笑んでくれたのだろう。
 今月末(6/24~27)に行われる東京オリンピックの日本代表選考会・日本選手権で3位以内に入ると晴れて代表となる。大舞台に強い彼の活躍に期待したい。
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巨人・ソフトバンク戦の呪縛

2021-05-31 08:06:51 | スポーツ・芸能好き
 我らが巨人は、昨日のソフトバンクとの交流戦で久しぶりに勝利した。2019年6月22日の交流戦を最後に、日本シリーズ2年連続4連敗やオープン戦を含めて通算14連敗中だった。巨人ファンではなければどうでもいい話だが、実に708日ぶりの白星だった。張本さんは「とにかく見下ろされている感じ。ゲーム前からソフトバンクは『対巨人だ、あぁ勝った』という雰囲気」と指摘されていた。巨人ファンも、言い知れぬ屈辱に、めろめろに打ちのめされて来た(笑)。
 この試合で投手7人の執念リレーを見せた原辰徳監督は、「まあまあしっかり守ったね、みんなね」と語ったが、私は4番・岡本に注目したい。
 2-2の同点で迎えた5回1死、「岡本が和田の直球を完璧に捉えた打球は中堅フェンスのギリギリで跳ね返ってきた」(日刊スポーツ)。審判団はリプレー検証の末に、本塁打と認定。リーグ・トップ・タイとなる14号本塁打で、逆転した。
 振返れば、今年3月の、敵地でのオープン戦で、岡本は打撃練習後に、「この球場にくると、なんか体が重たく感じるんですよ…」と漏らしていたらしい。実際、14連敗中の15試合で、打率2割3分6厘、3本塁打、7打点にとどまり、「巨人の4番を張る男として、重い空気を1日でも早く振り払う必要性と責任を、肌で痛感してきた」(日刊スポーツ)のだった。
 そんな岡本について、ラミレス氏の分析が面白い(Sportiva、2021.05.25)。
「僕がDeNAの監督だった頃から、岡本のポテンシャルやパワーはすばらしいと思っていました。これは去年のことですけど、2020年の途中から打席での立ち位置がピッチャー寄りになっていました。でも、それ以前はギリギリまでキャッチャー寄りに立っていました。その理由はわかりません。ただ、ピッチャー寄りに立つことによって、アウトコースに逃げる変化球を、完全に曲がり切る前にさばける利点があるんです」
「昨年と同じことをせず、今年は違う意識を持っていたのかもしれません。若いうちはいろいろなことを試したくなるもの。ひょっとしたら、パ・リーグと対戦する交流戦対策、いや、昨年も一昨年も日本シリーズでソフトバンクに徹底的にやられた悔しさから、"インコースをしっかりと打ちたい"という思いが過剰にあったのかもしれません」
 今シーズン序盤の不振は、そんな岡本の悪戦苦闘の結果で、昨日の本塁打は、ソフトバンク対策をある程度克服したものと言えるのかも知れない。ラミレス氏は最後にこう付け加えている。
「彼に関してはまったく心配はない。シーズンが終わって気づいてみれば、いつものようにいい数字を並べてシーズンを終えていますよ。30本塁打以上、90〜100打点は確実ですから。今年だけじゃなく、今後も数年は、それぐらいの成績を残せますよ」
 ただの惰性で巨人ファンを続ける私ではあるが、やはり岡本に期待したい。

「岡本和真の昨年と今年の違いをラミレスが指摘。何ができていないのか?」(Sportiva、2021.05.25)
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/npb/2021/05/25/post_109/
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大谷翔平は違う生き物(a different animal)

2021-05-30 16:50:48 | スポーツ・芸能好き
 この週末に最も気に入った記事は、スポーツ報知。
 ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手の躍動が止まらない。「投手で4番」は高校野球での話であって、まさかプロの世界で「リアル二刀流」が通用するとは、張本勲さんでなくても想像し辛かったし、それが野球の本場で・・・いや、「野球」と「ベースボール」は違うと主張する人もいるので、「ベースボール」のアメリカで、体力で劣るはずの日本人が「リアル二刀流」で活躍できることには驚きを禁じ得ない。さらに投手を降板してそのまま外野の守備につく「リアル三刀流」となると、もはや信じられない。さすがに疲れが出たのか、このところ球威の衰えが心配されたが、昨日の登板では今季初黒星がついたが、最後の一球も158キロを記録して、見事に復調した。
 そして昨日の今日で、「2番・指名打者」でスタメン出場し、4打数2安打2打点で1盗塁を記録した。
 AP電によると、エンゼルスのマドン監督は「昨日、何球なげた? 100球近く? それをあの球速で投げ、スプリットも投げた翌日も彼は気分がいいと言うんだから驚異的、だよ(苦笑)。きみたちも彼の打席や盗塁を見ただろうが、我々とは異なる生き物だね。見ていて楽しいよ」(“To pitch whatever he did, how many pitches he threw yesterday, almost 100, and with the velocity he has and the split that he had. To say that he felt really good today is kind of phenomenal. You see the way he swung the bat, you see the stolen base, just a different animal, man, it’s fun to work with him.”)と呆れかえったそうだ。イチローなきあと、イチロー並みの話題性があって、しかもアメリカ人をも圧倒するようなパワーを備えて、日本人には痛快で(とは余りに卑下し過ぎか)、また日々、MLBを追いかけるようになった。
 これだけの偉業(異形!?)をいつまでも続けられるとはとても思えないが、いつまで続くのか、しばらくは楽しみたい。

 「大谷翔平、初黒星明けで2安打2打点1盗塁 マドン監督『彼は我々と違う生き物』とあきれ顔」(スポーツ報知、2021年5月30日 10時40分)
 https://hochi.news/articles/20210530-OHT1T51041.html

  “Ohtani hits 2-run single as Cobb, Angels blank A’s 4-0” (AP, May 29, 2021)
 https://apnews.com/article/oakland-athletics-los-angeles-angels-baseball-mlb-sports-e33a5b9cef0661745e2ef07884c69983

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追悼:田村正和さん

2021-05-22 23:16:30 | スポーツ・芸能好き
 俳優の田村正和さんが4月3日に亡くなられていたことが判明した。享年77。私は別にファンではないし、むしろ余り接した記憶がないから殆ど気にかけていなかったが、いざ亡くなったと知ると無償に恋しくなる、そんな存在感のある役者さんだった。
 彼が出演するドラマをまともに見たのは、マレーシア・ペナン島に滞在していた頃のことだから、もう10数年も前のことになる。日本恋しさの余り、midlanmdという場末のいかがわしいショッピング・モールで、違法コピーのDVDについ手を出したからだった。『古畑任三郎』のドラマで、イチローが出演していた。クセのある語り口だが、嫌味はない。むしろ、その世界観に嵌ってしまうほど、ちょっと妙だけれども完成度が高くて、印象に残った。
