長野県の姥捨山には、文字通り年老いた母を捨てる伝説がある。深沢七郎の『楢山節考』はこの伝説から想を得た小説であるが、本来の伝説は背負った母を捨てきれずに連れ帰る話である。母が70歳を超えたので、息子は母を背負って山に向かう。山道で、母は芥子の種を蒔いたり、丸めた草を捨てるなどして目印をつけている。不審に思った息子は、なぜそのような道しるべを残すのかと聞いた。
奥山に枝折る栞は誰のため身をかきわけて生める子のため
こんな歌を詠んで答えた。自分が助かろうと思ってしているのではありません。身を痛めて産んだわが子が道に迷わないように、道しるべをつけている。これを聞いて母の慈愛に感動した息子は、母を捨てることができずに帰って来た。いわば、孝行息子の話となっている。山村で食べ物が十分でない地域にこの姥捨てという風習は、地名で残っている。
天童市の東の山地にじゃがらもがら山があり、小国には蕨野に残る伝説が、「わらび野行」という映画になった。天童のじゃがらもがらは、山で泣いている老人たちの泣き声が聞こえぬように
村人たちが、古いぶりき鑵などをジャンガラ、モンガラと打ち鳴らしたことから名づけられたと言い伝えられている。一人暮らしの老人が、誰にも知られずに死んだと言う話はよく聞く。どのように死んでいくか、古くてまた新しい問題である。
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