屋根の雪がなくなり、辺りは霞がたちこめ、春らしい朝の景色が広がっている。この春、なにかとイワシのニュースが報じられる。三宅島の海岸の砂浜に、600mもの幅で大量のイワシが打ち上げられた。このところ福島沖付近で、10年前の東日本大震災の余震とみられる地震が頻発しているが、海の変化で、イワシの群れが異常行動を起こしたものらしい。2月10日ごろには、愛知県の知多の豊浜海岸で、時ならイワシの大群が押し寄せ、これを釣ろうと、釣り人がおしかけた。小一時間で、600尾ものマイワシを釣りあげた人もあった。
わが家では、ほぼ毎朝、イワシの丸干し、メザシを食べる。最近は冷凍技術が進んで、生干しを冷凍して箱入りで市販している。以前のメザシのような塩気でなく、薄塩で美味だ。イワシには、オメガ3が豊富に含まれている。肉などの脂肪酸の濃度を薄める効果があり、成人病を癒す食材として取り入れている。さらによいことは、魚には精神エネルギーを増やし、やる気を起こしてくれる。
独り焼く目刺や切に打返し 篠原温亭
この句の時代は炭火に網をのせて焼いたであろう。孤独な老人の生きざまが伝わってくる。わが家では、ガスコンロのグリルで焼くが、少し目を離せば焼けすぎてしまう。焼け色を見ながら、こまめに魚を返す作業は、作者と同じだ。
イワシは日本人に親しまれた魚だが、この魚ほど豊漁と不漁の歴史をくりかえしてきた魚も珍しい。明治時代は20万トンから30万トンの漁獲量で低調であったが、大正から昭和になると増加に転じ、昭和7年には170万トンも大豊漁のピークを迎える。日本人が元気旺盛であった時代と、イワシの漁獲量は微妙に同じ曲線を描いているように見えなくもない。不漁が言われて久しいが、この春の大量のイワシの接岸は、豊漁時代へと転換していく兆しであろうか。