 この『古畑任三郎』は、倒叙型と呼ばれる推理ドラマ形式で、視聴者の私たちには、有名俳優やイチローのような有名人が演じる犯人が最初から分っていて、それを田村正和さんがちょっと偏執的なほどにコミカルに時にシリアスに演じる一見冴えない刑事が、のらりくらりと、しかし執拗に着実に犯人を追い詰めて行く、そのプロセスが見どころになる。かつて人気を博したピーター・フォーク主演『刑事コロンボ』の日本版とも言えるものだが、二番煎じと思わせないほど個性的で魅せてくれた。
 日経は追悼記事で、「手を伸ばしても届かない神秘的なオーラをまとい続けたスターだった。足を組み、ほおに手を添え、悩んでいるように小首をかしげて記者の質問に答える。そんなダンディーな姿は舞台裏でも変わらず、あるテレビプロデューサーは『控室でも画面で見る田村正和さんのままで驚いた』と話していた」と書いた。
 伊東四朗さんは、「田村さんって人は本当に、昔風の映画スターだよね。プライベートは全くわからない」と語ったらしい。
 黒沢年雄さんはブログで、「全てにおいて…スターを演じ切った美しい俳優だった…。歩く姿…所作…話し方! 何事にも慌てず騒がず…常にマイペース…常に物静かな佇まい…キザが嫌味なく身に付いた稀な方だった…芝居で長い立ち回りの後…僕を介護する場面も…荒い息ひとつ見せない!」 「ある時…新幹線でご一緒した…3時間同じポーズには驚いた!ある意味…スターを演じ切った稀に見るスターだった!」と書かれtらしい。
 まさにキザであることに嫌味がない稀有なお人柄が偲ばれる。24時間365日77年間、「田村正和」を演じきったのだろう。最近は見かけることがない、ちょっと変だが(笑)、プロフェッショナルで、ストイックな姿勢に惹かれていたのだろうと、今にして思う。時代が違えば銀幕の大スターだったのだろうが、茶の間のドラマで、深みのある演技を堪能させてくれた。心よりご冥福をお祈りし、合唱。
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マスターズでもらい泣き

2021-04-16 02:39:58 | スポーツ・芸能好き
 松山英樹選手が、ついにマスターズで優勝した。
 やるとすれば松山英樹だろうと、2017年6月に全米オープンで2位タイに入り、世界ランキング2位に駆け上って、誰もが期待したものだった。あれから4年、この3年8ヶ月の間は、ツアー優勝から遠ざかっていた。日本人男子として初めてPGAツアーのメジャー大会を制しただけでなく、メジャー4大会の中で最後発ながら「ゴルフの祭典」として憧れのマスターズである。過去85年もの間、AON(青木功、尾崎将司、中嶋常幸)をはじめ33人の日本人ゴルファーが挑み続けて、そのたびに跳ね返されて来た高い壁に、延べ132度目、松山自身にとっては10度目の挑戦にして、初めての優勝だった。
 中継したTBSでは、優勝が決まって、小笠原亘アナが声を震わせながら、「松山英樹、マスターズを勝ちました。ついに日本人がグリーンジャケットに袖を通します・・・日本人が招待を受けて85年、ついに、ついに世界の頂点に、松山、立ってくれました」と快挙を伝えて、55秒もの間、後に放送事故と呼ばれるほどの沈黙が続いた。ひとしきり感動に浸った後、「10年の道のりは決して平たんではありませんでした・・・大学生で震災を経験し、東北の皆さんが背中を押してくれました・・・10年です・・・ついにアジア人としての、途方もない高い壁と思われていた、このマスターズの壁を、松山英樹は、今日、乗り越えました・・・おめでとう・・・そして、有難う・・・」と言葉を詰まらせながら続けて、「中嶋さん」と、隣に座る解説の中嶋常幸さんに語り掛けると、「はい」と返事があったものの、「やってくれました」と話を振っても、すぐには言葉にならず、「・・・すみません・・・後半、苦しかったから・・・本当に良かった・・・」とボロボロの涙声を絞り出し、小笠原アナから「この偉業の凄さを分かっているからこそです」と涙声でフォローされて、ネットでは「もらい泣き」がトレンド入りした。私もYouTubeで何度も繰り返し見て、その度にもらい泣きした。
