山の鼻小屋に1泊して尾瀬ケ原の草紅葉を見に行った。台風の影響か予報は曇り、のち雨。てんくらもcマークが続いた。6月に小屋を予約済で今更変更もできない。思い切って計画を実行、すると奇跡が起こった。6日の日曜日はあがりの曇り、7日はさわやかな秋空が広がった。もう高齢で小屋泊まりも最後という考えでグループを2班に分け、早朝に至仏山に登る4名と脚のに自信のない尾瀬ヶ原散策グループが8名。一番驚いたのは人出の多さだ。家族連れ、ツーリズムの団体、若い人たち、外人客(欧米系)などなど。すれ違う人、追い越していく人、狭い二本の木道は鳩待峠から山の鼻まで、その先も延々と続いている。聞けば、尾瀬の植生を守るための道らしい。これほどの人が原のなかに道をつくると貴重な尾瀬の植生はたちまち失われてくらしい。
草紅葉は今年の秋の暑さで思ったより進んでいない。だが、今回の散策で夕方の曇りと朝日の当たる早朝の紅葉の景色を比べることができた。夜露をふくみ朝日をあびる尾瀬ヶ原の景観はみごという形容のほかにおもいつかない。近景から遠くにいくにしたがって紅葉はグラデーションをかけたような変化が見える。池塘が点在する地点では水面に映る雲と逆さ燧がくっきりと。日本山岳会の創始者のひとりである武田久吉は昭和4年同じ尾瀬ヶ原の山の鼻で秋の景観を堪能した一文がある。
「朝日は至仏山の頂を照らしていた。しかし春と違って、鳥の声ひとつしない尾瀬ヶ原の秋は、静寂の極である。輝く旭日にシラカバの幹は白銀の如く光り、緑濃いカラマツの梢は、エメラルドの新緑美こそないが、晴れ晴れしい色で、もう赤味がかった原の草と、美しい対照をなしている。すがしい朝の気分。きのうの薄暮とは全く趣が変わって、日崎山の頂をかすめて飛ぶ白い雲にも活気がある。」
今から百年近くも前にみた武田久吉の景色と、今見る景観には同じ感触がある。この自然を守る東電や自治体の努力がそのことを実現させてくれている。遠い山には行けない体力のなって、最後の希望がこの地の再訪であった。秋の紅葉めでながら自然美を堪能することで、自分の思い出のしめくくりとなる。