
今日は啓蟄、冬ごもりしていた虫が戸を開いて動き出す季節を言う。春雷が鳴り、農作業が始まる。そういえば、2ヶ月以上も畑の様子を見に行っていない。薄雲から日差しが、地面を温めている陽気で、啓蟄とはよく言ったものである。部屋のなかにも、小蠅のような虫が飛び始めた。
穴出でむ虫のほのめきあきらかに 阿波野青畝
『礼記』の月令に、「獺魚を祭る」というのがある。獺はイタチ科の哺乳動物で、水中の生活に適した生態を持っている。二ホンカワウソは、かって日本全国に生息していたが、乱獲や生活環境の激変で、絶滅が宣言された。水中で、ザリガニや魚を食べるが、獲った魚を食べる前にずらりと並べる習慣がある。獺祭魚というのは、この季節に獺が魚を獲ることを知り、人も魚を獲り始める季節になったという意味を持っている。
正岡子規は自分の書斎をを、獺祭書屋と名付けていた。病を得てから、子規は病床のまわりにまるで、魚を並べるように書物を置いたことからこう呼んだのであろう。身体が自由のきかなくなった子規は、筆をとるのも、本を読むのも、食事をするのも全て病床のなかであった。読みたい本を、病床のまわりに乱雑に置くのは、病体のなせるわざであった。