 中嶋さんがそう語ったように、4打リードで迎えた最終ラウンドは安心して見ていられると思われたし、前半9ホールが終わった段階では5打差に広げて独走かとも思われたが、ゴルフの神様は、簡単には勝たせてくれなかった。サンデー・バックナインと呼ばれる後半、15番では池ポチャがあり、最終ホールはボギーとなって、あがってみれば1打差で辛うじて逃げ切る形だった。さすが、「世界一美しく、難しい」と言われるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブである。アメリカ南部ジョージア州の広大な果樹園を切り拓いてつくられたコースは、ジ・オープンとは対照的にラフがなく、フェアウェーが広い一方、あさっての方角に向かって打つこともあるような起伏に富むグリーンは、ボールを遠くまで飛ばすパワーと繊細さが求められるショートゲームこそゴルフの醍醐味という、大会創立者の球聖ボビー・ジョーンズの思いが込められていると言われる。
 松山は、身長181センチ、体重90キロと、欧米人と比べても引けをとらないほどの堂々とした体格で、ひと回りもふた回りも大きくなった。ドライバーの飛距離が伸びたし、アイアンは、プレイヤー仲間からマシンと呼ばれるほど、正確でブレが少ない。今回はパットも良かった。何より、これまで感情の起伏が激しかった彼が、「余り波を立てず、余り怒らずできた」と振り返ったように、適切な「アンガーマネジメント」ができるほどに精神面でも成長したように見える。プロになって初めてコーチをつけたことが奏功したに違いない。
 ワシントンポスト紙は、「マツヤマは日本スポーツ界の最高階級に到達した。ショウヘイ・オオタニ、ナオミ・オオサカ、ユヅル・ハニュウとともに位置する、世界で最も輝ける舞台の1つだ」と報じた。どうでもいいことだが、松山英樹も、大谷翔平も、羽生結弦も、血液型はB型のようだ(大坂なおみは不明)。因みに、メジャーリーグでも日本人が通用することを見せつけた野茂英雄、野手のイチロー、水泳の北島康介などもB型のようだ。いや、B型だからスポーツが得意というわけではないが、海外で活躍できるのは、マイペースを貫く個性派で、長嶋茂雄さんのように一発の集中力が凄いとされるB型の特性が遺憾なく発揮されているのかもしれない。
 最終18番ホールのグリーン上で、早藤キャディーがピンをカップに戻した後、帽子を脱いで、コースに向かって軽く一礼したところを、ESPN局は動画でツイートし、CBS局はハートマークを添えて「Respect」とツイートするなど、日本人らしい礼儀正しさと感謝の気持ちを表す立ち居振る舞いが話題になった。これにも胸が熱くなり、思わず涙してしまった。
 ストレスフルなwithコロナの生活で、ひとしきり涙して、薄汚れた魂が浄化されたようだ(笑)
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池江璃花子・復活の日

2021-04-06 20:50:37 | スポーツ・芸能好き
 週末は、大谷翔平選手が、開幕4戦目の本拠地アナハイムでのホワイトソックス戦で、ついに「2番・投手」という「リアル二刀流」で先発出場を果たして、“歓喜”した(残念ながら勝敗はつかなかったが)。本人にとって待ちに待ったメジャー公式戦・初で、メジャーとしてはDH制を使わない投手兼打者での出場は2016年以来、「2番・投手」での先発出場に至っては1903年以来、実に118年ぶりという快挙だった(2番という打順の重要性にも注目したい)。おまけに1回裏の第1打席で初球を振りぬいて先制2号ソロを放つとは、持っているものが違い過ぎる。ESPNの某記者は、「初回に101マイルを投げて、1回裏に(打球速度)115マイルで打った。あり得ない」とツイートした。次の登板が待ち遠しい。
 しかしこの週末は何と言っても、白血病を克服した池江璃花子さんが、競泳の日本選手権・女子100メートルバタフライ決勝で優勝(57秒77)した上、個人として(派遣標準記録57秒10)は叶わなかったが400メートルメドレーのリレーメンバーとして(派遣標準記録57秒92)東京五輪代表の内定を勝ち取るという、奇跡的な復活を果たしたことに、“狂喜”した。
 白血病を公表したのは、今から2年前の2019年2月のことだった。10ヶ月の闘病生活を経て、12月末に退院したが、筋肉は削げ落ちて懸垂が一回もできず、ウェイト・トレーニングから始めなければならなかったそうだ。プールに復帰するには半年かかると言われながら、3ヶ月後の昨年3月に実に406日振りにプールで練習を再開し、それでも感染リスクを避けるため水に顔をつけた練習をしたのは更にその1ヶ月後で、8月下旬には競技復帰を果たし、そこから僅か7ヶ月である。普通の大学生活を楽しんでます、クラブ活動も出来るようになりました、ではない。再び日本の頂点を極め、五輪出場を自力で手繰り寄せたのである。2016年のリオ五輪で日本選手として史上初となる7種目を泳ぐほどの若さと体力と飛び抜けた実力の持ち主だったとは言え、驚異的だ。本人は、「次のパリ(2024年五輪)が目標」と公言していたのに、その夢が3年後ではなく4ヶ月後に実現する。
 この快挙に、あのIOCが公式ツイッターにバッハ会長名で祝福のメッセージを寄せた。「オリンピアンたちは決して諦めない。池江は白血病と診断されてから、わずか2年で東京五輪への出場権を得た。東京で会うことが待ち切れない。(Olympians never give up. Congratulations to cancer survivor Rikako Ikee for qualifying for the Tokyo Olympics only two years after being diagnosed with leukemia. Can’t wait to see you in Tokyo.)」 東洋の一選手の五輪代表内定ごとき、と言っては失礼だが、そこに言及するのは極めて異例であろう。
 そうは言っても、一時は体重が15キロ以上も減って、今もまだベストから5キロほど軽く、かつてのはちきれんばかりの無敵の強靭さよりも、普通の大学生のような線の細さが気になってしまう。こうなっては、明後日の100メートル自由形でも派遣標準記録突破を期待してしまうが、焦らないようにしよう。
 彼女のインタビューに泣かされた(最近はコロナ禍のせいもあって涙腺がすっかり緩んでいる 笑)。
 (3年振りに優勝した気持ちを問われて)「自分が、勝てるのは、ずっと先のことだと思ってたんですけど、勝つための練習もしっかりやってきましたし、最後は『ただいま』って気持ちで入場してきたので、自分がすごく自信なくても、努力は必ず報われるんだなという風に思いました」
 (ここまでの道のりで一番に頭をよぎったことを問われて)「誰に泳いでも勝てなかった時のことを一番に思い出しましたし、一発目に200のバタフライを泳いだ時のことを考えても、やっぱり自分には、まだ100のバタフライで活躍できるのは、まだ先のことなんだなと思いましたし・・・」
 (今、心の中の桜は何分咲きかと問われて)「7分か8分ぐらいですかね」
 (どうしたら満開になるかと問われて)「いつかオリンピックで、金メダルもしくはメダルを取れたらかなと思う」
 東京五輪開催に向けては逆風続きで、池江選手のことを救世主の如くに喜んで迎え入れたのは間違いなく五輪の組織委員会やIOC(バッハ会長)だっただろう。利権やコマーシャリズムのことはさておく。大阪や兵庫で変異株のコロナウィルスが蔓延し、道のりはなお険しいが、池江選手ばかりでなく多くの選手たちの努力が報われて活躍することが出来る4年(今回は5年だが)に一度の檜舞台が無事に整うことをただ祈るばかりである。
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最後のびわ湖毎日マラソン

2021-03-02 22:45:46 | スポーツ・芸能好き
 週末の第76回大会を以て琵琶湖沿いを走る滋賀県での開催は最後となり、来年からは大阪マラソンに統合される。中学生の頃から見守って来て、高校時代に陸上部・中長距離だった私の憧れではなかったとは言えない大会でもあって、一抹の寂しさがある。
 その最後の大会で、鈴木健吾選手が2時間4分56秒の日本新記録で優勝した。2時間5分の壁を破ったのは、日本人として初めてであるばかりでなく、アフリカ出身選手以外で初めてだそうだ。1キロ2分57秒65とは驚異的なペースだし、一番きつい35~40キロのラップはこの日最速の14分39秒だったというし、残り2.195キロを6分16秒で駆け抜けたというのも驚きだ。歴史上、男子100メートルで10秒を切った選手は145人いるのに対し、男子マラソンで2時間5分を切った選手は58人しかいないという話もある。心から祝福したい。
 今回は高速レースでもあって、2位(土方英和)、3位(細谷恭平)、4位(井上大仁)、5位(小椋裕介)まで2時間6分台でゴールし、これら上位5人は日本男子マラソン歴代10傑に名を連ねたそうだ。さらに6位から15位までの10選手も2時間7分台でゴールし、その中にはマラソン初挑戦の作田将希(2時間7分42秒、14位)や足羽純実(2時間7分54秒、15位)もいて、いずれも従来の初マラソン日本最高(2時間8分12秒)を18年振りに更新した(もう一人、山下一貴2時間8分10秒、18位も加えてあげなければ)。日本陸連のマラソン強化戦略プロジェクトリーダー・瀬古利彦さんが手放しの喜びようだったのも十分に頷ける。
 それで、水を差すつもりはないのだが、記録的な大会をシューズの技術革新が支えているのは間違いない。勿論、同時期に開催されるはずだった別府大分マラソンや東京マラソンが延期され、国内トップクラスの選手が一堂に会した影響は大きいし、新型コロナ禍で海外から招待選手を呼ぶことができなかったことが却って幸いし、日本人選手に合わせたペースメーカーのタイム(キロ2分58秒)が決められたそうだし、日程が2週間前倒しとなった上、午後よりも風が穏やかとされる午前中スタートで、絶好のコンディションの巡り合わせとなるなど、幸運が重なった。そうは言いながら、やはり日本人も厚底シューズの利点を活かせるようになったことが大きいだろう。ある研究によると、ナイキの厚底シューズは、ソールにカーボン製プレートを入れることで高反発を実現し、他社の靴より滞空時間が長くなって、ストライドが伸びる結果、他社の靴よりも平均で4%タイムが上がるらしい。2時間の4%と言えば4~5分に相当する。
 その意味で、今回、注目すべきは、通算109回目のマラソンとなった川内優輝選手、33歳だった。2時間7分27秒と、念願の8分の壁を破り、自身の自己ベストを8年振りに更新したのは立派だった。これまで薄底シューズで走ってきたが、今回、ナイキではなくアシックスの厚底シューズを採用し、レース後、「こんなことを言うのはあれなんですが、厚底に変えたのが大きいのかなと思う」と正直に振り返っていた。勿論、結婚して(おめでとう!)食餌制限してくれた内助の功も忘れてはいけないのだが、テクノロジーの進化を実感する言葉として、印象に残る。
 私も、高校時代、電車を乗り継ぎ、憧れの「ハリマヤシューズ」を買い求めて(あの金栗四三さんと東京・大塚の足袋店ハリマヤの合作)、「最高」だと信じて愛用したものだったが、今思うと、地下足袋以外の何物でもない(笑)。他にも、栄養食の進化(私は25年前の初マラソンのときは、腰にバナナをぶら下げて走った 笑)や科学的トレーニングの成果もあるだろう。記録は破られるためにあるということに対して、こうして考えてみると、なかなか複雑な気持ちになるが、昔と今を比べるからそう思うだけで、今、同じ条件で競い合う選手たちに罪はない。
 ・・・などと、さんざん水を差しておいて何を今さらだが、恵まれた才能は羨ましいし、それを活かす努力は素晴らしい。やっぱりスポーツって、ホンマにええもんやなあと思う(テレビの映画番組で「いやぁ、映画って本当にいいものですね」と締めていた映画評論家の水野晴郎さんの口調をイメージして)。
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